夕暮れの帰り道











兄の思いは深く











妹への絆は強く











そして











家族がもっと











大切に思える













































































Family

















































































お決まりのチャイムが学校に響き渡り、今日も一日の終わりを告げる。

や一馬たちもその音を聞き、ほっと一息をついた。

、今日も一馬先輩たちと帰るんでしょ?」

「うん!有紀も一緒に帰ればいいのに・・・」

「私は帰る方向違うし、それにあんまり騒がしいのも好きじゃないしね」

「あはは!確かに」

「じゃ、また明日ね。今日メールするから」

「バイバイ!気をつけてね!」

さすがは学校の3大美女の一人、クールビューティー小島有紀。今日もクールに教室を後にした。もちろんその後には彼女を狙うストーカーの予備軍たちがあとを連ねる。

そんなことに全く気付かず、も指定鞄に教科書をつめて帰る支度を整えた。

一馬の部活がない限り、はいつも一馬とその親友達である英士と結人と一緒に帰ることが日課になっていた。

今日はテスト一週間前で全ての部活動が活動停止中。はいつものように一階下にある3年生の教室へと向かった。

そしてここでもを狙うストーカー予備軍の群れができる。しかしそこは激鈍娘の。自分がモテていることなど全く気付いていなかった。

「あ、ちゃん!お疲れ〜!」

が教室から顔をのぞかすと、結人が大きく手を振って笑いかけてきた。相変わらず人を寄せ付ける人懐っこい笑顔だ。

「こんにちは、結人先輩!あの、一馬兄いますか?」

「一馬なら今日は委員会の仕事で居残りだよ」

結人の後から現れたのは英士。アジアンビューティーと呼ぶにふさわしい整った顔立ちを持つ一馬の親友の一人である。

「あ、英士先輩。そうなんですか、じゃあ今日は一人で帰りますね」

!」

ふと、廊下のほうから声がしてがそちらのほうを向くとそこには駆け足で近づいてくる一馬の姿があった。

「一馬兄!委員会の仕事なんでしょ?」

「そうなんだ。ゴメンな、一緒に帰れなくて」

「ううん、大丈夫!お仕事頑張ってね!」

にっこりと笑って答えるに不覚にも顔を赤く染めながら頭を撫でてやる。それを羨ましそうに見つめるストーカー予備軍の視線も気にすることはなかった。

「ホントは俺たちが一緒に帰ってやりたいんだけど、連帯で仕事押し付けられたからなぁ。ゴメンねちゃん!」

「先輩たちが謝ることないですよ!それに私だって一人で帰れますし」

「そうだね。もしちゃんに手を出すような輩がいたら・・・」

一馬、英士、結人の三人が一斉に殺気だった瞳をストーカー予備軍たちに向ける。

「「「どうなるかわかるはずだよな」」」

揃った声を聞いた予備軍たちは顔を青くしながら一目散に逃げていった。それに対しては全くそのことに気が付いていない。

こうして今日もの無事は守られた。

「それじゃあ、克兄たちにはちょっと遅くなるって伝えとくね!」

「あぁ、頼んだ。それじゃ、気をつけて帰れよ

「じゃあねー!ちゃん!」

「また明日」

「うん、バイバーイ!」

誰もが見惚れてしまいそうなほどかわいらしい笑顔を浮かべては大きく手を振った。

3人に別れを告げて学校を出ると、やはり校庭にはを見つめる視線が数多く存在した。しかし襲われる心配は全くない。なぜなら、彼女のバックには兄という名の護衛人がいるからだ。

