大家族の朝
ただではすまないのがお約束
今朝はどんなドタバタが
彼らを待ち受けているのか・・・?
Family
家を出て、と成樹は通学路を行く。
いつもなら一馬が送っていくのだが、今日は次男の亮を起こしに行っているため成樹が代行していた。
ちょうど、成樹の高校はたちが通っている中学の隣。なので、帰りも一緒に帰ることが多い。
「一馬兄大丈夫かな・・・亮兄朝機嫌悪いのに」
「一馬なら大丈夫やって。慣れとるからなv」
余裕の表情で腕を頭の後ろに組んでいる成樹とは反対に、はすこぶる元気がない。
優しい奴やなぁと実の妹に心ときめかせながらも、成樹はの髪の毛を数回撫でて言った。
「亮兄だって実の弟殺すようなことせぇへんから、心配せんでも大丈夫やで」
「でも・・・」
「それに、そろそろ来るころなんとちゃう?」
え?と成樹の言葉に首をかしげながら後ろを向くと、そこには猛ダッシュで駆けてくる一馬の姿が見えてきた。
「ほらな♪」
長めの金髪をなびかせながら軽くウインクをしてみせる成樹。その笑顔につられても笑って大きく頷いた。
ちょうどたちの通う中学校の校門に差し掛かったところだ。一馬はぜぇぜぇと息を切らしながら、なんとか二人に追いついた。
「お疲れさん、一馬」
「し、死ぬかと思った・・・;」
「一馬兄、大丈夫?」
心配そうに見つめるに赤くなりながら、一馬はそっと頭を撫でた。
その手をピシャンと叩いて、成樹はまたにこやかな笑顔を見せる。
(一馬の分際でに手ぇ出すとはええ度胸しとるやないか・・・)「ほな、学校行ってくるさかい♪」
「あ、うん!いってらっしゃいv今日はバイト?」
「せやで。帰りはちゃんと一馬に送ってもらうんやでぇ」
「シゲ兄、夕飯は?」
「家で食べるわ。じゃ、またなv」
「「いってらっしゃい」」
成樹と別れて、一馬とは校舎の中へ入っていく。こうしてみると、まるで恋人同士のようだ。
そんな二人に忍び寄る影が2つ。そしてそのうちの1つがの背後に迫ってきた。
「ちゃーんvvvv」
「うわぁ!?」
突然後ろから抱きつかれ、バランスを崩す。後ろを見ると、ふわふわの茶髪が目に入った。
「結人先輩?」
「今日も可愛いね、ちゃんv一馬の妹にしとくのもったいないよ!」
「おい結人!それどういう意味だよ!早くから離れろ!」
「結人、早く離れないとちゃんが苦しそうでしょ」
抱きついた張本人は若菜結人。そしてそれを呆れた目で見つめているのは郭英士。二人とも一馬の親友だ。
一馬、結人、英士の3人はその顔立ちの良さから校内にファンが多い。そのため、今も校庭には女子の黄色い悲鳴が巻き起こっていた。
「今日も元気ですね、結人先輩。英士先輩もおはようございます」
「おはようちゃん。毎朝一馬みたいなヘタレに送ってもらって、大変だね」
「英士!だからそれどういう意味だって!」
「そんままの意味だよ、かじゅま」
「かじゅまっていうな!」
そのやりとりも毎朝のこと。もうパターン化してきている。それを飽きもせず繰り広げている彼らもすごいが、微笑ましく見つめているもまたつわものだ。
やっとから結人を引き離し、一馬がに向かい合った。
「じゃあ俺たち先に行くから。また放課後にな」
「うん、またね」
「あーちゃーん!」
「ほら結人、早く行かないと今日日直でしょ」
「そんなの一馬が代わりにやってくれるって!」
「お前それ本人目の前にして言うことじゃねぇだろ!」
「目の前にいるからこそ言ってんじゃねぇか!」
ギャーギャーとにぎやかな声をあげながら、3人は校舎内へと消えていく。相変わらず仲がいいなぁと感心しながら、も自分の下駄箱に向かった。
クラスメイトたちにあいさつしながら、教室へ入るとクラスの中心に人だかりができている。の席の近くだ。
「あ、!おはよー!」
「おはよ、有紀!」
に声をかけたのは、親友の小島有紀。サッカー部の美人マネージャー。
「今朝もにぎやかだったわね」
「うん、楽しかった!」
「でも気をつけなさいよ、モテるんだから男どもが狙ってるわよ」
「そんなことないよー有紀ちゃんのほうがモテモテじゃないv」
実は、有紀と。校内3大美女と謳われているほどの美人。それゆえ、クラスはもとより他学年からも圧倒的な支持を受けているのだ。
そんな二人が朝から笑顔で話している。クラスの男子にとって、これほど素晴らしい2ショットはなかった。
神様!僕と2人を同じクラスにしてくれてありがとう!な勢いである。
有紀はともかく、は色恋沙汰にすこぶる鈍いので、そんな男子の視線など全く気付いていなかった。
