貴方にはわからないでしょうね
私の苦しみ
私の痛み
でも貴方はそれを
理解しようとしてくれていた
誰も知らない
いつの間にか降り出した雨に、私の身体はぬれていく。
その心地よさに微笑みながら、私は深い森を行く。
手には銃。雨は私の穢れを落としてくれるような気がした。
さっきの放送で、残ったのはあと2人と聞かされた。私の他に誰が残ったのかなんて、わからない。
でも、たとえ誰であろうが関係ない。私は全てを壊しつくす。今までずっとそうだったように、これからも変わりなく。
「まさか最後があんただったなんてね、真田」
私は左腕から血を流してうずくまっている真田を見下ろした。案外しぶとい。てっきり最初のほうでやられちゃってたと思ってた。
さなだはただ私を睨みつけたまま、何も話そうとはしなかった。
結局最後は死ぬんだし、別に話さないままでもいいけど、まだ少し時間があるから、選ばせてあげようと思う。
ちょっとだけ、つまらなかった。命乞いもしなければ、殺せとたんかも切らない。期待はずれもいいところだった。
「銃で死にたい?それともナイフ?」
さっき殺した相手から奪ったアーミーナイフを太もものベルトから取り出し、ちらつかせる。逆の手には銃。どちらも死ぬにはもってこいの道具だ。
真田はそれでも言葉を発しない。つまらない男。クラスでも相当つまらないと思ってたけど、まさかここまでとはね。
「リクエストがないなら、こっちで勝手に決めちゃうけど」
私を睨むその眼。他の人の眼とは違った。強く、それでいて脆そうで悲しそうな。
一瞬だけたじろいたけど、すぐに私は笑顔を取り戻す。
ねぇ真田。あなた、なんで生きてるの?
「じゃあ銃で。そのほうが早く死ねるでしょ?」
楽しそうに弾をセットしながら、私は銃口を真田の額に当てた。
早く命乞いしなよ。早く自らの死を伝えなよ。そうしないと、最後までつまらないままで死んじゃうよ?
「なんで・・・乗ったんだよ・・・・」
やっとしゃべった。でもそれは、私の期待していた言葉とは違う。
私は大笑いしてしまった。はたから見れば狂っているみたいだろう。けど、そんなこと気にしない。
どうせみんないなくなっちゃったんだから。
私が殺したの。みんな、みんな。
「なんで乗ったか?そんなの決まってるじゃない」
「俺・・ずっと探してたのに・・・」
探してた?それはお生憎さま。知ってたよ、真田が私のこと好きだってことくらい。でもね、私の気持ちあんたにわかる?
「勝手に『私』を作られてた私の気持ち、あんたにわかる?」
みんなそうだった。ならできる、なら・・・。私はそんなこと望んでいないのに。
誰も私を見てくれていない。友達もたくさんいた、告白だってされた。でもそれはみんなが思ってる『私』を見て付いてきたもの。
本当の私はこんなんじゃない。だから殺すの。私を知っている全ての人を。私にはまさにうってつけのゲーム。これほど政府に感謝したことはなかった。
「あんたもそうでしょ?ねぇ、真田」
「違う、俺は・・・・!」
真田の眼が一瞬揺れた。今まで私を見つめていた鋭い眼じゃなくなった。
そうだよ、命乞いして。俺は違う、だから許してくれって命乞いしなよ。
みんなそうだったから。私のこと、まるで別人みたいに見てた。
でもごめんね。これが本当の私なの。いい子じゃないのよ。
「俺はずっと・・・を・・・・を見てた」
「だから許してほしいの?結局あんたも他のやつらと同じじゃない」
生きたい気持ちは誰でも同じ。そんなこと痛いほどわかってる。
でもね。私は別に生きたいんじゃないの。ただ、私を知っている全ての人を壊したいだけ。
真田も私を知っているでしょ?こんな女だって知っているでしょ?
だから殺すの。生きたいんじゃないの。
「俺は・・・ただ気持ちを伝えたかっただけだ・・・」
「なんだ、はじめから優勝する気なかったんだ?」
「殺したく・・・なかったから・・・」
「きれいごとね」
「きれいごとでも、俺は殺したくなかった・・・」
そんな言葉、だまされない。私は真田を殺すの。なんで命乞いしないの?
「私には、言えないなぁ。きれいごとなんて」
「どうして・・・?」
なんでさっさと殺さないの?真田は死ぬ気なのに、なんで私は引き金を引かないの?
「こんなに、穢れちゃったから・・・」
真田の眼が、細くなって・・・彼は笑った。
「は充分、綺麗だよ・・・」
あぁそうか。そうだったんだ。
私は真田が好きだった。だから殺せない。だから引き金を引けない。
今までの人全員、私は嫌いだったんだ。だから簡単に殺せた。もちろん、ただではすまない相手もいたけど、それでも出会った人は全員殺してきた。
真田だけは、殺せない。
好きだから・・・。
「ありがと、真田・・・」
私はこんなにも穢れてしまった。
雨にぬれても流れてくれない。血と泥。そしてみんなの魂。
嬉しかったよ。でも、でもね。
「やっぱり私は、あんたを殺すわ」
真田は驚きもせず、悲しみもしなかった。
彼はただひたすらに笑っていた。
そして最後に言った言葉・・・。
「好きだ」
ガゥン!と銃声が森に響きわたった。
私を知る人は誰もいなくなった。でも、そのかわり・・・。
私を知ろうとしてくれる人もいなくなった。
初バト笛。でも意味不明。つまりは狂っていたという事実。
花月
