ロングトーン大会の悪夢











それがまた繰り返されようとしている











しかし今度は・・・











一部の部員にだけ


















































































ガラクタ交響曲-チューナーの使用法-














































































いつものように朝練が終わり、ミーティングの時間になる。もっとサックスを吹いていたかったけど、しぶしぶ諦めて、1音へと移動。

それでも愛しのサックスはちゃんと腕の中に収まっていた。もちろん、これもいつものこと。もはや誰もツッコミはしなかった。

手早くパートのみんなを並ばせて、性悪みかみん先輩の前に座る。そして、なぜか一発殴られる。

「いったぁ・・・!なんで殴るんですか!みかみん先輩!」

「お前今失礼なこと思っただろ」

ちっ・・バレてたか。この部活にはエスパーが多い。人の心を勝手に読むな!プライバシーの侵害だ!

は考えてることが顔に出やすいだけでしょ」

みかみん先輩に殴られた頭をさすりながらそんなことを考えていると隣に座っていたクラリネットのパートリーダー英士がそんなことを口走った。

また読まれたし・・・。やっぱり私は顔に出やすいんだ。でも、そんなにはっきり読み取れるほど顔に出てる?

「「出てる」」

今度はみかみん先輩と英士からダブルでツッコミを食らう。

あーあーそうですか。そうなんですか。わかりましたよ。私はこうやって一生心を読まれ続けるんですね。もうどうでもいいや。(ホロリ)

軽く心に傷を作ったところで、部長の渋沢先輩と副部長のよっさん、有紀が前に出てきた。部長を挟むように副部長の二人が立つと、渋沢先輩の号令がかかる。

「これからミーティングを始めます。礼」

『お願いします』

早く終わんないかなぁ。早く終わったらまたちょっとはサックス吹けるかもしれないし。

朝のミーティングは短い時と長い時の差が激しい。短い時は本当に簡単に終わるし、長い時は楽器をしまう時間すらなくなる。

他のみんなはミーティング始まる前に楽器を片付けてるんだけど、私の場合長引いてしまうと楽器を持ったまま教室へ向かわなくてはならなくなる。

それで何回も先生に怒られた。でも懲りずにまた楽器を持ってくる。

なんにでも妥協しないこと。それが私のポリシーよ!(意味が違う)

「今日は長くなりそうだなぁ」

「え?なんで?」

逆隣りに座っているトランペットのパートリーダー誠二がポツリと呟いた。

「だってキャプテン、なんかの資料持ってるじゃん」

「でも今日は西園寺先生いないから、その分短くなるんじゃない?」

「たぶんあの資料、西園寺先生から渡されたものだと思うよ」

なるほど。つまり渋沢先輩が西園寺先生の分までしゃべると。そういうわけですね。

「俺今日日直だから日誌取りに行かなきゃなんねぇのにー・・・」

「私もサックス吹きたかったのにー・・・」

はぁ、と二人同時にため息をつく。こりゃまた、担任の先生に怒られるなぁ。

まぁいいや。とにかく部長の話を聞きましょうか。

「最近チューナーの使い方が悪いと西園寺先生からご指摘を受けました。なので今日の放課後はパートリーダー、チューナー係り、チューニングリーダーを中心にチューナーの使用法についての学習会を開きます」

チューナーの使用法についての学習会?ってかチューニング関係の係りの人たちが出席するのはわかるんだけど、なんでパートリーダーもなの?

渋沢部長はさらに話を進めた。

「放課後、セッティングリーダーと1年生は1音のセッティング。他の人たちは来た人から筆記用具持参でパートごとに座って待機。人が集まり次第、学習会を開始します。何か質問は?」

『ありませーん!』

「では、副部長、パートリーダー、チューナー係、チューニングリーダーは昼休み3年2組前に集合してください。以上、解散」

『ありがとうございました!』

いつも通り、3年生から順番に1音を出て行く。学習会かぁ・・・。ということは、昼練もできないし放課後練で楽器も吹けないってわけ!?そんなのイヤぁ!!

「あー!楽器吹きたいよぉ!」

「それより、。今日の学習会、覚悟したほうがいいと思うぜ?」

「なんで?ただの学習会でしょ?」

同じパートであり、チューナー係の黒川が私の横に来て、そう呟く。

「あの西園寺先生が普通の学習会を開くと思うか?」

た、たしかに・・・;今までの前例から考えるとまず間違いなく普通の学習会なんて開くわけがない。

きっと何かがあるに違いない。あのロングトーン大会のように・・・。

たぶんあの出来事はみんなの心の中に少なからずとも傷を作っているだろう。

そりゃ、あんなまずいもの飲まされたら・・・ねぇ?