「今日も一日楽しかったなぁ♪あ、そうだ。時間も空いてるし、スーパーに寄っていこうかな」

中学校の入学祝に買ってもらった腕時計を見たあと、は近所のスーパーに進路を移した。

スーパー三角定規。この辺で一番大きなスーパーで、商店街も近くにあるためたちはよく利用している。

この商店街の中にはの一番好きな店もある。雑貨屋・クローバー。商店街の端っこにひっそりとたたずむこの店は、今3人の青年が経営している。

かわいらしい雑貨達を見るのは、の趣味のひとつでもあったが、ここに通う理由はそれだけではない。

従業員たちとの楽しい会話。すっかり顔なじみとなったは、ここの店員さんたちとおしゃべりするのも一つの楽しみにしていた。

カランコロンと昔ながらのベルがなり、ドアが開く。

木造の落ち着いた雰囲気の店。アロマキャンドルのにおいが鼻をくすぐった。

「いらっしゃ・・・あ、ちゃん!」

「こんにちは、昭栄さん」

にっこり笑っては背の高い青年――高山昭栄にあいさつをした。

180cm以上ある長身にかわいらしいエプロンをしている昭栄は、どこか長男の克朗とかぶって話しやすい。

「新しい商品、入ってますか?」

「たった今ちゃん好みの掛け時計が入ったところったい!持ってくるけん、ちょお待っとってな!」

元気にそう言う昭栄にまたは笑顔を投げかけ、かわいらしい置物に目を移す。その時、店の奥から迷彩帽を被った青年が出てきた。

先ほどの昭栄に比べたらだいぶ身長は低いが、それでもに比べれば高い。

少しつりあがった目と真っ黒い髪が一馬を連想させる。

「こんにちは、カズさん!」

「おぉ、。いらっしゃい。さっき上機嫌で昭栄が奥に入ってきたと思ったら、これが原因やったんか」

「掛け時計が入ったみたいなんで、見せてもらいたくて」

「あぁ、さっき入ったやつやな。ちかっぱ愛らしか時計やけん、きっとも気に入るとよ」

ふっと笑ったカズにつられても笑顔になる。この店にくると必ず笑顔になってしまう。それがの心を奪った理由だ。

しばらくして、昭栄が木箱を持って戻ってきた。それをカウンターの上に置くと、手馴れて様子で木箱を開ける。

「うわぁ・・!」

思わずが声をこぼすのも無理はない。それはまさに好みの掛け時計だった。

木箱に似合う落ち着いた色の木をモチーフに周りには葉や花の模様が彫ってある。

色使いもデザインも、全ての好きな雰囲気だ。

「気に入ったとや?」

昭栄が笑顔で問いかける。は笑って大きく頷いた。

「とっても可愛いですね!私こういう掛け時計大好きです!!」

時計を手にとって思わず抱きしめる。あまりの可愛さに、も少し興奮気味だ。

目の前の2人はそんなの様子に優しい笑みをこぼした。まるで自分の妹でも見るような瞳で。

「そげんに気に入ったなら、それはちゃんにプレゼントしてもよかよ」

たちの声を聞いて、もう一人背の高い青年が奥から顔をのぞかせた。城光与志忠。通称よっさん。この店の店長である。

「ヨシさん、こんにちは!いいんですか?」

「よかよ、ちゃんにはいつも贔屓にしてもろっとるけん、俺たちからの気持ちや」

「さすがはよっさん!三段腹ったい!」

「アホ。それを言うなら太っ腹や」

そう言ってゴツンと昭栄の頭をはたくカズ。その光景がおもしろくて、はもっと笑顔になった。

「ありがとうございます!大切にしますね!」

もっと時計を抱きしめる。その姿を3人は暖かい気持ちで見守っていた。


































































































店を出て、スーパーの前を通りすぎるとき不意に後から声をかけられた。



振り返ると、そこにはたくさんの買い物袋を持った次男の亮が立っていた。

「亮兄!お買い物?」

「あぁ、克朗にスーパーのタイムサービス頼まれてな。やっと終わったところだ」

「そっか、お疲れ様!荷物持つよ」

は亮の抱えていた荷物を一つ持って隣に並んで歩いた。

二人で並んで帰るなんて久しぶりだな、と考えながら亮もの歩調に合わせてゆっくり歩く。

「そういえば、一馬たちは?一緒に帰ってるはずだろ?」

「今日は委員会の仕事で遅くなるから、私一人で帰ってきたの」

「ほぉ・・・」

あんのやろぉ・・・大事なを一人で帰らせるとはあとでどうなるかわかってやってるんだろうなぁ。帰ってきたら覚悟しとけよ。

まさか隣で亮がそんなことを考えているなんて、は微塵も思いつかなかった。

あわれ一馬。委員会の仕事という名目は、まるで関係ないらしい。

夕日が待ちを包み込む中を歩くと、それは兄弟というより恋人同士のように見えた。もちろんはそんなこと思っていないのだが、亮はちょっと考えていた。

そして、ふと隣を歩くの姿をみて、大きくなったなぁと実感する。

8歳違いの妹。小さい頃はよく自分が面倒を見ていた。

両親は共に忙しく、克朗も部活をやっていたので結局面倒を見るのはいつも自分。

最初は自分の遊ぶ時間を割かれることに少なからず不快な感情を持っていたが、そんなのすぐに消えていった。

そして今、は中学2年生。こんなに大きく可愛く育ったのを嬉しく思う。

親っていうのはこういう感じなのか、としみじみ感じた。



「ん?なに?」

これからもたくさん勉強して、たくさん遊んで、たくさん悩んで、大きくなっていけよ。

そんなこと言葉にできるはずもなく、亮はなんでもねぇよと頭を撫でた。

は何がなんだかよくわからなかったが、亮が不器用に頭を撫でる手のぬくもりを嬉しく思いながら照れたように笑った。

これから先、どんどん大人になっていくを見て、俺はどう思うんだろう。

寂しいと思うのか、嬉しいと思うのか。あ、でも彼氏なんて家に連れてきた日には容赦しないかもな。

もちろん、にじゃなくてその男に。

願わくば、その男が―――












俺に少しでも似ていますように。














兄貴ぃ!!!!

花月