チャイムが鳴り、HRが始まる。自分の席について先生の話を熱心に聴いている。
こうして学生組の朝は過ぎていった。
一方その頃家では。
「おはよ、亮兄。今日も遅いね」
「うるせぇ、翼。お前はまだ行かなくて大丈夫なのか?」
「もう行くよ。あ、克兄が後片付け頼むってさ」
「げっ。またかよ。作ったんなら後片付けくらいやっとけっての」
「だって亮兄、ヒマだろ?」
「ヒマじゃねぇ!ちゃんと働いてんだろーが!」
「はいはい。じゃ、行ってきます」
「おう」
翼が大学へ出かけたと、一人残された亮はキッチンに積み上げられている食器の山を目の前にため息をついた。
男が5人。しかもみんな未だに食べ盛りだ。そんな奴らが食べる朝食の量はハンパないものがある。当然のことながら、洗う食器の数も多かった。
こうして眺めていても始まらない。それに、もう慣れてしまった。翼が言うようにヒマではないが、時間に余裕があるのは確かだ。
亮は一流企業に勤めるコンピュータープログラマー。パソコンさえあれば、自宅でも充分に仕事はできる。
会社に行かないわけではないが、どちらかというと家にいることが多かった。
「さて、やるか」
腕をまくって蛇口をひねろうとしたその時。ふと机の上にあるメモが眼に入った。
「なんだ?これ」
『亮へ
今日はスーパー三角定規が5時からタイムサービスをやるから、それを狙って買い物に行ってくれ。トイレットペーパーは必ずシングルを買うように。よろしく頼む』
そのメモは双子の兄、克朗からのものだった。
もうすっかり主婦になっている克朗のことを思うと、自然にため息がでた。こいつの人生これでいいのか?独身の22歳が言う台詞じゃねぇよ。
いい嫁さんになるんだろうなぁと思いながら、メモを置こうとしたとき、まだ続きがあることに気が付く。
『P.S
洗いものをするときには、このエプロンを使ってくれ。from克朗』
「エプロン?ってまさか・・・・」
亮は綺麗にたたまれて机の上に置かれているピンクの物体を取り上げる。
見るとそれは、克朗がいつもつけているフリルがついたお気に入りエプロンだった。
「んなもんつけられるかぁ!!!!」
怒りをあらわにして思いっきり叩きつける。その時。家の電話が高らかに鳴った。
イライラしながら受話器を取り上げると、聴きなれた声が返ってくる。
「もしもし?亮か?」
「克朗!んだよ、あのメモ!」
「あぁ、そのことで電話したんだ。あのタイムサービス5時からじゃなくて5時半からだった。すまなかったな」
「他にもっと謝るべきとこがあるだろ!?」
「それと、もう一つ」
「だから人の話を――」
「あのエプロン、もし床に叩きつけたりしたら・・・・・・・・・わかってるよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあよろしく頼む。またな」
ツーツーという電子音を聞きながら、亮の顔は真っ青になった。
あの声は、殺る気だ。あいつのことだから、いつどこで何を見てるかわからない。
落ち着け亮。恥と死、どちらを選ぶ?幸い今家には誰もいない。洗いものの最中だけこの変態エプロンをつければ死なずに済むじゃないか。
「よし」
恥も死には変えられない。亮は震える手でエプロンを手に取り、身に着けた。
こんなとこ家族に見られたら俺は・・・俺は・・・。
「さっさと済まして仕事するか・・・」
亮はピンクのフリルエプロンを身に着けたまま、洗いものに取り掛かった。
恥ずかしいがもう少しの辛抱だ。そう自分に言い聞かせ・・・。
「亮兄?なにやってんだ?」
悪夢。まさにそれは亮を地獄に突き落とすための言葉だった。
おそるおそる後ろを振り返ると、そこには先ほど家を出て行ったはずの翼の姿。
よりによって一番見られたくない奴に・・・・っ!!!
「つ、翼!お、おま、お前なんでここに・・・!?」
「忘れ物したから取りに帰ってきたんだけど、まさか亮兄にそんな趣味があったとはね」
「ち、ちがう!誤解だ!」
「言い訳は見苦しいよ。あーあ。これが知ったらなんていうか・・・」
「頼む!だけには言わないでくれ!」
「それは亮兄の働きによるね」
「・・・狙いはなんだ」
「ま、考えとくよ。ゆっくりねv」
天使のような笑顔で亮に笑いかけた翼の後ろには巨大な影が見え隠れしていた。
絶望のふちに立たされた亮。その瞳にはキラリと光る液状のもの。
家の苦労人は、間違いなく次男です。
亮と一馬はやられ役。私はこの二人、大好きですよ?
花月
