違う歩幅でも
私に合わせてくれる
そんなさりげない優しさが
世界で一番
大好きだった
相合傘
梅雨。まだ五月なのに、雨ばかり降るこの季節。
五月晴れという言葉はどこへ行ってしまったのやら、本当に毎日雨ばかり降る。
そんな日は学校へ行くのも億劫で。でも行かなくちゃ愛しの一馬に会えないわけで。
だからお気に入りの傘を差して今日も道を歩く。
じめじめした空気は妙に暖かくて逆にイライラした。
今日は土曜日。それなのに、なんで学校へ行かなくちゃいけないのか。
「」
不意に後ろから声をかけられ、振り向くとそこにいたのは愛しの彼氏、一馬。
青い傘はまるで日本代表のユニフォームのよう。U―14の彼は何回そのユニフォームを着たのだろう。
「おはよう一馬。愛してる」
「・・・お前真顔でよくそんな恥ずかしいセリフ言えるよな;」
「ホントのことだもん。今日はずいぶん早いね、どうしたの?」
私はこう見えてもサッカー部のマネージャーをやっている。
一馬は公式試合に出られないから部活はやってないけど、昼休みによく友だちとサッカーをやっていたから昔からよく見てた。
それで惚れたなんていえないけど。だって、サッカーやってる時の一馬はいつも以上にかっこいいから。
朝練のため、7時過ぎには学校についている私とは違って、一馬は一般生だから8時に学校につけばいい。
なのに、今日は私と同じ時間に登校している。珍しい。
「サッカー部のやつらにポストプレー教えてくれって言われたんだよ。ったく、めんどくさい・・・」
「そう言いつつ顔がにやけてますけど?」
「そ、そんなことねぇよ」
「またまた、ホントは嬉しいくせに」
顔を真っ赤にして傘を持ち直した一馬をみて、私も可愛くてつい笑ってしまう。
可愛いなぁ・・・そしてなにより愛しい。
でも、この雨だ。朝練あるのかな。
連絡来てなかったけど、今日はいつもより早めに出たから連絡回ってこなかっただけかも。
これで朝練なしとかだったらお笑いだなぁ。
ま、朝から一馬に会えたからいっか。
練習なかったら、帰ればいいだけの話しだし。
休日練のいいところは、学校がないってことだよね。
昨日のスポーツ番組の話をしながら学校へつくと、やっぱり門は閉まっていた。
もしかして・・・ない?なし?え、ないわけ?
幸い鍵はかかってなかったので、一馬に門を開けてもらって中へ入る。
雨にぬれたグラウンド。水溜りにうつる空は相変わらず不機嫌だった。
「なんか・・・異様な雰囲気だな」
「そうだね。こんなに人がいないグラウンドも、なんかね」
しばらく立ち尽くしていると、鞄がブルブルと震えた。ケータイだ。
雨にケータイがぬれないように気をつけながら届いたばかりのメールを見ると、そこにはキャプテンの名前が記されていた。
「げっ」
「どうした?」
「今日練習休みだって」
「やっぱりな」
そりゃそうだよね。雨強いし、天気予報じゃ明日の朝まで降り続くって言ってたし。
あーあ、早起きして損した。
「どうする?一馬」
「うーん・・・そうだな。とりあえず、俺ん家来るか?」
「行っていいの?」
「何回も来てるだろ?」
「そっか。一馬、愛してる」
「だから・・・まいっか。俺もだし」
あ、そうだ。一回やってみたかったことがあったんだった。
私は振り返って先に歩いてしまった一馬を追いかけた。
そして、隣に並ぶと、すぐに自分の傘を閉じる。
「ん?何してんだ?濡れるぞ?」
「こうやったら濡れないでしょ?」
一馬の腕に自分の腕を絡みつけ、そっと肩に頭を乗せる。
一馬の顔は見えないけど、きっと真っ赤なんだろうなぁ。可愛い。ホント可愛い。
ゾクに言う相合傘。
これは一回やってみたかった。
案外いいもんだね。これも。
「」
「なに?」
「あ、愛してる・・・」
「私もだよ、一馬」
私の肩に回された手は、暖かくて心地よかった。
並んで歩く嬉しさ。このときがいつまでも続いていけばいいと思った。
これから先も、ずっとずっと隣で歩いていきたい。
一馬と一緒に歩いていきたいから。
また、相合傘しようね。
雨の日も悪くない。
久しぶりの雨
花月
