大好きなあなたが死んで








私はようやく気付いたの








あなたがいなきゃ、こんな世界








まったく意味がないってことに










































































あなたに捧げるレクイエム



































































西日の射す病室。白い布を顔にかぶせられた一馬は、もうピクリとも動かない。

どんなに名前を呼んでも、どんなに身体をゆすっても。

一馬が私の名を呼ぶことは、私の身体に触れることは










もう二度とない。










ついさっきまで一緒にデートしていたのに、なんでこんなところで寝ているの?

めずらしく一馬のほうから誘ってくれたデート。せっかく、楽しい思い出たくさんできたのに。

買い物して、映画をみて、アイスを食べたりもした。

軽く頬を赤らめながら、手もつないでくれた。

帰りがけには優しいキスもしてくれた。

なのに、それなのに。

今、一馬はこうして横たわっている。

その手はどこまでも冷たくて、どこまでも重たい。

さっきつないでいた手はこんなんじゃなかった。

もっともっと暖かくて、優しい。そんな手だった。




「一馬」




静かに名前を呼んでみる。

無意味だって分かってた。だけど、どうしても信じられない。

だってそうでしょ?はい、そーですか。って簡単に信じられると思う?









全てを受け入れられるほど、私は強くない。










「一馬」





むなしく響く私の声は、すぐに消えた。

涙は出ていない。だって、まだ信じてないもん。


このままずっと待ってたら、痺れを切らした一馬がひょっこり起きてこないかな。


それで、少し顔を赤くして、少しむくれた顔をして


「なんでひっかかんないんだよ」って


言ってくれないかな。


そうなれば、私は一番嬉しいのに。
















だんだん日が傾いてきた。少しずつ薄暗くなる病室。

夜になれば、幽霊でも出るんだろう。

幽霊でも、なんでもいい。今はただ、あなたに会いたい。

それまでずっとここにいようか?










‐歌が 聞きたい‐










ふと、頭に一馬の声が聞こえた。

昔、一馬が風を引いてお見舞いに行ったとき言われた言葉。

本人は覚えていないだろうけど、私はその日ずっと歌い続けた。

ずいぶん幼いころだから、まだたどたどしい声で、必死に歌った。













あぁ、そうだ。歌を歌わなくちゃ。












私は屋上に上った。少しでも近くで、私の歌を聞かせたい。

そうすれば、きっと一馬も帰ってくるはず。






愛しいあなたよ どうか、私の傍にいて




いつまでも いつまでも




どうか私の傍にいて










屋上だけじゃだめ、もっと上まで行かなくちゃ。

でも、どうやったら上に上れる?

どうやったら、一馬の近くに行けるんだろう?







愛しいあなたよ どうか、私の傍にいて





健やかに 健やかに





どうか私の傍にいて







目の前に広がる、都会の風景。

空に、うっすら星が光る。

あの星のどれかひとつは、一馬の星なんだよね。










あの近くに、行きたいな。










愛しいあなたよ どうか、私の傍にいて




安らかに 安らかに




どうか私の傍にいて









なんだ、簡単なことだ。

一馬のところへ、行くのなんて簡単だ。

だってほら。あなたはこんなに近くにいるんだもの。

待ってて一馬。今、あなたの傍に行くから。










そして私は星になった。










愛しいあなたよ どうか、あなたの傍にいさせて






永遠に 永遠に





いま、そちらへ参ります――






復帰第一作目がコレです;すみません。

花月