楽器は友達
楽器は家族
楽器は恋人
私にとって楽器とは、演奏とは
私そのもの
ガラクタ交響曲-演奏放棄-
空は快晴!雲ひとつない青空の下、今日も元気に愛しいサックスを吹いてます。
周りではお昼休みを外で過ごす元気な生徒たち。うん、健康が一番!・・・ってなんか金八先生みたいだなぁ;
バスケしたり、サッカーしたり、野球したり。でも私は違う。
そりゃたまには友達とおしゃべりしたりするけど、こんな良い天気の日にサックス吹かないなんて、音楽の神様が怒るよ。
というわけで、一人元気に昼練中。私のサックスの音が校庭中に響き渡る。外は響きが悪いから、自分の音がまっすぐに聞こえた。
音質が悪いところ、音程が悪いところ、外なら全部わかってしまう。それが外練の良さでもあり、また怖さでもあった。
「ー!!」
クロちゃんを吹いている途中、どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。私はリードから口を離して辺りを見回した。
どこから聞こえるんだろ。周りには自分たちの遊びに夢中になっている生徒たちしかいない。
「上!上!」
さっきの声だ。指示通り上を見ると、そこには教室から大きく手を振る有紀の姿があった。私も大きく手を振り返す。
「今日も精が出るわねー!」
「こんな良い天気の日に外練しないわけないよー!有紀も一緒にどうー?」
「私はまた今度ー!それより、ボール当てられないように気をつけなさいよー!」
「大丈夫ー!そんなに間抜けじゃ・・・」
「!後ろ!!!」
へ?と後ろを振り返ったときには、遅かった。大きなサッカーボールは私の顔面を直撃。母性本能?でなんとかサックスは死守したけど、私の顔にはしっかりとボールの跡が残った。
「ー!!!」
有紀が大きな声で叫ぶのを聞きながら、私は意識を失った。最後に見たのは透き通るような青空。まるで吸い込まれそうで、ちょっと怖かった。
あぁ、サックスだけでも守れてよかった。これで愛しのサックスが壊れてたら私は・・・。
ボール当てた奴を末代まで呪ってやる・・・!!
「いっっっったぁ・・・」
頭の痛みに目を開けると、見えたものは保健室の汚い天井。ちょっとは天井も掃除しようよ・・ってムリか。
ぼやけていた視界がだんだんと開けてくる。そこではじめて、私は隣に人がいたことに気が付いた。
「!大丈夫?」
「あ、有紀。それに三上先輩」
「み、三上先輩!?」
ん?なんでそんなに驚いてるんですか?三上先輩は三上先輩でしょうが。それにしても、なんで三上先輩みたいな有名人がこんなところへ?
「お前、頭大丈夫か?」
「はぁ、まぁ痛みはしますけど大丈夫だと思います」
「が、三上にちゃんとした敬語を・・・!!」
有紀まで驚いちゃってるし。どうしたの?私なんか変?
とりあえず身体を起こして、目線を合わせる。やっぱりまだ頭が痛い。なにが起こったんだっけ?
たしか昼休みに外にいて、有紀と話してたらボールが当たって、倒れて・・・。あれ?なんで外にいたんだっけ?
「あのぉ・・・私・・・」
「安心して。のサックスならちゃんとしまっておいたから」
「サックス?」
なんのこと?サックスって、ブラバンが使ってるあのサックスのことだよね。それと私となんの関係があるの?
私の疑問に感づいたらしく、三上先輩がまた驚いた表情を見せる。
「お前まさか自分のことまで忘れたわけじゃないよな?」
「それくらいは覚えてますよ。名前もちゃんと言えますし」
「やっぱおかしい。普段のなら真っ先にサックスのこと心配するのに・・・」
だからそのサックスってなんですか、三上先輩。それに、学校で1、2を争うほどの人気者がなんで私のお見舞いなんかに来てるわけ?
あーもーわからないことが多すぎて「?」がやたら語尾につく。どういうことか、はっきり説明してほしいんだけど、私はどっか変なのかなぁ。
「。あんた何部に入ってるか覚えてるわよね?」
「私部活なんて入ってたの?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
なんで二人で顔見合わせてるの?しかもそんな驚いた顔で。あ、もしかして私吹奏楽部だったり?でも楽器なんて生まれてこの方触ったことないしなぁ。うーん・・・。
しばらく考え込んでいると、ベッドのカーテンが開いて保健室の先生が入ってきた。若いような年増のような、微妙なラインを彷徨っている感じの女性。
「あらさん。大丈夫?」
「先生、が変なんです」
「さんが変なのはいつものことじゃない」
いやいや先生。にっこり笑って酷いこと言わないでください。傷つきますから。有紀も真顔で変とか言わないで。こう見えても繊細だからね。
「それが、普段とはまた違った変なんです」
三上先輩まで・・・。普段の私はどんだけ変わってるんですか!?仮にも病人ですよ?もっといたわってくれてもいいのに。
「どういう風に変なの?」
もういいです、慣れました。私はどうせ変ですよ。
「自分が何部か忘れちゃってるんです」
「それは大変ね。たぶん一時的な記憶喪失だと思うわ」
「「「記憶喪失!!?!!?!?!」」」
おいおいちょっと待ってよ!記憶喪失って、あの記憶喪失?ドラマとかでよくある、お決まりのパターンですか?
