「さぁん。昨日出た宿題、写させて〜」
ダサイ三つ網、黒ブチのめがね。切りそろえられた前髪。
「さん。今日の掃除当番、変わってくれない?」
いつも俯いて、人と目を合わさない。
もちろん友達なんていないから、いつも休み時間は本を読む。
完璧なる、地味人間。
CHANGE!
「ふぃ〜〜…」
私以外誰もいなくなった教室で、一人ため息をつく。外から部活に励む青春の声が聞こえてきた。
地味に、真面目に、より暗くがモットーの私は、もちろん部活なんか入っていなく、図書委員という真面目な委員会に所属しているだけだ。
私だって、ホントは部活にも入りたいし、友達もたくさん作りたい。だけど、できないんだよね〜これが。
小6のときに友達(っていうかクラスメート)の彼氏が告白してきて、どういうわけか私が悪いってことになった。
そして、まぁお決まりというかクラス全員からシカトされるという残酷な仕打ちを受けたわけ。偶然親の転勤が決まっていて東京の中学校に進むことが決まっていたから、私は小学生時代の苦い思い出を繰り返さないように、ある一大決心をした。
誰もよりつかないような人になろう。
そうすれば、2度とこんな悲劇は起こらない。友達もできないし、全然楽しくないとは思うけどあんなひもじい思いをするくらいより数倍マシだ。
そして入学してからずっと、三つ網にメガネに標準の制服を着つづけて今にいたる。
いやぁ、こうも上手くいくとは思わなかったなぁ。地味になる努力を重ねて、友達が一人も出来ずにとうとう中3。あと少しで卒業です。
私が必要になるのは宿題を見せてくれとか、変わりに仕事をやってくれみたいな時だけ。もちろん嫌なんて言えるはずもなく、いつも即答でyesな返事。
今も、代わりと頼まれた掃除がやっと終わったところだ。あいつら、私に全部押し付けて全員帰りやがった!全員分代われなんて聞いてないよ!
ふと、目の前の窓に映る自分を見る。だっさー。ホント、完璧だわ。涙がでちゃうよ。人間やれば何でもできるんだね。昔はあんなにバカやってはしゃいでたのに。
昔…か。そういえば、中学生になったらとか夢語ってたなぁ。部活入って汗流して、友達もたくさん作って、たくさん遊んで。彼氏も作りたいとか言ってたっけ。
ホントはもっともっと。楽しい生活が待ってたはずだった。やりたいこともたくさんあった。
だけどもう無理だね。もう中3だし。こんな格好じゃ、これから先なんて望めない。
万事休す…ってね。
「あ、アレっ…?」
頬を流れる暖かい雫。もしかして、泣いてる?私。
年取ると涙腺ゆるくなるってホントだったんだ…。いや、泣くなよこれしきのことで。お前が決めたことだろ。止まれ!止まれ!
止まる気配すらみえない涙の所為でメガネが曇った。しかたなく黒ブチメガネをはずす。学校ではずすの初めてかも。誰もいないし、大丈夫だよね。
ぐしゃぐしゃの顔で再び目の前の窓をみると、髪の毛もボサボサ。今日風強かったからなぁ。編みなおさなきゃ。
ウェーブがかかった長い髪。メガネをとってすっきりした顔。これが偽りのないホントの私。
中学生になってから、初めて学校で私を見た。小学生のころの自分がかぶって、思わず見とれる。
「へぇ、けっこうな美人だったんだな、お前」
後ろからありえない声が聞こえた。身体中の血が引いていく。恐る恐る振りかえると、クラスでも人気のある三上亮が立っていた。
「な、ななな…なんでこ、ここ…に!?」
「忘れ物、取りに来た」
ニヤリと口元を吊り上げてこっちを見ている三上は、少し土のついたサッカー部のウェアを着ている。二人の間に冷たい沈黙が流れた。
やばいやばいやばい!!!見られた!よりによって一番見られたくない人に!絶対言うよ、三上。みんなに言うよ〜!どうしよう、今まで積み上げてきた3年間が水の泡になってしまう!Good bye、私の中学人生…っていうか口止め!そうだ、口止めしなきゃ!!何を犠牲にしてもいいから、とりあえずこれ以上地味なイメージを崩しちゃいけない!駆け引きとか得意じゃないけど、この際仕方がない。頑張れ、私!
