自然と好きになるとかじゃないの
それにはちゃんと理由がある
私が楽器に恋をしたきっかけ
ちょっと恥ずかしいけど
お話します
ガラクタ交響曲-音と楽器と吹奏楽と愛と-
放課後。夕日の照らす音楽室。
今日は先生の都合により急きょ自主練になった。そんなわけで部員の半分は帰り、半分は所々で個人練習中。
最初、音楽室はパーカッションが使う予定だったのだが、人数が揃っていないのと、私がどうしても使いたい!って天城に泣いて頼んだから、一人だけで占領している。
なんという優越感。なんという響きのよさ。やっぱりこういうとき、嘘泣きっていうのは役に立つ。
自分の席だとなんだかつまんないから、たまには窓を開け放って、夕日を体中に浴びながらかっこよく吹いてみようかなと、私は窓際に楽譜を立てて吹いていた。
基礎練も一通り終わり、ちょっといい感じの雰囲気になったので、ソロの曲でも吹いてみる。
こういうしんみりとした雰囲気のときには、しんみりとした曲を吹くのが一番。
ロンドンデリー。私が一番好きな曲。どこかさみしくて、でも暖かい、そんな曲。
悲しい時に聞くと思わず涙が出てきそうな、とにかく大好きな曲なのですよ。
私のパートは主旋律が少ししかないけど、それでも曲の雰囲気は出せるつもり。それだけでもうおなか一杯。
あー・・・なんか落ち着く。
そんなとき。ガチャっと音楽室特有のドアを開ける音が響いた。
いつもなら誰やねん!と睨みつけながら振り返るところだが、今はそんなことしない。だって、落ち着いてるから。14歳とは思えないほどの落ち着きを見せてるからね。
入ってきたのはカズ先輩。さすが練習の鬼。自主練でも帰るなんてこと、ありはしない。
「なんね、か。なしてこげんとこで練習してると?パーカスは?」
「天城に無理言って貸してもらったんですよ。だから今日一日は私のものです!」
「天城の苦労が目に見えるったい・・・;」
「カズ先輩は何してるんですか?もう帰ります?」
「いや、楽譜取りにきただけや。少し休憩も兼ねて」
「休憩ですか。じゃあ私もお付き合いしますよ♪」
「お付き合いって・・・まぁ、よか」
カズ先輩は自分の席に座ると、そのまま楽器を下に置いた。
私もカズ先輩の隣の席に座る。私の席は私の席。一馬の席は私の席。(ジャイアニズム)
ふぅ、と短いため息を着いてカズ先輩は帽子を被りなおした。くっはー!!かっこいい!さすがは私のカズ先輩!どんな仕草もかっこいい!
でも今日はそんの体で表現しませんよ。だって、落ち着いて増すもん。14歳とは思えないほどの落ち着きを見せてるからね(二回目)
「、音綺麗になったな」
「ホントですか!?」
「あぁ。さっき廊下で吹いてるとき聞こえてきたけん、ちかっぱ音質良くなってたとよ」
やったー!カズ先輩に褒められた!音質が綺麗なカズ先輩に褒められた!