だってただボールが当たっただけなのに、なんで記憶喪失なんかに・・・。しかも私自身、私の個人情報はひとつたりとも忘れてないよ?
「打ち所が悪かったのね。まぁそのうち直ると思うから、気にしないほうがいいわ」
いや、気にするから。記憶喪失とか言われて気にしないほうが変だから。ね、三上先輩。有紀。
「そうですか。じゃあ気にしません」
「まぁ記憶がなくてもだしな。そんな大慌てするほどのことでもねぇだろ」
待て。ちょっとは気にしろよ!軽いとはいえ、記憶がないんだよ!?
私を変だ変だというわりには、有紀と三上先輩のほうがよっぽど変わってる。今まで私はこんな人たちといったいどんな部活ライフを送ってたんだか・・・。
「とにかく、渋沢と西園寺先生には俺から言っとく。しばらく部活は休みだな」
「だから私は何部に入ってたんですか?」
「吹奏楽部だ」
ガーン!私、あの吹奏楽部に入ってたの!?超美形しか集まらないというあの部活に・・!よく今まで生きてこられたなぁ、私。(遠い目)
「あ、でも今日は一応部活出といたほうがいいわ。今月の予定表配るから」
「でも私サックスなんて吹けないよ?」
「大丈夫よ。は覚えてなくても、身体は覚えてるはずだからv」
そんなハートマークつけて笑われても・・・。覚えてないもんどうやって吹けっていうんですか。
そんなこんなで私は訳もわからぬまま、部活へ出ることになった。時間っていうのはむごいもので、あっという間に過ぎ、午後練の時が来てしまった。
「」
「渋沢先輩」
有紀と一緒に音楽室へ行くと、渋沢先輩が声をかけてきた。まともに話したことがなかったので(あるんだろうけど、記憶がないから)緊張してしまう。
「三上から話は聞いたよ。大変だろうけど、頑張ってな」
「は、はい!ありがとうございます!」
私今、あの渋沢先輩としゃべってるよー!すごい!こんな人たちと毎日しゃべってたのか、私は!
渋沢先輩と別れて、有紀は楽器倉庫へと連れてってくれた。
へぇ、こんなに楽器があるんだぁ。知らなかったや。すごいんだね、吹奏楽部って。
「コレがの楽器。どう?なにか思い出さない?」
「よく、わかんないけど・・・・。なんか懐かしい」
「おー!さすがはSAX愛好者やなぁ」
誰!?突然後ろから聞こえてきた関西弁に、有紀と二人で振り返ると、そこには金髪のトランペッターが笑って立っていた。
「シゲ。今日はちゃんと時間通りに部活来たのね」
「今日は絶対来いってタツボンに言われてなぁ。それより、記憶喪失なんやて?」
「なんで、知ってるんですか?」
「うわぁー!が敬語使っとる!新鮮やなぁv」
「質問に答えてください」
だって話したことないもん。クラスも違うし、初対面でしょ?まぁ、藤村くんはそうじゃないと思うけど。
「俺の情報網はすごいんやでv」
「そ、そうですか・・・・」
なんとなく凄いってことはわかったから、まぁいいや。さて、さっそく楽器を組み立てましょうかね。
「そういえば有紀、さっきよっさんが呼んどったで」
「ホント?わかった。ごめん、。ちょっと行ってくるね」
「ちょ、ゆ、有紀!!」
行っちゃった・・・。どうやって組み立てればいいの、コレ。私吹いたこともないから組み立て方なんてわかんないよ。
「あの、藤村くん。組み立て方わかる・・・っていないし!」
いつの間に消えたんだあいつは!倉庫を見渡しても、どこにもいない。ホントに中学生?
どうしよう。誰もいなくなっちゃった。早く組み立てないと、合奏が始まるってさっき言ってたし・・・。絶体絶命だわ。
「。何固まってんだ?」
「黒川くん・・・」
「くん!?」
あれ、なんでそんなに驚くの?あ、そっか。普段は私黒川くんなんて呼んでないんだ。きっと。でも私的には初対面だし、やっぱり呼び捨ては恥ずかしい・・。
ま、いっか。黒川くんで。
「これ、組み立てられなくて・・・」
「なんか今日、お前変だな」
「へ、変じゃないよ!?全然普通!」
くっそぉ・・・どいつもこいつも私のこと変、変って。確かに今は記憶ないけど、変人じゃない!
