今日も始まる基本合奏
その中で起きた
世にも不思議な
音の事件・・・
ガラクタ交響曲-息漏れの音-
合奏中。相変わらず天才的な指揮を見せる西園寺先生のもと、私達は今日もよりよい演奏を目指し練習していた。
あ〜幸せv今日も楽器を吹けることがこんなにも幸せなんて、私のし・あ・わ・せ・も・のvv
ちょっと危ない顔になりかけたとき。突然西園寺先生の指揮棒が止まった。
「だれ?今の」
今の?今って何もなかったけど・・・。ときどき西園寺先生は、私達に聞き取れないようなミスを発見して問いただす。天才と凡人、しかも子どもである私達の気持ちを考えてほしいです。
「はやく名乗り出なさい。それとも自分でわかってないの?」
わかってないも何も、何を注意されたかがわからないんだから名乗りでることすらできません。
西園寺先生はふぅとため息をついて指揮棒を置いた。そして指揮台を居り、しっかりとした声で告げる。
「今からパート練習に入ります。パートで今した息漏れの音が誰なのか確かめてらっしゃい」
はい、と返事をしてみんなはさっさとパート練の場所へと移動した。
「さっき言ってたのって息漏れのことだったんだね。聞こえた?かじゅま」
「いや全然。あと、かじゅまって言うな」
「これだから凡人は〜」
「みっくんは聞こえたの?」
「なんとなくな♪」
絶対嘘だ。きっと嘘だ。いや、嘘だと言ってください。だってパーリーが聞き取れてない息漏れをみっくんが聞き取れてたなんて。やっぱり私、ただの凡人?
「気にするな、。俺も聞こえてなかったから」
「ホント!?水野!」
やっぱり水野は私の味方だ!わかってるね、ダンナv
「へぇ〜あの水野くんでも聞き取れなかったのかぁ。ま、俺はしっかり聞こえてたけどな」
「なに言ってるんですか。冗談ですよ、三上先輩」
この野郎・・・!冗談だったのかよ!慰めなんていらねぇよ。同情かよ。みかみん先輩なんかの挑発にのってあっさり暴露するなよ。ってか寂しいよ。
「カズ先輩は気付いてました?」
「あぁ」
カズ先輩はいいよ。だって努力家だもん。しょうがない。黒川は・・・。
「俺も聞こえたぜ」
あぁそうですか。知ってたよ。いいもーん。みゆきちゃんとかじゅまがいるもーん。我らサックス凡人トリオ。名実共に真のトリオ結成の瞬間だった。
パート練の場所に移動してさっさとセッティングをし終えたあと、さっそく合奏で吹いていたフレーズを吹いてみる。
まずは全員で。まさかうちのパートにいるとは思ってないから、余裕余裕。このあと一人ずつやってもらって犯人がいなかったら違うフレーズやっちゃお。
そのとき。シューという息漏れの音が聞こえてきてしまった。
全員の音がぴたっと止まる。まさか・・・うちのパート!?
「おいおいマジかよ」
みかみん先輩がみんなの気持ちを代弁した。やばい。うちのパートに息漏れ者がいるなんて。
サックスパートだとわかる=気付かなかったことを西園寺先生が怒る=パーリーが怒られる=私の命がヤバイ・・!
マッハの速さであまりにも現実的な方程式ができてしまった私は、顔色を青くしていった。
「?おーい」
かじゅまの声を聞いてはっと我にかえる。そうだ。早く探さなきゃ。もしかしたら聞き間違いかもしれないし。
とにかく、ここは落ち着いて。一人ずつ吹いてもらおう。
「じゃあセクション順に吹いてって。みっくんから」
「はいよ」
今回の曲はソプラノサックスのみっくん。高い主旋律が聞こえてくる。うん、大丈夫聞こえてない。
「OK。次、みかみん先輩」
何も言わないでこちらも主旋律を吹く。うーん、いい音vってそうじゃなくて。みかみん先輩も大丈夫みたい。なんか残念。これでみかみん先輩だったら、いろいろ言えておもしろかったのに。
「じゃあ、水野」
「はい」
みかみん先輩とは違ってストレートな音。みかみん先輩はどっちかといえば、深みのある音だから。水野も大丈夫。主旋律組は全員クリア。
「次はみゆきちゃん」
「はい、先輩」
まだまだたどたどしいけど、大丈夫。息漏れはしていない。この間やったロングトーン大会の所為か、だいぶ音質がよくなったなぁ。えらい、みゆきちゃん。
「どうでしたか?」
「うん、大丈夫だよ。みゆきちゃん、上手くなったね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑って、和やかな雰囲気。あ〜和む。むっちゃ可愛い。
「じゃあテナーサックス人。行きますよ。かじゅまから」
「おう」
さすがは選抜人。かじゅまはこう見えても、西園寺先生からの選抜でこの部に入った。だからその実力は確か。いつもはヘタレだけどね。
「意外と大丈夫。さすが」
「意外は余計だろ」
「次、黒川」
「無視かよ!」
はいはい、スルー。黒川はたしか翼先輩の推薦だったと思う。天才の推薦とあって、こちらもかなりの実力。当然息漏れの音もなし。合格。
「じゃあカズ先輩、お願いします」
「まかせりぃ」
カズ先輩のパートは伸ばしと刻みが多い。だから楽譜的にも息漏れの音はなし。カズ先輩のことだから、心配はしてなかったけどね。相変わらずいい音!
