誰も愛してくれないと思ってた
誰も信じられなかった
自分ひとり
他人は他人
そうやって生きてきた
胸が痛むのは気のせいだ
だって私は
誰にも愛してもらえぬ存在
愛する資格
私の中にはもう一人の私がいる。
私が甘い考えをすると、制するもう一人の私が。
私を好きだと言ってくれる人はたくさんいた。
それでも、私は誰も信じない。
誰も愛さない。
何よりも、自分自身を愛せなかった。
こんな私、誰が好きになってくれるというの。
ただいたずらに身体をもてあましているだけ。
心の中を見てくれる人なんて誰一人としていなかった。
私の身体が好きなんでしょう?
身体だけ手に入ればそれで充分なんでしょう?
そんなのいくらだって差し出してあげる。
こんな安っぽい身体、いくらだって弄ばせてあげる。
そうしていくうちに、私の心は死んでいった。
生きる屍。それはまさしく私のこと。
感情なんて、一時の気の迷い。
好きなんて感情、私にはいらない。
私の心を殺したのは、誰の所為?
知っていた。誰も私を愛してくれないことくらい。
助けてなんて言わない。
だってそれは私が決めた生き方だから。
あの人が私の前から姿を消した時、全てを悟った。
いらないと。私なんてこの世に必要ないんだと。
だから・・・だから。
私は誰も愛さない。
「」
夜の街。ネオンが輝くこの街では、星の光さえ届かない。
そんな寂しい街角で、私は不意に声をかけられた。
振り向くと、そこにはスポーツバックを下げたクラスメイト。
真田一馬。
私の席の、隣に座る男。
「なんでこんなところにいるんだ?一人か?」
「あんたに関係ないでしょ」
そう言って立ち去ろうとした私の手を、一馬はすばやく掴んだ。
風が私の髪をなぜる。
一馬の目が、私の目を見つめた。
痛いくらいの視線に、自然と目を逸らす。
彼の綺麗な瞳は汚い私の瞳を濁す。
生ぬるい世界で生きてきた一馬には到底わかるはずもない。
私の生き方。私の考え方。その全てが。
誰も信じない。誰も愛さない。
なのに、彼の瞳は私の心を揺さぶった。
なぜかはわからない。
ただ、一馬の目を見ていると涙が溢れそうになった。
助けを求めそうになる。
すがりたくなってしまう。
そんなの、一馬にとっては重荷でしかないのに。
そうしてしまいたくなる自分が、とてつもなく嫌だった。
「送ってく」
「いいから離して!」
怒鳴った自分の声が、やけにはっきり聞こえた。
違う。こんなことを言いたいんじゃない。
けど、言葉は勝手に私の考えと違うことを発していた。
「・・・・お前最近どうしたんだよ。悪い噂、聞いたし」
「私の勝手でしょ。一馬に迷惑かけた覚えはないわ」
「・・・売り、してんのか」
誰から聞いたのか、その事実を一馬はためらいながら口にする。
その通りだった。
身体を売ってお金をもらう。
誰にも迷惑なんてかけてない。
むしろいいことをしているくらい。
男の人を喜ばせて、その代わりにお金をもらう。それのどこがいけないことなの?
みんな私の身体だけを求めてくる。
心なんて見てくれはしない。
余計な期待がない分、よっぽど楽だった。
愛情なんて感じない。
だって、そんなの必要ないもの。
痛いのも、辛いのも我慢して、毎晩身体をゆだねる。
寂しいのなんて気のせいだから。
寂しがる資格なんて、私にありはしない。
「本当なんだな」
「・・・そうよ。だからなんなの?私に説教でもするつもり?」
「やめろよ、そんなこと」
「なんで?一馬に――誰に迷惑かけたっていうのよ。放っておいてよ!」
「迷惑かけなきゃ何やってもいいのかよ」
「当たり前でしょう。私が選んでやってるんだから」
「警察に、捕まるぞ」
「脅しのつもり?上等だわ。警察にでもなんでも、突き出してみなさいよ」
もう、一馬の目なんて見れなかった。
汚い。こんな自分、見られたくなかった。
何も言わない一馬。けれど、私を掴むその手だけは離さなかった。
「・・・・・・・離して」
「嫌だ」
「離して!」
「このまま離したら、もう・・・戻ってこない気がするから」
私を繋ぐのは、一馬の手だけ。
この綺麗な手だけだった。
どうして私に構うの?
