私たちがすること
ひとつひとつに
無意味なことなんて
ありはしない
円周率
久しぶりに亮の部屋へ来た。同室の渋沢くんは、どこかへ出かけてしまったらしい。気を使わせちゃってごめんね。
というわけで最近忙しい彼氏、亮との距離をうめようと男子寮へ忍び込んだのはいいものの・・・。
「なんでずっとパソコンいじってるわけ?」
「あぁ?」
部屋に来てから早1時間。亮はずっとパソコンで何やらネットサーフィンらしきことをしている。
私、仮にも彼女だよ?それなのになんで?なんで?なんでですかこのやろー!!
「構ってくださいよ、亮はん」
「その微妙ななまりやめろ」
「今方言ブームなんだってさ」
「東京弁だって地方からみればなまりだろうが」
本当に相変わらずのリアリスト。現実主義すぎるんだよ、亮は。もっと夢を持とうよ。夢を。
でもここで亮に「将来の夢は?」なんて聞いたら絶対「将来はプロサッカー選手になることが決まってっから、夢はねぇ」っていうだろうな・・。
なんとかして亮をぎゃふんと(?)言わせて見たい。というわけで、考えてきました。
題して『俺様みかみんをぎゃふんと言わせてみよう大会!』そのまんまなんだけどね・・・。
「亮ー!」
「なんだよ」
「円周率対決しない?」
「はぁ?」
もちろん、亮が円周率を50桁まで覚えていることなんてとっくにリサーチ済み。私はそれを上回る51桁まで覚えてきた。
これはもう、勝つしかないよね。だって亮、50桁までだもんね♪
「じゃあ、この紙に円周率を書いていって」
「っち。しょうがねぇな・・」
嫌そうな顔しながらも、ちゃんと付き合ってくれる亮をかわいいと思いつつ私も自分の紙に円周率を書いていく。
そして約数分後。二人で紙を交換して、お互い何桁まで書いてあるかを見る。すると・・・。
「なんで60桁まで行ってるわけ!?」
「ふっ、俺の勝ちだな」
亮の書いた円周率は60桁。対する私は51桁。なんで?私のリサーチによると、亮は50桁までしか覚えていないはずなのに。
「わかった。ズルしたんだ」
「お前そんなに俺が嫌いか?」
「だって調査と違うんだもん。亮は50桁までしか覚えてないんでしょ?」
「甘いな。俺だって進化くらいするんだよ」
ちくしょー!亮め、人知れず60桁まで暗記してたんだなぁ。こうなれば次の勝負に挑むしかない。
あ、でもちょっと待てよ?確か今の世の中、円周率って・・・。
「ねぇ亮。今の数学って円周率、およそ3って教えてるんじゃなかったっけ?」
「・・・・・・・あ」
「「・・・・・・・」」
つまり私たちがしてきたことって、全くの無駄。おそよ3の時代に円周率60桁とか覚えてる私たちって・・・。
「無意味だよね」
「無意味だな」
「これも全部亮の所為だよ」
「なんで」
「だって・・・構ってくれないんだもん」
両頬を膨らませてちょっと下を向く。だってせっかく遊びにきたのに、ずっとパソコンやってるんだもん。
つまんないから、なんとかして振り向いて欲しくて。
「しょうがねぇな。ほら、こっちこいよ」
パソコンの画面を消して、亮はベッドに腰掛ける。やった!ついに亮をパソコンの呪縛から解くことができた!
ざまーみろパソコン!亮の恋人はこの私、なんだぞ、わかったか!
「なにパソコンに勝ち誇った顔向けてんだよ」
「あ、ばれました?」
亮の隣にちょこんと座って、ちょっと腕なんか絡めてみる。すると亮は優しく手を握ってくれた。
こういうさりげない優しさが好き。そっけなくても、ちゃんと愛してくれてるってことがわかるから。
少し高い位置にある亮の顔を見上げると、なんだよ、っていう照れくさそうな声が返ってきた。
「やっと恋人らしい感じになったね」
「なんだそれ」
「だってパソコンやってたら目ぇ悪くなるよ。彼女が部屋にきてんのに」
「俺がパソコンでなにやってたのか、知ってるか?」
「ネットサーフィンでしょ?」
「違ぇよ。ネットサーフィンでも、買い物してたんだ」
「何買ってたの?」
「・・・・教えねぇ」
「なによケチ!どケチ!」
「なんとでも言え、ガキ」
「むぅ・・・」
また頬を膨らましてちょっとにらむ。すると亮はガシガシと私の頭を撫でてくれた。
「ま、じきにわかるだろ」
「ホント?」
「ホント」
じゃあいいや。亮がそういうんなら、きっとすぐにわかるはず。
だって亮が私に嫌なしたためしがないもん。いいことだよ、亮がすること全部。
後日、私の家に大きなクマのぬいぐるみが届けられた。そこにはカードがひとつ。
『HAPPY BIRTHDAY 』