いつもならその場で抱きついてるところだけど、そんなことはしない。
だって今日は落ち着いt(強制終了)
夕日の差す放課後の音楽室に二人っきり。カズ先輩ファンが見たらこれほど羨ましいシュチュエーションはないんだろうなぁ。でも、なんか落ち着く。いい雰囲気、大好き。
「なぁ、」
「なんですか?」
「お前はなしてそげん音楽が好きとや?」
「え?」
なんで音楽が好きか、か。そんなこと初めて聞かれた。
あーせっかくだし、話してもいいかな。カズ先輩になら。ちょっと恥ずかしいけど、私と音楽が出会った理由。そして、なんでそれが吹奏楽であったか。
「聞きたいですか?」
「あぁ、興味はあるったい」
それでは、お話しましょうか。
私と音楽。そしてサックスと吹奏楽が出会ったわけを――
初めて私と「音」が出会ったのは、3歳のとき。姉が始めていたピアノがきっかけだった。
でも別にピアノが好きだったわけじゃない。親が無理やりやらせていただけだったから、どっちかっていうと音楽は嫌いな部類に入ってた。
でも、その先生に連れられて全国的に有名なウインドオーケストラ(吹奏楽団)の演奏に連れて行ってもらったときに、私の音楽に対する意識は180度変わった。
素晴らしいサウンド。まるで弦楽器のような音質。迫力のある音量。ぴったりとそろった音程。
そのときは今みたいに音楽の専門的な知識なんてなかったし、なにより小さい頃だったからそんなに詳しいことはよくわからなかったけど、それでも感動したのだけは覚えてる。
演奏が終わって、楽屋裏に忍び込んで(このころからそういう裏技は持ってた)たまたま入ったのが、サックス奏者の楽屋だった。
「ん?」
「あ」
そこには楽器の手入れをしていたサックス奏者がいた。あとで聞いた話によると、その人は世界的に有名なサックス奏者だったらしい。
「僕に何か用かい?お嬢ちゃん」
「あ、えっと・・・・お母さんとはぐれちゃって」(大嘘)
「そうか。でも今ここを離れるわけにはいかないしな・・・・あ、じゃあお母さんがここに来るまで僕と遊んでるかい?」
「うん!!」
さすがは音楽家。その人も思考が変わっていた。
普通の人ならこんな子供、すぐにスタッフに引き渡すのに、彼は私と遊んでくれた。
もちろん、その遊びというのは・・・・。
「うわぁ!」
サックスを始めて持ったのもその時。テナーだったから少し重かったけど、そこは彼が支えてくれたから大丈夫だった。
ピカピカに光るフォルム、光に反射してとても綺麗だ。
「ちょっと吹いてみる?」
「うん!!!!」
リードを付け直してもらって、ストラップの長さを調節してもらったあと、私ははじめて楽器を吹いた。
もちろん、音なんて出やしない。スーというかすれた息が漏れるだけ。
それでも、私は構わずにずっとずっと吹き続けた。楽しい。楽器に触れることが、こんなにも楽しいことだったなんて、知らなかった。
その時、私とサックスの間に芽生えたのは間違いなく愛だと思う。
「お嬢ちゃんにはまだちょっと難しかったかな?」
「お兄さん、吹いてみてよ!」
「僕?いいよ」
私から楽器をそっと取り上げて、彼は曲を吹き始める。そういえば、その時聞いたのもロンドンデリーだった。
結論から言うと、彼はものすごく上手かった。そりゃ、世界で活躍しているサックス奏者なんだから当たり前だけど、それがこんな子供にも理解できるほどすごい人だった。
そして、その時私もこんな風になりたい、と心の底から思った。
これが、私とサックスとの出会い。ついでに言うと、サックスに恋したのもこの日から。
今でも鮮明に覚えている。
「そげん小さか頃からサックスが好きやったんやな」
「そうなんですよ。ちなみに、その人は今でも私の心の恩師です」
「それがなかったら、は普通やったんかな・・・なぁ?サックス愛好者?」
「いいじゃないですか!サックス愛好者!っていうか今でも普通ですよ!みんなの楽器に対する愛が薄すぎるだけです」
なんか久しぶりに思い出したら懐かしくなっちゃったなぁ・・・。今はもうその人はいないけど、私の吹奏楽人生はその時から始まってた。
今だって、音楽が大好き。サックスも大好き。だから、どんなに辛いことがあっても決して辞めようなんて思わなかった。
「あ、もう一つ思い出しました」
「なんね?」
「その人が言ってた言葉なんですけどね」
『音が好きになると楽器が好きになる。楽器が好きになると吹奏楽が好きになる。吹奏楽が好きになると人生に愛が生まれる』
「いい言葉でしょ?」
「つまり、吹奏楽は愛やってことやろ?」
「その通りです!さすがカズ先輩!この言葉は私の基本となる言葉ですよ」
この言葉があったから、愛の意味を知った。
何も愛っていうのは人だけに捧げるものじゃない。楽器にだって、吹奏楽にだって、音にだって愛は捧げることができる。
だから私も将来、あの人みたいに音楽の素晴らしさを教えられたらいいなと思った。
「あんまり人に言わないでくださいよ?恥ずかしいですから」
「わかっとる。さ、そろそろ練習に戻るけんね」
「はい!」
「」
「はい?」
「これからも楽器に対する愛だけは忘れんようにな」
そう言って、カズ先輩は音楽室を後にした。
はい、カズ先輩。わかってますよ。
例え世界中の人がこの楽器を否定しても、私だけは味方でいるから。
これからもよろしくね、私の楽器・・・。
カズ夢じゃない?これ、半分実話です。
花月
