ロングトーンとは











基礎練の中の基礎練であり











全ての音楽の











源になるものである





























































ガラクタ交響曲-ロングトーン大会 前編-






























































今日は待ちに待った休日練。平日と違って一日中楽器が吹けるこのすばらしき日をどれほど心待ちにしたことか。

今日も今日とて裏技を使い、一番のりで音楽室へ向かう。いつもは長いこの階段もなんだか一段と早く上れる気がした。

「何・・・コレ?」

ルンルン気分で1音を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

締め切られたカーテンにはいたるところに音符や星などの装飾がなされ、机などは全て端に追いやられ、代わりに客席らしきセッティングまでしてある。

極めつけは、中央の黒板に『第1回 ロングトーン大会』ときらびやかに書かれた垂れ幕。

い、いったい何なんだこれは・・・・・。

とりあえず鞄を椅子の上において、楽器を出す。こんな状況下でも楽器を出すのは忘れない。

相変わらずうっとりしながら楽器を出し終わると、このおかしな環境をじっくり考察した。

ロングトーン大会ってことは、たぶん部内で行われる新しい大会のことだと思う。ソロコンやアンコンみたいな感じの。

でも、なんでロングトーンなんて地味なもんを競い合わなきゃなんないわけ?

わからない・・・(不破っち風)

なぁんて一人で考え込んでてもしょうがない。なんかここにいたら気分が悪くなりそうだから、さっさと外に出よう。

私は楽器をしっかり持って1音のドアノブに手をかけた。しかし・・・。

「え!開かない!?」

なんで!?さっきは普通に入れたのに!

なんどもドアノブを動かしてみるが、ドアはビクともしない。体当たりもしてみたけど、なんか変な音がするようになってしまったので、途中でやめた。

「いったい何なのよ〜;」

なんだかひどく疲れてしまった私はへなへなとその場に座り込む。しょうがない、誰かくるまでここにいよう。

そう思った矢先、さっそく1音のドアが開いた。

「失礼します」

吹奏楽部特有の挨拶をしてから部屋に入ってきたのは、我らが金管のセクションリーダー、毒舌マシンガンこと、椎名翼先輩だった。

「あれ、。なにやってんのさ、こんなところで座り込んで」

ドアのすぐ近くにしゃがんでいた私をみて驚いた表情を見せる翼先輩。いつ見てもお美しいです。

「なんだよ、この装飾。玲のやつ、またなんか企んでるな」

そうなのです。この翼先輩こそ、あの変人・・・もとい、天才指揮者西園寺玲先生のはとこなのです。

この部で先生にまともな意見を言えるとしたら、部長かこの翼先輩くらい。あとの人は怖くてできないから。

「それで、はなんでここにいんの?いつもならさっさと2音に行くのに」

「それが・・・出られないんです」

「はぁ?」

なんとも信じられないといった顔をして私をみる翼先輩に今までの経緯を説明すると、私と同じようにドアノブをガチャガチャと揺らし始めた。

「ホントだ」

「でしょ?」

あの天才翼先輩でも開けられないドアなんて・・・凡人の私が出られるはずないよ。

こうなりゃ、ここで一生楽器と暮らそう。うん、それしかない。ってかむしろ、それがいい。

「とにかく、玲が来るまで待つしかないな。それか渋沢」

「部長?」

「あいつならなんか知ってるかもしれないだろ、仮にも部長なんだし」

仮にもって・・・立派な部長ですけれども;

翼先輩は、私の横に座るとめんどくさそうにため息をついた。

確かにめんどくさいよね。大体予想はつくよ、あの先生がやることだからどうせろくなことじゃない。

2年も付き合ってればなんとなく分かってくるもんよ。悲しいけどね;

しばらくして、大体の部員が集まってきた。

みんなの反応は全く一緒。第一に、部屋の変わりように驚く。第二に、開かないドアに驚く。第三に1音にとどまる。ってかそれしか方法がないんだけど。

そして、渋沢部長も登校してきた。待ってましたとばかりにみんなは渋沢部長のところへ駆け寄る。

「キャプテン!なんなんスかこの部屋!早く出してくださいよ!」

「え、なに言ってるんだ藤代」

「僕楽譜の整理しなくちゃいけないんだけど〜」

「須釜まで・・・みんな何のことを言ってるんだ?」

「え?コレって渋沢部長もグルじゃないんですか?」

「はぁ?」

私の言葉に心底分からないといった顔で首をかしげる部長。もしかして、部長ですら知らない?

