グロス











それは女性を輝かせるため











グリス











それは楽器を輝かせるため











ただ











一歩使い道を間違えると











大変なことになる

























































































ガラクタ交響曲-グリスとグロスの違い-
























































































いつも通りの朝。

いつも通り起きて。

いつも通り学校へ1番乗りして。

いつも通り楽器を出していた時。

事件は起こった。

「あれ?」

「どないしたんや、?」

「わっ!なんだぁーシゲか。早いね、珍しく」

「たまには早起きせんとな」

「どうせ時間1時間間違えたとかそんな感じでしょ?」

「アホ!俺は時間に厳しい男やで?」

「うさんくさーい」

「なんやその軽蔑のまなざし的な目は!それで?どないしたん?また楽器に傷付いとったん?」

「いや、楽器はいつも通りピカピカなんだけどさ・・・見てこれ」

「ん?」

私がシゲに差し出したのは、1本のグリス。でもそれは・・・。

「むっちゃいい香りするやん!」

「でしょ?」

明らかにおかしいグリスのにおい。これじゃまるで、グロスだ。

大体楽器ケースにグリスなんて入れてない私が、なんで今日に限ってこんな良いにおいのグリスが入ってるわけ?

グリスって書いてなかったらホントにグロスと間違えそうな感じのグリス。

1年生の誰かが私の楽器しまうときに入れ間違えたのかな。でも後輩には楽器触らせてないし。

どっから紛れ込んだんだ?

「そういえば俺もグロス拾ったんやった」

「え?どんな?」

続いてシゲが取り出したのは、至ってシンプルなグロス。

無香性と書いてあるだけあって、においは一切しなかった。

このグリスと色一緒だし、なんかこっちのほうがグリスっぽい。

あれ?そもそもグリスって・・・ん?グロス?あれ?

なんか頭ぐちゃぐちゃになってきた。

「えーっと・・・こっちがグリス?」

「そやで」

「で、こっちがグロス?」

「そやそや」

「グリスってのは楽器に塗るもんだよね」

「そ。んで、グロスが唇に塗るほう」

「うん。わかった。なんとなく理解した」

「なんとなくかい」

シゲのビシっというツッコミを受けて、関西っていいなぁなんて思いつつ、私の思考はまだこんがらがっていた。

ここでちょっと説明。

グリスっていうのは、管楽器には欠かせない手入れ道具の一つ。

特に金管楽器には、管ってあるじゃない?ほら、音とか調整するあれ。

その管の滑りを良くするのがグリスの働き。

私たち木管楽器もマウスピースに付けるから持ってはいるんだけど・・・。

「なんでここにグリスが?」

が入れたんちゃうん?」

「いや、入れた覚えなし」

「ほな誰かが間違えたんやな」

「これは副部長に届けるべき?」

「まぁ特注品そうやし、そうしたほうがええんやない?」

「そうだよね」

私たちの部活では、落とし物は副部長に届け出ることになっている。

帰りか朝のミーティングで副部長がみんなの前で落し物発表して、そこで持ち主を探し当てるってわけ。

タオルとかよく落ちてるから何度か副部長に届け出てるけど、グリスは初めてだなぁ。

にしてもこのグリス、めっちゃいいにおいする。

思わず口に付けたくなるくらい。

シゲが楽器出してそのまま廊下で音だししているのを眺めながら、愛しいサックスちゃんを組み立てる。

相変わらず音程いいなぁ、シゲは。

あんまり練習に参加しないけど、一度聞いただけでシゲの上手さは大体わかる。

テキーラでもソロ任されるくらいだしね。

あ、テキーラっていうのはお酒じゃなくて、我が笛中の定番曲。

そこにトランペット3本のソロがあるんだけど、そのうちの1本をシゲが担当してる。

音程も音質もピカイチ、言うことなし。

そりゃ選ばれるわなぁ。

っと。そんなことより、早く楽器組み立てて音だししないと。

また誰かに2音乗っ取られる。

拾ったグリスとシゲからもらったグロスをポケットにしまい、さっさと楽器を組み立てて、すぐに2音へ向かった。

よし、今日も一番。余裕で音だしできるね、誰にも邪魔されず。

ルンルン気分で音だししようとしたら、音程が悪いことに気づき、チューナーで音合わせ。

今日はちょっと高いな。

音程調節のため、マウスピースを出し入れしようとしたその時!

