どこまでも広い草原で傷ついた一匹の蝶を見つけた。


赤い羽根を持った蝶は今にも死んでしまいそうなほど弱っていて。俺はその蝶を優しくすくい上げると近くにある小川の水を飲ませてやった。


すると蝶は嬉しそうに俺の周りを飛んで、まるでお礼を言われているようだった。


それからしばらく、俺はこの蝶と時を共にした。「」という名前をつけて、いつも遊んでいた。


そんなある日。蝶は俺の頭上高く舞い上がって七色に光り、こう言った。






-このご恩は忘れません。もし貴方がずっと私を覚えていてくれるなら-


















-10年後、またこの場所で会いましょう-





















蝶は消えた。跡形もなく。



それ以来、俺があの草原に近づくことはなくなった。

















































































あの場所で































































「一馬?何ボーっとしてんだよ」

「え?あ、悪ぃ」

ユースの帰りに寄ったマックで俺達はいつも通りサッカー談義に花を咲かせていた。

練習の疲れをとるにはこういう一見無駄とも思える時間が大事だ。何よりこの二人といるときが一番楽しい。

でも、今日の俺はどこか変だった。何か、大切なことを忘れているような気がして、どうも落ち着かない。案の定、プレーにもキレが無かった。

「なんかあったの?」

英士が心配そうに俺を見る。隣にいる結人も不思議そうな顔をしていた。

「夢を見たんだ」





それはとても不思議な夢だった。



広いのか狭いのか、遠いのか近いのか、よくわからないような空間に一人の男の子が立っていて。



その前に髪の長い女が浮かんでた。



何かを話していたようだったけど、全然思い出せない。ただ一つだけ分かるのは、赤色。



女の髪。燃えるような―――赤





「いつからそんなにファンタジックになったんだ?」

「ホントだって!マジで見たんだよ!」

「はいはい。それで、その夢がどうしたって?」

「・・・・・・・・・・・わかんねぇ」

「「はぁ?」」

見事にハモる親友二人。さすがはMFコンビ、息もぴったりだ。

「わかんないってどういうこと?」

「なんか胸に引っかかってるような気がして、忘れられないんだよ」

「変な夢みたから、印象的だっただけじゃない?」

「ロマンチストだねぇ、かじゅまくんは♪」

「からかうなって!!もういい、今日は帰る。お先」




鞄を引っ付かんですぐにその場を後にした。後ろから結人が呼び止める声を聞いたけど、あそこにいる気分じゃなかった。

暗い夜道を一人で歩く。通り過ぎる風はもうすっかり秋のものだ。









-一馬さん-










誰かに呼ばれた気がして、足を止める。しかし、振り返っても誰もいない道が続いているだけ。

「気のせいか」

やっぱり今日の俺は変だ。早く帰って寝よう。明日になったら、きっと忘れてるだろ。

時計を見ると、すっかり遅い時間になっていた。俺は少し早く歩く。そうすれば、ちょっとはあの夢を忘れられると思ったから。

家について、玄関のドアを開けようとしたとき、一枚の手紙が落ちているのを見つけた。

手紙には宛名も差出人の名前も書いていない。いたずらかと思ったけど、気になるからとりあえず開けてみた。













あの場所でお待ちしています













手紙には一言、そう書いてあった。

あの場所?何のことだ?














-一馬さん-













またあの声。今度は確かに聞こえた。聞き間違いなんかじゃない。

あの場所?そうか、思い出した。確か今日は――









俺はすぐに走り出した。時間は11時50分。まだ間に合う。

幼いころの記憶だけを頼りに、裏道を通って風のごとく走った。

あんな大事な記憶を忘れるなんて、俺もどうかしてる。

間に合ってくれ、たのむ!

――


















行き着いた先の草原には、立ち入り禁止の札がかけられていた。どうやら、もうすぐここはなくなってしまうらしい。


俺は札を通り越して、中へ入る。そこに立っていたのは、赤い髪の少女。


秋の風に揺れる赤。燃えているような情熱の色。俺は目を奪われた。




「一馬さん」




こちらを向いて少女は微笑む。神秘的な美しさを放っていた。


、か?」


俺が口にしたのは、遠い昔に出会った一匹の蝶の名前。赤い羽根が綺麗な蝶。俺が助けた、ずっと昔に消えた蝶。



「覚えていて、くれたんですね」




この世のものとは思えないほど、不思議な声だった。波のように輪となり伝わってくるような。


、お前はどうして・・・」


「一馬さん」


俺の言葉を遮って、は静かに俺の方へ近づいてきた。



冷たく白い手が、頬に触れる。



「ありがとう、ございました」


?」


「ここはもうすぐ無くなってしまうそうです。だから・・・」













「さようなら」













次第に消えていくの身体。微笑んだまま、彼女は静かに泣いていた。



・・・!」



名前を呼んでもが答えることは無かった。ただ黙って笑っているだけ。




































































あ い し て い ま す































































そう、言った気がした。




それと同時には消えた。空に舞う、一匹の赤い蝶と共に。












なぁ、。もしかしたら、俺の初恋はお前だったのかもしれないな。


ずっとずっと、想っていたのかもしれないな。


助けてあげられなくてごめん。


そして、ありがとう・・・


























-このご恩は忘れません。もし貴方がずっと私を覚えていてくれるなら-






















-10年後、またこの場所で会いましょう-







意味不明ドリームです。突然描きたくなりました。

ってか、私の書く英士は女口調っぽい・・・?

花月