全く状況を飲み込めてない部長にみかみん先輩が事情を説明すると、みんなと同じようなリアクションをとった。やっぱり知らないんだ。となると、これは西園寺先生独断でのこと?

「とにかく、事情は分かった。先生が来るまでとりあえずここで待機していよう。パートリーダーはパートごとに並べておいてくれ」

お〜さすがは部長。早速的確な指示をいただけて、パーリーとしては嬉しい限りですv

というわけで、私はさっさと自分のパートを整列させた。決まりとしてパーリー、3年、2年、1年って順番で並ぶ。

当然パーリーである私は一番前。だけどやっかいなのは、その後ろがみかみん先輩だってこと;

「なんでみかみん先輩が3年生なんですか・・・」

「そんなもん俺が早く生まれたからに決まってんだろうが。ついにイカレたか?」

「みかみん先輩よりはイカレてませんよ」

「てめぇ・・・上級生に対する口の聞き方がわかってねぇようだな」

「いひゃ!いひゃいへふよ!みはみんへんはい!(痛い!痛いですよ!みかみん先輩!)」

思いっきりほっぺたをつねられて、意味不明な声をだす。くそ〜上級生だからって、職権乱用(?)だ!!

いつか仕返ししてやる!私が3年になったらきっと・・・ってそのころには三上先輩は卒業してるか。

まぁ、いいや。絶対に見てろ!そっちが上級生の名を掲げるなら、こっちだってパーリーの名を掲げてやる!いつか。

「今度は何をやらされるんでしょうね・・・」

「どうせろくなことじゃないだろ」

「確かに」

ほっぺたをさすりながら言うと、三上先輩も私と同じ意見だった。

あの先生のやることは半端じゃないからなぁ・・・。いい意味でも悪い意味でも。

「なんて言うんですかねーああいうの。馬鹿と天才はかみひと・・・モガっ!」

いきなり後ろから口を押さえられた。こらみかみん先輩!何するんだ!?

もがもがと言いながら後ろを見ると、青ざめた顔で私の口を押さえてる先輩がみえる。

なんでそんなに青ざめてるの?ま、まさか・・・・・。

「おはよう、さん」

「も、もがっ・・・・・!」

西園寺玲、降臨。ぎゃー!もしかして聞かれた?聞かれちゃったの!?

みかみん先輩、今回ばかりはあなたに感謝しますよ。あーびっくりした;

「なに青ざめた顔してるの、さん。別に私は何も聞いていないわよ?」

眼が笑ってません、先生。あぁ、これで今回の変な行事の私の運命は決まってしまった。

グッバイ、私の青春・・・。

なんて途方にくれてる間に、周りのみんなが西園寺先生に説明を求めた。

そりゃそうだ。わけもわからない装飾はともかく、部屋から出られないなんて。

早く楽器を吹かせてください!!

「それじゃあ説明するわね。渋沢くん、あれを」

「はい」

おいぃ!?ちょっと待てよ!部長!何ちゃっかり従ってんの!知ってたってことですかぁ!?

「コラぁ渋沢!おめぇ知ってたんじゃねぇかよ!」

「当たり前だろう、三上。俺は部長だぞ」

そんな、爽やかスマイルで言うことじゃないですよ。哀れみかみん先輩、撃沈。

渋沢部長が持ってきた黒板には、パートごとに分けられた私たちの名前が記されていた。

私たちの部活は総勢50人。こうやってみると、結構多いんだってことがわかる。

これはどういう意味?まったく理解できません。

「今日はみなさんに、ちょっとロングトーンをしてもらいます」

BR風!?先生、そんな説明要りませんよ!一瞬ドキッとしちゃったじゃん!