「う、動かない・・・」

いつも欠かさず手入れしていたはずのサックスちゃんはマウスピースを動かしてはくれなかった。

そりゃ確かに一週間くらいマウスピースにグリス塗ってなかったけど、ここまで動かなくなるか!?

まぁ、動かなくなったもんはしょうがない。グリス塗ろう。

そうしてグリスをポケットからとりだす。しかし、そこには同じ形をした2本のグリス。いや、正確に言えばどっちか一方はグロスなんだけど。

「しまった!」

今日ポケットに濡れたハンカチ入れてたからグリスとグロスの表面が濡れてて見えない!

どっちがどっちだかわかんないよー!

えっと、確かいいにおいがするほうがグロス・・・あれ?ちょっと待って。逆?

いいにおいがするほうがグリス?グロス!?

もう訳わかんなくなってきた。

困ったなぁ・・マウスピースにグロスなんて塗ったら絶対悪くなるし。

愛しいサックスちゃんのため、グロスを塗るのは避けたかった。

確立は2分の1。さぁ、どうする

「失礼します・・って。相変わらず早いな」

「山口先輩!よかった!助けてください!」

「え?なに?どうした?」

Wリードパートのパートリーダー山口先輩。今日ほどあなたが輝いて見えた日はありません!

さっそく事情を説明して、グリスとグロスの違いを見極めてもらうことにした。

「うーん・・・俺的にはなんとも言えないけどなぁ。別にどっちでもいいんじゃね?」

「なに言ってるんですか!もし愛しいサックスちゃんにグロスなんて塗った日には・・私・・私・・・この子のお母さんになんて言ったらいいか・・!」

「サックスに母親なんているのか?」

「例えばの話ですよ!」

「・・・・。まぁとにかく、楽器に塗るのが嫌だったら自分の唇に塗ってみたらどうだ?」

あ、ナイスアイディア。そうだよね、自分が犠牲になるんなら大丈夫。

「スゥスゥしたほうがグロスだと?」

「そういうことだな」

よし・・!女、!やって見せようじゃないですか!

自分の唇に塗るのでも、やっぱり確立は2分の1。

ここは私の勘で・・・勘で・・・。

「無理!やっぱり怖い!山口先輩、選んでください!」

「え!?俺!?いいけど・・外れたらどうするんだ?」

「大丈夫です!半殺しにするだけですから!」

「どこが大丈夫!?」

だって私、商店街のくじ引きでも当たったことないんだよ?

それなら少しでも運のありそうな山口先輩が選んだほうがいいに決まってる。

さぁ、選んでください!

「ホントに後悔しないな?」

「はい」

「じゃあ・・・こっち!」

山口先輩が差し出したのは、全くにおいのしないほう。

よし。じゃあこっちを・・・。

意を決して、唇に塗った。次の瞬間。

「な、なに・・このヌルヌル感・・・!!」

「ヌルヌルすんのか?」

気持ち悪い・・これ絶対グロスじゃない!

「あ、ー言い忘れとったけど・・・ってもう遅いか?」

「あれ、シゲ。どうしたんだ?」

「いや、においのするほうがグリスやでーって忠告しに来たんやけど。なんや遅かったみたいやね」

「知ってんならもっと早くこい!」

がすぐ忘れるんが悪いんやろぉ?」

ぐっ!言い返せない!

っていうかこれ、マジまずい!

!?お前唇腫れて来てないか!?」

「え!?マジっすか!?」

ダッシュでトイレへ向かい鏡を見ると、そこにはたらこ唇になった私の姿。

「あーあ。これじゃ楽器しばらく吹けへんな」

「ご愁傷様」

みんなして我関せずみたいな顔して!

大体シゲがもっと早く言いに来てたらこんなことにはならなかったし、山口先輩が間違わなければたらこ唇にならなくてすんだのに!

全部私が悪いってか!?

「いひゃい・・・」(痛い・・・)

っていうか、誰!?こんないいにおいのするグリス作ったのは。

かろうじて残っていた裏の表示を見てみると、そこには――


















































































『西園寺コーポレーション』


























































































ま、またか・・・。

全部あの人の仕業か!











それからしばらく、私は楽器が吹けず、ずっとサックスを握り締めたまま合奏を眺めていた。



















書いてて訳わからんくなりました;

花月