夏
それは私にとって
鬼門以外の
何者でもなかった
ある夏の日
ようやく梅雨も明け、暑い日が続くある夏の午後。
クーラーの利きが悪い部屋を出て、近くのコンビニへ足を運んだ。
蝉がけたたましく鳴いている。
太陽が照りつける夏らしい天気の下、自転車をこぐのも億劫になってきた。
なんの変哲もない、日曜日。
そんな日は、ある一人の人物によって打ち崩された。
コンビニのドアを開けようとしたその瞬間。
後ろから急に抱きしめられた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暑いんですけど」
「うるせぇ。こっちだって暑いんだよ。なんとかしろ」
「それなら簡単。私から離れればいいのさ」
「それは無理」
「いいから離れろ!」
「やなこった」
抱きついた犯人はすぐにわかった。
だいたい私に抱きつくなんて変わった人、一人しかいない。
三上亮。私の彼氏。
「あーあちぃ」
「だから離れれば少しは涼しくなるってば」
「そんなに離れて欲しいか?」
「うん。そりゃもう」
「じゃあジュース奢れ」
「それを人は恐喝と呼ぶんですよ?」
「聞こえねぇな」
わかったから離れてよ、と言うと亮はすぐ離れてくれた。
なんてお手軽なやつ。
二人並んでコンビニに入る。
ちょっと雑誌買いに来ただけなのに、なんで亮のジュースまで買わなきゃいけないんだ。
内心軽く怒りつつ、でも愛しい彼氏のためと我慢してお目当ての雑誌を手に取った。
「お前さぁ。いい加減その趣味止めたらどうだ?」
「なにが?」
「それ。V系雑誌じゃねぇか」
「洋楽しか聴かない亮に、V系の良さなんて一生わからないだろうね」
「揃いも揃って女みたいな化粧しやがって。これのどこがいいんだ?」
「かっこいいじゃん」
「俺よりもか?」(デビスマ)
「当たり前」(きっぱり)
「・・・・・・・・・・・・・・」
軽く亮を打ちのめしたところで、今度はジュースコーナーへ向かう。
不本意だけど、とりあえず亮の好きそうなジュースを選んだ。
「お茶でいいよね」
「ラテがいい」
「わがまま言うとお菓子買ってあげないよ?」
「ったくしょうがねぇな」
ホント扱い安い。
や〜いお茶をかごに入れて、適当にお菓子も入れてレジへと向かう。
「580円になります」
私が財布からお金を出そうとする前に、亮が1000円札を出した。
さっさとおつりをもらって、袋を持ち、コンビニを後にする。
「なにやってんだ。置いてくぞ」
「亮、お金・・・」
「あ?んなもん気にしてんじゃねぇよ」
さりげない優しさに自然と笑みがこぼれた。
不器用な人。
でもそんな彼が大好きだった。
今度はラテ買ってあげよう。
「・・・亮さん。なんでついてくるんですか?」
「んなもん、ん家に行くからに決まってんだろ」
「なんでうちに来るわけ?」
「お前は俺と一緒にいたくないわけだな。わかった、帰る」
「嘘です。是非来てください」
「素直でよろしい」
自転車にまたがって、亮を後ろに乗せて、我が家へ向かう。
「せんぱーい。遅いんですけどー」
「うるさい!なら亮がこげばいいでしょ!?」
「風を感じないんですけどー」
「暴走族かお前は!」
そんなこと言いつつ、ちょっとした坂道でも亮は降りてくれた。
家まで約5分。
亮の温かい体温は、不思議と暑いなんて感じなかった。
「やっと着いたか。遅いんだよ」
「どっかの誰かさんが重いからですぅ。か弱い女の子になんてひどいことを・・・」
「お前をか弱いなんて思ったことは一度もないけどな」
思いっきり繰り出したパンチは軽々と手のひらで受け止められてしまった。
ちっ。効き目なしか。
玄関のドアを開けて、私の部屋へ直行する。
相変わらずクーラーの利きは悪い。少し蒸し暑かった。
「、いい加減クーラー直せ」
「亮がお金出してくれんの?」
「はっ!誰がんなことするかよ」
「なら文句言うなー」
ベッドに座る亮の隣に座って、雑誌を広げる。
今月はガゼットとジャンヌの特集が組んであるから先月から楽しみにしてた。
しかも、ナイトメアの袋とじもあるから。
やっと買えて嬉しい。
「お!俺コイツら知ってる」
亮は軽々と私の雑誌を取り上げて読み始める。
待て!それには私の命より大切な方々が載ってるんだ!
「ちょっと!勝手に取らないでよ!」
「俺の物は俺のもの。のものは俺のもの」
「ジャイアンか!何様のつもりよ!」
「俺様」
「・・・・・・・・・・・」
まぁいっか。亮に私のものを取られるのは慣れてる。
しかし、次の瞬間。
私はついにぶちキレることとなった。
「あーーー!!!!!!!!!!!!!」
「なんだよ、うるせぇな」
「なに袋とじ開けてんのよ!楽しみにしてたのに!」
「だから、のものは俺のものだって」
「言い訳になってない!」
もういい。わかった。
そこまでするならこっちだって考えがある。
「おい!」
亮の制止も聞かず、私は亮のや〜いお茶を一気に飲み干した。
へへ、どうだ。思い知ったかジャイアンめ!
「へぇ・・・。お前そういうことするんだな?」
「な、なによ・・・」
「覚悟、出来てんだろうな・・」
「え!?」
亮は雑誌を投げ捨て(投げんな!)私をベッドに押し倒す。
ま、まさか・・・。
「あの、亮さん?」
「仕返し」
うわぁ〜!
仕返しって、被害受けたの私なんですけど!?
その後、亮においしくいただかれた私は
罰としてや〜いお茶を買いに走らされました。
だから被害受けたのこっちなんだってば!
ほのぼのとした日常が書きたかったんです。
花月