ってか、黒板にロングトーン大会って書いてある時点でロングトーンすることくらいわかりますって。

さん、静かに」

「え、あ・・・すみません」

声に出てた?と小声でみかみん先輩に聞けば、首を横に振る始末。・・・なんでわかった?

「それじゃあ説明を始めるわね」

先生の説明はこうだ。

まず、この大会の目的はロングトーン技術の向上とその大切さを知ること。

まぁ、楽器奏者にとってロングトーンは命だからね。私も毎日やってるし。

そこで、どのパートが一番ロングトーンをやっているかの点検もかねて、パートごとでどれだけ長くロングトーンが続くかを競い合う。それがこの大会。

はじめにパート内でロングトーンを競い合い、代表者1名を決める。

そしてその代表者どうして争い、ロングトーン大会の優勝者を決めるというもの。優勝商品も出るらしい。

こりゃ楽勝でしょ、私が出れば。だって毎日やってるんだもんね!サックスパートの一人勝ちv

何か質問は?と先生がみんなに問うた。

「パーカッションとコンバスはどげんして争うとですか?」

ビシっと手をあげて、昭栄が質問する。たしかに、パーカッションとコンバスは息使わないよね。

「パーカッションはロールをやってもらいます。ピアニッシモからフォルテッシモまでを行き来してもらうわ。一度でもスティックの当たる音が聞こえたら失格よ。コンバスは、この特性マスクを2枚つけて声を出してもらうわ」

西園寺先生は、分厚いマスクを取り出してにっこり笑った。瞬時に横山先輩の顔が引きつった。

あんなんつけて、はたして声が出るのかな・・・。

パーカッションの課題にしても、ずいぶん難しい。昭栄は逆に張り切ってるみたいだけど。

「他には?」

「音はなんでもいいんスか?」

私の後ろで黒川が手を上げた。お〜勇気あるね。あの顔はかなり自信がある模様。

絶対負けない。意地でも負けない。ロングトーンだけは!!

「音の指定は特にないわ。自分の好きな音でいいです。あとは何かあるかしら?」

「はいはーい!優勝商品ってなんですか!?」

この威勢のいい声は、誠二。そういうことにしか興味ないんか!?

「商品は、コレよ」

先生が近くにあった布を取り払うと、そこには新品のチューナー・メトロノーム・そして金一封の封筒があった。

「「「「「「おぉ〜!!!」」」」」」

すっごい豪華!さすが金持ち、太っ腹だねぇ♪

こりゃ頑張るしかないでしょ!待っててね、チューナー・メトロノーム。そして、私のお・か・ねvv

商品を見たとたんに全員の顔つきが変わった。

やる気のなかった人もとたんに真顔になる。人の欲とは恐ろしい・・・。

「ちなみに、予選。つまりパートの代表になれなかった人にはこれが待ってますからね」

西園寺先生の手にはコップ。その中には、謎の緑色の液体。

明らかにまずそうな飲み物だった。まさか、コレを飲めと?

「一気飲みしてもらいます」

うわぁ、出たよ。このパターン。あれ?これ某テニス漫画のネタになかった?(気にしないでby作者)

この所為で、パート内の人までやる気が・・・。私の敵が大勢できてしまった。

ただでさえ人数多くて大変なのに!!これはもう、やるしかない・・・!

「他にはもうないわね?後で何かあったら随時受け付けるから。それじゃ、セクション順に始めてもらうわね・・・といいたいところだけど、まだみんな楽器あったまってないでしょ?出してない人もいるみたいだし」

周りを見れば、大型楽器の人はまだ出していない様子。家に持って帰れないからね、しょうがないよ。

私の楽器だってすっかり冷めちゃってる。これでロングトーンなんかしても、いい実力なんて出せやしない。

「今から20分後にはじめます。タイムキーパー。20分たったらみんなをまた1音に集めてちょうだい」

「了解」

不破っちがストップウォッチを片手に頷く。

「それじゃ、また20分後にね」

にっこりと素敵な笑顔を浮かべて、あっさり先生は出て行った。

こうして、第1回笛中ロングトーン大会が始まったのである――







ロングトーンって結構好きなんですよ;説明下手ですみません!!

花月