11月9日
この日に生まれた奇跡を
私と出会えた奇跡を
感謝しよう
1 1 月 9 日
お昼休み。学校の屋上で、私とカズは二人だけの誕生日パーティーを開いていた。
カズのお弁当を作るのはもちろん、デザートに小さなケーキ。
大きなケーキは今夜カズ邸で行われる九州選抜主催の誕生日会で食べることになっている。
その前に二人だけで祝っておきたいということで、こうして屋上に来ていた。
「誕生日おめでとう、カズ」
「おう、ありがとう」
「これ、プレゼント」
私があげたのはニットの帽子。もう冬だし、やっぱりカズといえば帽子。いつもそれじゃ寒そうだから。だけど、試合でニットの帽子なんて着たら笑われそうだから、私服用ってことで。
最初はものめずらしそうに見ていたカズだけど、迷彩帽をとって被ってくれた。うん、やっぱりよく似合う。鏡を渡してあげると、本人も照れくさそうに笑っていた。
「気に入った?」
「ちかっぱ温かとぜ。ありがとな」
どういたしまして、と笑うとカズもつられて笑顔になった。なんかこういうの、いい感じだなぁとか思う。
ケーキも食べて、二人で横になる。屋上に吹く風はとても気持ちよくて、思わず眠ってしまいそう。
隣に横たわるカズの手を握った。暖かくて大きな手。この手でカズはゴールを守ってるんだね。
そう考えると、とっても貴重な気がして、その手をつなげることが嬉しくなった。
「カズー」
「んー?」
「11月9日ってね、野口英世の誕生日なんだって」
「そうなん?俺、科学の成績悪かぜ?」
「それでも私よりいいじゃん」
「のは論外たい」
「さりげなくひどくないですか?」
「そか?本当のこつやろ?」
言い返せないことがひどく悔しい。だけどいいんだ。いつか頭よくなってやる。カズに教えてもらおう。
野口英世は小さいころの火傷の所為で、いじめられていたと聞く。
手が開かなかった野口英世。それに対して、手を使ってサッカーをしているカズ。
科学において優れた才能を持っていた野口英世。サッカーで無失点記録を持ってるカズ。
同じ誕生日に生まれたのに、なんだか正反対で不思議な感じがした。
「ねー」
「んー?」
「もしさ、カズの手が開かなかったらどうしてた?」
「俺ん手が?」
「そう、カズの手。それでもやっぱりサッカーやってた?」
「そげんもん、俺の手は開いちょるけん、わからんと」
「そうだよねー」
「そうだー」
ごろんと、カズのほうを向く。仰向けに寝転がってるカズの横顔は整っていて、凛々しかった。
女の私より綺麗なんじゃないの?それってずるい。
頭も私よりよくて、顔も綺麗で、スポーツもできる。ちょっとでいいから、その才能分けて欲しいよ。
「ー」
「んー?」
「野口英世は手が開いちょったら、サッカーしてたと思うか?」
「野口英世がサッカーか・・・・。可能性はあったんじゃない?」
「アホ。なっとるわけなかろうが」
「なんでよー」
「そのころサッカーなんてまだ知られとらんやろ」
「そっかー」
「そうやー」
なるほどね。サッカーは知られてなかったんだ。そうか、そうか・・・。
それってなんかさびしいね。サッカー知らない世界に生まれてたら、カズは何してたんだろう。
「カズー」
「んー?」
「もしカズがサッカーの何世界に生まれてたらどうしてた?」
「そげん世界なか」
「野口英世の世界はなかったんでしょ?」
「あんなぁ、俺は世界一のGKになる男ぞ?」
「知ってるー」
「それやから、神さんは俺をこの時代に産み落としたんや」
「すっっっっっごい自信家!」
「お前も知っとろうが」
「確かに」
二人で笑いあう。青空に響く笑い声は、空高く響いた。
「それにな・・・」
「んー?」
カズも私の方を向いた。横になりながら眼と眼が合う。これもなんか、不思議な感じ。
「と会うのも、神さんが決めたことやけん、逆らえんかったとよ」
「・・・・神様、ありがとう?」
「そやな」
にっこり笑ってカズは言った。恥ずかしいことをさらりと言ってのけるこの男を、私はたまに尊敬してしまう。
女としては、神様が決めたことなんて最高のくどき文句。これ以上嬉しいことはない。
「神様ー!」
私は大声で叫んだ。お腹のそこから、きっとこの空の上にいる神様に向かって。
「カズをこの時代に授けてくれて、ありがとー!!!!」
「どういたしましてー!!」
カズも一緒になって叫んだ。神様役?それじゃあ、まるで交信者だよ、カズ。
それからまた二人で笑った。
ずっと、いつまでも
この笑い声は
神様にも聞こえてるのかな