「み、三上くん…あのぉ、誰にも言わない…よね?」
顔面蒼白だと思う。冷や汗が流れた。三上は笑顔(デビスマだっけ?)を崩さずに腕を組んだ。
「言うに決まってんだろ?こんな面白いもん見ちまったんだから」
このやろっ…!人の苦労を面白がってんじゃねぇよ!こっちだって、好きでこんな格好してるわけじゃないのに!あぁ〜怒鳴りたい。だけどここで怒ったらますますイメージが崩れてしまう。我慢だ。地味に地味に…
「そこをなんとか!何でもするから!」
「何でも?」
「う、うん…何でも…」
三上はさらに口の端を吊り上げた。嫌な予感…;
「それじゃあ、俺と付き合えよ」
…………・WHAT!?何言ってんだこの人は!!付き合、付き合えって…えぇ!!??(←混乱中)
はい、決定。この人変。それでなくちゃ、よっぽど目が悪いんだ。いくらメガネとって三つ網ほどいたからって、そこまで上等な顔してるわけじゃないし…だいたいアンタ、今までの地味な私知ってんでしょうが!!
「あなた、馬鹿?」
「んでだよ!」
「だって、地味だし、暗いし、友達もいない私なんかを…」
「どこが?」
どこがだとぉ!?私の汗と涙の完璧な地味生活をさらっと否定しやがって!
ブチっときましたよ。もう怒鳴らずにはいられない。さぁ!スイッチ、オン☆
「どっからどう見ても地味じゃない!休み時間は一人で本読んでて、部活も入ってなくて、委員会は図書委員だよ?仮にも同じクラスなら知ってるはずでしょ!?こんな奴と付き合うなんてどうかしてる!」
「どうかしてんのはお前だろうが。人の告白、完全に無視しやがって」
「だから!なんで地味で暗い私なんかと…・」
「地味で暗くなんてねぇじゃねーか」
私の言葉をさえぎって放たれた三上の声に、私は言葉を失った。なに?なにが言いたいの?私がこんなに苦労して、地味に目立たなく生きてきたのに。それでもまだ、暗くないって言うわけ?理解、できない。
「なに言ってんの?ここまで完璧に目立たない女、私ぐらいだよ?」
「確かに暗いな。地味だし、なんか薄気味悪ぃし」
「だったら…!」
「俺はお前に告ってんだぜ?」
「今俺の目の前でうっさく声荒げてんのも、『』じゃねぇの?」
心の中で、なにかが揺らいだ。
あぁ、そっか。私はきっと辛かったんだ。ホントは自分を出したいのに、我慢して。自分の心に嘘ついて、他人と距離を置いて、自ら孤独を選んだのに。とっても寂しかったんだ。
だから、嬉しかったんだ。三上に私を見てもらえて。必死に隠してた自分をさらけ出せて、嬉しかった。
やっと見つけた。私自身を。
「ホントは、こんな格好したくないよ」
「友達だって作りたいし、部活だってやってみたい」
「もっともっと、楽しいことしたいの…」
また涙が溢れてきた。今度は止めようとしなかった。いまは泣いていたい。
ふわっと身体が包まれる。全身で感じる温もりで、抱きしめられていると気付くのはそう難しくなかった。
大きな胸板に頬を寄せてみる。土と太陽の香りがして心地よかった。
「変われよ。本当のお前に。俺が、見守っててやるから」
「うん…」
三上は私を優しく放すと、肩に手を置いて私の目を見つめた。黒く、真っ直ぐな目に吸い込まれそうになる。
「俺と、付き合ってくれ」
芯の通った声は私の心に入ってきた。ずいぶん使ってなかった口元の筋肉を使って、私はぎこちなく微笑む。
「はい…」
小さく言った言葉に、三上もまた目を細めた。
もう逃げるのはやめよう。三上と付き合うことでまた昔みたいになっても、私は乗り越えていける。
一人じゃない。愛する人が傍にいるから、強くなれるんだ。
それから私は三上のことを亮と呼ぶようになって。
髪を流して、メガネをはずして。
友達と呼べる人もできて。
全てが幸せになった。
これも全部、三上のおかげ。あの時私を抱きしめてくれた温もりを、愛しく感じる。
今も、傍にいてくれる三上の手を離したくない。
あなたのおかげで、私は変われた。
私のために、変わっていけた。
○おまけ○
三上「やっぱは三つ網にメガネの方が良かったかもな…」
「なんでよ!?」
三上「なんていうか…こうも綺麗になるとは思ってなかった」
「?どういう意味??」
三上「(周りの男共が狙ってんだよ!)」
fin
またまたつまらぬ駄文ドリームをUPしてしまいました。
ホントに文才が欲しいです。
花月
