この大会で得られるもの
それは勝利の快感と
敗北の恐ろしさ
そして先生の
腹黒さ
ガラクタ交響曲−ロングトーン大会 完結編−
各パートの代表がついに出揃った。これから代表戦。激戦を勝ち抜いた人たちのロングトーンが果たしてどれだけのものか、ギャラリーは興味津々だ。
「こうなったらパートの意地たい。サックスの底力見せてやらんね!」
「はい!カズ先輩!」
「お前俺を差し置いて代表になったんだからな。勝てなかったときにはどうなるか・・・」
「わ、わかってますよみかみん先輩。だからそんなににらまないで・・・!」
あー怖い。ってかみんな私を応援するきあるんですか?特にみかみん先輩、プレッシャーかけてどうすんの。
代表が中央のステージに集まる。なんか緊張するなぁ。負けたら私たちもあのジュースの飲まなくちゃいけないのかな。いや、絶対いやだ!あんなん飲むくらいなら・・・えっと・・・とにかくいやだ!
「緊張してるのか?」
「あ、部長。はい少し。あの、ジュースって代表戦で落ちた人も飲むんですか?」
「なに言ってるんだ」
「アハハそうですよね。まさかそんなことあるわけ・・・」
「当然だろ」(爽笑顔)
いーやー!!!なんで代表戦まで来たのにあんなどす黒い色の飲み物飲まなくちゃいけないの!?絶対勝つ、もうこれはパートの意地とか金一封とかじゃなくて自分の命のために。
セクション順でならんだステージ。ギャラリーが多くなった所為か、かなり緊張する。審査員はパーリーが代表になったところのみ、パートの代表が代わりを勤めていた。
「手加減しないからね、」
「こっちもだよ英士」
「正々堂々と戦おう」
「はい、渋沢部長」
「まぁ、勝つのは僕だけどね、」
「負けませんよ翼先輩」
「よろしくね、」
「こちらこそ、笠井くん」
「気張りぃ、」
「よっさんも頑張ってください」
「ーv勝ったらよかこつ奢ってくれんね?」
「嫌よ。逆に奢ってよ昭栄」
「ま、せいぜい頑張れ」
「嫌味ですか?山口先輩」
「勝つのは俺だ」
「だから私だって。阿部くん」
「ちゃん。手加減できないけど、ごめんね」
「はじめから期待してないし、そんなんいらないよ誠二」
あれ?ちょっと待って。なんでみんな・・・。
「私だけ敵視してるわけ?」
「「「「「「「「「「だって何するかわからないから」」」」」」」」」」
ひどくないですか?ひどい。仮にも女の子なのに、こんな仕打ち・・。涙が出ちゃう。
私だって人の子!何もしませんよ。
「それが学校のカギ壊してまで中に入る奴の言うこと?」
「あれ、声に出てた?」
「さぁ?」
すごいな英士。なんで読まれたんだ。もしかしてこの人も西園寺先生と同じ属性だったりして。
「、何か言った?」
「いえ、何も・・・」
「そう」(爽笑顔)
絶対そうだ。この人たちエスパーなんだぁ!!
「それでは代表戦を始めます。構えて」
代表戦のために新しくした私の最終兵器、プラスチックリード。これで私の優勝は決まったも同然よ♪
しぃんとした1音に緊張感が走る。そして、先生の合図が出された。
ものすごい不協和音。楽器が違う分、それも倍。朝の合奏室状態だ。
さすが各パートの代表。ものすごく音質が綺麗。こんなのも評価されるのかな。まぁ、これだけ長く吹かされてれば音質もよくなるけどさ、そりゃ。
開始1分。まだまだ余裕と思いきや、西園寺先生は早々に片手を挙げた。その手をゆっくり動かして、ある人物を指差す。それは・・・。
「俺やぁ!?」
高山昭栄。パーカッション代表のその人だった。なんで昭栄?スティックの音なんか聞こえなかったけど・・・。
「高山くん、今少しスティックが当たったわね」
「え、そげんこつ・・・」
「当たったわよね?」(にっこり)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
怖い;あの天然昭栄も真っ青だ。こうして一人脱落。パーカッションにこの課題はきつかったよね、お疲れ様昭栄。
「あー負けてしまったたい、カズさん」
「精進せろ」
打楽器が抜けたところで、かなり不協和音の精度も増してきた。次に落ちるのは誰だろう。
開始3分。パート戦のときはだいたいこのあたりから落ち始めてたけど、そこは代表。まだまだ余裕。ある一人を除いては。
(よっさん大丈夫ですか?)
(これはきつか・・・)
チューバはロングトーンしてるっていっても、一回に使う息の量が半端じゃないからかなりつらい。楽器が大きいからね。
そして、よっさん脱落。バスパートとしてはかなりの好成績。すごいです、よっさん。
「九州男児がふたりそろって落ちるとは、情けなか」
「パート戦で落ちた奴に言われとうなかな、昭栄」
「そうです、カズさん」
「・・・・・・・」
次に苦しくなってきたのはフルート代表笠井くん。すでに開始から5分が経過している。私たち海女さんでもいけるんじゃないの?あ、私以外は海男さんか。
フルートは出した息の半分しか使えないから、その分音を保つのが難しいんだって、笠井くんが言ってた。あとの半分は?って聞いたら捨ててるらしい。
そりゃきついよね・・・。笠井くんの顔もだいぶ苦しそう。そしてついに。
「笠井失格」
「はぁ・・・」
肩で荒く息をする笠井くん。お疲れさまでした。
「負けちゃったよ。頑張ったつもりなんだけどね」
(ナイスファイト!)