「組み立てられないって・・・まぁいいか。ホラ、貸してみろ」
「あ、ありがとう!!」
なんて優しいんだ黒川くん!君はきっといい人になれるよ!(意味不明)
黒川くんはちゃっちゃと私の楽器を組み立てて、手渡してくれた。持ち方もわからなかったけど、黒い紐(ストラップ)を首にかけて、きちんと持ち方まで教えてくれた。
たぶん気付いてるかな。でも言わないところが彼らしい。いい人だ・・・。
「じゃ、俺は先行くから」
「うん!ありがとう、黒川くん!」
黒川くんはやっぱり慣れないらしいその呼び方に戸惑いつつ、倉庫を後にする。このご恩は一生忘れません。
「ゴメンね・・・って組み立てられたの?」
「黒川くんがやってくれた!」
「そっか、よかった。じゃあとにかく吹けるか確かめてみましょ」
有紀も自分の楽器を持って、廊下へ出た。そこでまず指の位置を教えてもらって、音を出してみることにする。
「うる覚えだけど、たぶんこんな感じ。さ、吹いてみて?」
有紀に言われたとおり、息を吹き込んでみる。しかし、スースーという息しか出ない。やっぱりムリなんだよ。吹き方忘れちゃってるから。
それからしばらく有紀指導の下頑張ってみたけど、やっぱり音は出なかった。
「しょうがないわ。こうなったらあの人を呼ぶしかない」
「あの人って・・・?」
「カーズさーん!!」
カズさんってもしかして功刀先輩!?ダメだって、そんな人呼んじゃ!緊張しちゃって何もできない!
「呼んだか?」
来ちゃった・・・(泣)功刀先輩は厳しいで有名でしょ?そんな方に教えてもらっちゃムリですよ・・・。
「実はカクカクシカジカで・・・」
「なるほどな。わかった。任せりぃ」
「じゃ、!しっかり教わりなさいねー」
バイバイと手を振って有紀は合奏室へと入っていった。あいつ、結局めんどくさくなったから逃げたんだな!?そうなんだな!?
「く、功刀先輩・・・よろしくお願いします」
「なんや気色わるかなぁ・・・まぁ良か。とにかく音出してみんね」
言われたとおり、マッピに口をつけ音を出す。しかしやっぱり出てくるのは息の音だけ。
「もっとこうやって・・・」
「えっと、こうですか?」
「ちゃう!こうや!」
「こんな感じ?」
「あーだからちゃうって!」
功刀先輩の熱い指導の下、こんな感じでやっと基本になる音が出た。そのときにはもう二人ともヘトヘト。すでに合奏も始まっていたが、出る気力も残ってなかった。
「もう嫌です!こんなの!」
「!?」
いきなり叫びだした私に功刀先輩が驚きの表情を見せる。
もう耐えられない!こんな楽器のどこがいいわけ!?大体音楽は聴くもんで吹くもんじゃないでしょうが!なんで私がこんな難しい楽器吹かされなきゃいけないの!?
「帰ります、私」
「ちょ、ちょお待て!!」
「離してください!功刀先輩!」
「なんの騒ぎ?」
「「さ、西園寺先生」」
廊下で騒いでいた声が聞こえたのか、合奏室から西園寺先生が出てきた。後ろから他の部員達も見ている。
「さん、あなた演奏放棄する気?」
「演奏放棄も何も私は元からこんな部活に入ってません!」
「・・・・・小島さん」
「は、はい・・・!」
「さんが打ったのは確か、頭だったわよね?」
「そ、そうですけど・・・」
まさか、とたぶんその場にいた全員が思っていたと思う。私はどこから取り出したのか、竹刀を持ってじりじりと迫り来る西園寺先生に後ずさりした。しかし、廊下の角に追い詰められる。
功刀先輩はとっくに非難済み。助けてくださいよ!誰か!
「悪く思わないでね。これもみんなさんのためなの」
「ちょ、せ、先生・・!ギャー!!!!!!」
私の断末魔は学校中に響き渡った。
翌日。私はすっきり爽快で学校へ訪れた。もちろん部活をするためにv
「おはよう、」
「あ、有紀!おはよう」
「よかったわね、記憶が戻って」
「うん!でもなんでか頭が痛いんだよねー」
一瞬有紀の顔がこわばったけど、またすぐに元に戻る。
「そ、そうなの?大丈夫?」
「うん平気!だけどなんでだろう・・・」
「さ、さぁ・・・・」
有紀は目を逸らしたまま先に階段を上がっていった。
ちなみにこの時、私はどうやって記憶が戻ったかなんて知らなかった。
演奏放棄=楽器を吹かない=記憶喪失みたいな方程式のもと出来た話です。
西園寺先生は強い。
花月