「よかった。やっぱり聞き間違いだっ・・・・なんでみんなそんなに私を凝視してるわけ?」
小さな机の後ろで聞いてた私は、合奏中のメトロノーム並に見つめられている。何かした?私、何かした?
「まだが残ってんだろ」
黒川がさらりという。あ、もしかして疑ってんの?やだなーみんな。仮にもパーリーよ?そんなわけないじゃん。私じゃないって。
私じゃ・・・私じゃ・・・・だからそんなに見つめないで;
「わかりましたよ、やりますよ」
「当たり前だろうが」
一言多いんだ、みかみん先輩は!
楽器を構えて、かじゅまと黒川と同じ音を出す。なんかこんなに見られると、逆に吹きづらい。危うく吹きミスするところだったけど、なんとか息漏れの音はしなかった。
「やっぱ聞き間違いだったんだな」
みっくんが明るく笑って言う。そうだよ、聞き間違い。はぁよかった。なんとかなった。
嫌な汗かいちゃったよ。アハハ、これで一件落着だね。
「それじゃあ念のためもう一回、やっておきましょう」
一回目とは違って今度は楽な気持ちで吹けた。次はどのフレーズやろうかなぁ〜♪
と、そのとき。やっぱりシューという悪夢の音。やっぱりみんなの動きが止まった。
「誰!?誰!?いや、マジで冗談ならホントに勘弁!」
「誰もそげん性質の悪か冗談なんてやらんやろ」
じゃあなんで音が聞こえるんですかカズせんぱーい!!私嫌ですよ、西園寺先生に怒られるの;
「あのさ、俺。さっき聞いたんだけど。息漏れしてる奴の音」
「誰!?誰なのかじゅま!!」
それならそうと早く言ってよ!誰?私が徹底的に指導してあげるから!
かじゅまの視線が向く先。それは、紛れもなくこの私だった。
またもやみんなの視線を集める。え?ちょっと待って、私?
「それは確かなのか、真田」
「あぁ、の音で一瞬聞こえた」
水野の質問に真剣な面持ちで答えるかじゅま。どうやら嘘じゃないらしい。私ですか!?
「・・お前パーリーだろ?」
「違いますってみかみん先輩!私じゃないですよ!」
「じゃあなんで真田が聞き取れてんだよ」
「誤解です!絶対私じゃないですって!」
「それならもう一回吹いてみたらええやろ」
「わかりました。吹きますよ。吹けばいいんでしょ?吹いて差し上げますよ」
こうなったら意地でも身の潔白を証明してやる!私じゃないよ。サックスパーリーの名に懸けてもいい。絶対私じゃない!
さっきと同じ旋律を吹く。そして中盤あたりに差し掛かったあたりで・・・。
「やっぱお前じゃねぇか」
「ち、ちが・・!私じゃないですってば!」
みかみん先輩は呆れ顔で、でも半分面白そうに言った。今のはミス。そう、吹きミスです!
「、潔く認めろよ」
みっくん、簡単に言わないでよ・・。とにかく私じゃない!
「先輩、私信じてたのに・・・」
「みゆきちゃん!?」
なんでそんなこと言うわけ!?私じゃないから!違うから!頼むからそんな哀れむようなこと言わないで!
「、誰にでもミスはあるさ」
「だから違うってば水野!」
「往生際が悪いぞ、」
「黙れバ一馬!だいたいかじゅまの所為でこうなってんだからね!?」
「な!俺の所為かよ!ってかかじゅまっていうな!」
「あーせからしかー」
「次のフレーズやっちゃいますか」
「そうやな」
黒川とカズ先輩がさくさくと楽譜をめくっている。いやいや、2人も私を助けてよ。自分達にはまったく関係ないってことですか!?
みかみん先輩はからかうし、みっくんはそれ見て笑ってるし、かじゅまは怒るし、水野くんは眺めてるだけだし、みゆきちゃんはショック受けてるし、黒川とカズ先輩は勝手に他のフレーズ吹いてるし・・。
「だから違うってばー!!!!」
私の声は、はるか遠い4階のバスパートのところまで聞こえいたらしい。
ちなみに。息漏れの犯人はトランペットの山川くんのものでした。(だから言ったじゃん!!)
強制終了感丸出し。本当にごめんなさい;;
花月