「ありがと、」
にっこり笑ってギャラリーへと戻っていく笠井くん。とっても潔いなぁって思った。
さて開始から5分が過ぎてもまだ落ちたパートは3つ。残り7パートともそろそろきつくなってくるころ。
そして開始6分半。今度はユーフォとクラリネットがきつくなってきたらしい。音が小さくなっていく。
阿部くんも英士もかなりつらそうな表情。こりゃもうそろそろ・・・。
「阿部、郭失格」
やっぱり。でも、英士が落ちるのはびっくり。優勝候補だったし、私もそう思ってたから。
阿部くんはちょっと不機嫌気味に戻っていく。そして英士は。
「がんばってね、」
(ありがと・・・ってなんでそんなに怖い目でみるわけ?)
「別に意味はないけど」
(さいでっか・・・;)
明らかにうらんでるじゃん。怖い、怖いよ英士。悪かった、ってか私が悪いわけ!?
半分のパートが落ちて、残り5つ。すごいなぁ、だってもうそろそろ7分だよ?7分もロングトーンしてるってギネスとかに載るんじゃない?
とここで、また西園寺先生の手が上がる。誰だ、次はいったい誰なんだ!
「藤代失格」
「えぇー!!!なんでですか!?」
「一度息を吸ったでしょ?」
「うっ・・・」
あ、図星なんだ。ってかいつ息すったの?ある意味すごい。
シュンと耳をたれて(なんか頭のところに見える気がする)ギャラリーへ戻っていく中、ピタっと突然足を止めて代表選手に振り返った。
「ちゃーん!道連れー!!」
「うわぁ!抱きつくなボケぇ!!!」
・・・・・・・・あれ?あれ?え?は?ちょっと待って?もしかして私、楽器から口離してます?
西園寺先生がにっこり笑って私を見てる。いやいや、待ってくださいよ。だってこれ私の所為じゃないですから。って何宣告する気満々な顔してるんですか!?
「、失格」
「えぇ!?!?!」
ふーじーしーろーせーいーじー!!!!お前のせいだぁ!何が道連れだってんだよ!返せー!私の金一封を返せぇ!!
「先生、私は不可抗力です」
「でも吹くのを止めたじゃない」
「それは藤代くんの所為です」
「じゃあ藤代くんにはジョッキしかないわね・・・」
「マジっすか!?」
「当たり前じゃボケぇ!!」
その後誠二をボコボコにボコして、私はみかみん先輩に代わって審査員席に着いた。
「みかみん先輩、あとで藤代ボコしといてください」
「いや、あれ以上やったら死ぬだろさすがに」
「やっといてください!」
「・・・・わかったよ;」
ちっとは思い知れ、バカ代誠二め。あー屈辱。まさかあんな終わり方するなんて。
とにかく気持ちを切り替えて、残り3パートの代表選手を見守る。
残ってるのはトロンボーンの渋沢部長とホルンの翼先輩、そしてWリードの山口先輩。どれも3年生が残ってる。さすがは先輩。もうすぐ10分になる。
だけど吹き始めたときより音が小さくなってる。当たり前か、この人たちもう海男決定だわ。
こう言っては失礼だけど、山口先輩が残ってるのが意外。だってなんか、Wリードって・・・ねぇ?私はかなり好きだけど、オーボエの音とかファゴットの音域とか。
と、ここでだんだんと音が小さくなっていく3人。やっぱり天才や部長でもきつくなるときはなる。かなり微妙な音まで下がってきた。
デットヒート。すごい互角の戦い。そして開始から12分。ついに3人の音が完全に途切れた。
「そこまで!」
西園寺先生のストップがかかって3人ともぜいぜいと息を切らしている。12分も続けて吹けばね。なんか尊敬通り越して怖いんですけど。
「先生、優勝者は」
渋沢部長が問いただす。先生は真剣な顔をして悩みこんだ。あの西園寺先生を悩ますなんて、どんな大会なんだ・・・。
「優勝者は・・・」
『優勝者は・・?』
「なし」
はぁ!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!ここまできてなしってどういうこと!?
「3人とも互角だったからね。優勝者はなしのドローってことよ」
「そんなぁ・・・それじゃあ金一封は・・・」
「そうね・・・次回までのお預けってことね」
じ、次回って・・。またこんな変な大会があるんですか・・。やる気充分?やめてください。
「というわけで、全員このジュースを飲み干してもらいます。ジョッキ宣告を受けた人はちゃんとジョッキで飲みなさいね」
うげ・・・。これ人間の飲む色してませんよ?
そして・・・。
『うわぁあぁあああぁ!!!!』
それからしばらく、吹奏楽部員に笑顔はみられなかったそうな・・・。(合掌)
やっと終わりました!え?不完全燃焼だって?すみません、最近耳が遠くて;
花月