どうしてそんな顔するの?
哀れむでもなく、怒るでもなく。
ただ私の掴んでいる。
彼の元へ行くには、私は汚れすぎた。
綺麗なあなたを汚い私じゃ、世界が違いすぎる。
一人で生きてくって決めたから。
でも、その決意を一馬の存在が揺らがせた。
「なんで、売りなんてやってるんだよ」
「・・・・・・・・・・」
「答えろよ、」
一馬はしっかりと私の目を見つめた。
それでも私は目を逸らす。
もう、全て話してしまおうか。
でも話してどうなる?
何かが変わるというの?
一馬が私を愛してくれるというの?
否、そんなことはない。
私は誰にも愛されない存在。
今までも、そしてこれからも。
そのままでいいの。
私は誰にも愛されない。誰も愛さない。
私が傷つかなくてすむ、唯一の方法。
もうあんな思いはしたくない。
だから離して。
気持ちが揺らいでしまうから。
「どうしろって・・・いうのよ」
「え・・・」
「私にどうしろっていうのよ!人に愛されない私に、どうしろって・・・!」
私は、夢見ていたのかもしれない。
また誰かに愛される日を。
いくら好きだって言われたって、そんなの所詮口だけ。
本当に好きかどうかはわからない。
人の心は汚い。
でも、それ以上に汚いのは――
私の心・・・。
「あの人がいなくなって、愛する意味が・・愛される意味がわからなくなった・・・・もう、放っておいてよっ・・・!」
「」
「離してよ!離して!」
「」
「私は誰にも愛されない!誰にも・・・っ・・・誰にも愛されないのよ!」
「!」
抱きしめられているとわかるのには、少し時間を要した。
その温かいぬくもりは、私の冷たい身体を温める。
人が見ているとか、そんなの関係なかった。
ただ、そのぬくもりに。
めまいがした。
「愛されないとか、言うなよ」
「なんで・・・」
「少なくとも俺は・・・俺はを愛してる」
一気に一馬の身体を突き放す。
そして、その瞳をにらみつけた。
結局あんたも、他の男たちと同じ。
きれいごと並べて、好きだとか愛してるとか言って、身体を求めるんでしょう?
私の身体が目的なんでしょう?
「大嫌い!」
「・・・」
「そんなこと言って、最後は私を捨てるくせに!身体だけが目的なくせに!」
「そんなこと・・・」
「ないって言い切れるの!?一馬だって、他のやつらと一緒じゃないっ・・」
「違う」
「こんな汚い私なんて、誰も愛してくれないのよ!」
「違う!」
一馬の目から、涙がこぼれた。
私はどうすることもできなくて、ただ立ち尽くすだけ。
なぜ、泣いているの?
私の・・・ため・・?
「汚くなんて、ない。誰にも愛されないわけなんてないんだよ!」
「・・・・・・・・・」
「俺はを愛してる。これからも、ずっと愛していく」
「嘘・・・」
「嘘じゃない。全世界の人がを愛さなくても、俺は愛してるから」
「っ・・・」
「だから・・・そんな辛そうな顔するなよ」
今度ははっきりと、抱きしめられているとわかった。
ねぇ、一馬。
私、愛されてもいいの?
こんな私を、愛してくれるの?
神様。ごめんなさい。
でも、一つだけお願いがあります。
私に人を愛する資格をください。
一馬を愛する資格を・・・。
「愛してるよ、」
「か、ずま・・・っ・・・!」
私は一馬の腕の中で泣きじゃくった。
今までの辛さを寂しさを、全て清算するように。
愛されることなんて、愛することなんて、ないと思ってた。
それでも今、私は一馬を愛してる。
この事実に、ただただ涙が流れた。
『愛してる』
この世で一番嫌いな言葉。
でも、今の私が一番――
欲しかった言葉。
衝動で書き連ねました。
無駄に長くて意味不明・・・。
花月