巨大な不安を抱えながら、あっという間に午前中の授業は終わり、昼休みになった。有紀と一緒に3年2組の教室へと向かう。

3年生の教室は2階。2階のフロアには大人っぽい先輩達がうじゃうじゃしている。ここに来るたび、緊張するんだよねぇ。

3年2組前にはすでに人が揃っていた。私たちが最後だったみたい。それでもちゃんと時間通り。

「よし、全員集まったな」

渋沢部長が、爽やかな笑顔で話を始める。相変わらず爽やか過ぎるほど爽やかだなぁ。癒されるわぁ・・・って、ちょっと待て。

「なんでみかみん先輩がいるんですか」

「別に。俺は自分のクラスの前に立ってるだけだ」

こんのへりくつ野郎・・・!そういえばみかみん先輩も2組だったことすっかり忘れてた。部長は大体話し合いを自分の教室の前でやるから、必ずみかみん先輩がくっついてくる。

まぁ、今に始まったことじゃないからもういいけどさ。

「三上、ここにいてもいいが、話を聞いた以上お前にも参加してもらうことになるぞ?」

「じゃ!俺用事あるから」

片手を挙げてみかみん先輩は去っていく。さすがは部長。みかみん先輩の扱い方も慣れていた。

みかみん先輩も自分が巻き込まれるのは嫌らしい。どうせならみかみん先輩にも参加してもらえば良かった。そうなったらおもしろいのに。(いろんな意味で)

「まずはこの学習会の目的だが、チューナーの正しい使用法と効果をみんなに知ってもらうこと。特に1年生はまだ使い方がわからないものもいるらしいからな」

「どうやって学習会を進めるんだ?」

「俺たちもなんかやるんスかー?」

山口先輩と誠二が揃って質問をする。そうそう、それが一番肝心。役割を聞かないと話しにならないからね。

渋沢先輩は隣にいるよっさんに何か合図をした。そしてよっさんが手に持っていた冊子のようなものを配り始める。

その表紙には・・・。

『みんなで学ぼう!チューナー使用法☆』

一同フリーズ。無理もない。黒川が言っていた嫌な予感が的中してしまった。

なんか子ども番組のタイトル的な・・・。で、でも変なのはタイトルだけで中身はきっと・・・!

「渋沢、ちなみにこれ作ったのって・・・」

翼先輩が恐る恐る質問すると、渋沢先輩は爽やかに笑ってこう言った。

「もちろん、西園寺先生だ」

やっぱり・・・。ということは中身もたぶん、あー信じたくない。っていうかこの冊子を開きたくない。

「各自放課後までにこの台本に書いてある台詞を覚えてきてくれ。あ、ちなみに衣装は音楽準備室に用意してあるから、放課後早めに来て着替えておくように」

い、衣装まであるんですか!?さすが天災天才西園寺先生。細部にまで気を配ってる。

ってか学習会じゃなかったの?なんでこんな・・・こんな・・・・。

「私、入る部活間違えたかな・・・」

「しょうがないわよ、。あの西園寺先生がやることなんだから」

有紀がポンと私の肩に手を置く。たぶんみんなが私と同じ気持ちだと思う。

あーあ、これからどうなるんだろうなぁ・・・。

その場はそれだけで解散になり、重い足取りで教室へ戻る。

そしていよいよ、運命の放課後。

ざわめく1音の隣、音楽準備室。そこで私たちパーリーとチューナー係、そしてチューニングリーダーはそれぞれの衣装に着替えていた。

どこから取り寄せたのかこの衣装、かなり凝っている。まるで某教育チャンネルの子供向け番組みたいな感じだ。

「お○さんと一緒も真っ青ですね」

「ねぇ、これ本当にやるの?」

隣で青いつなぎを着ている笠井くんが衣装を見ながら呟く。私は台本を読みながら有紀に聞いた。

「当たり前じゃない。楽しみにしてるわよ、♪」

「うん頑張る・・・ってなんで有紀は何も着てないわけ!?」

「あら?聞いてないの?部長、副部長はやらないのよ」

「はぁ!?」

ちょっと待った!それって職権乱用じゃない?ずるい!部長も有紀もよっさんも、自分達だけ楽しもうとしてるんだ!

「有紀もやろうよー!ってか私の代わりに!」

「い・やv」

そんな超笑顔で否定しなくても・・・;わかったよ、やればいいんでしょ、やれば。

こうなったらもうヤケだ。笑われようが何されようがパートリーダーの意地を見せてやる・・・!

「準備ができたぞ。みんな、そろそろ時間だ」

渋沢先輩がにっこり笑って準備室に顔をのぞかす。あーすっごいにこにこしてるし。あの人絶対楽しんでるよ。

「頑張ろうね・・・みんな・・・」

『・・・はぁ』(ため息)






















































































「では、これより第1回チューナーの使用法についての学習会をはじめます。わかったことがあれば随時メモを取るように」

渋沢先輩の声が聞こえる。それと同時に私たちは意を決して1音へ飛び込んだ。

「「「「「「「「「「「「「みなさーん!こーんにーちはー!!☆☆」」」」」」」」」」」」」

しぃんと静まりかえる1音。痛い!みんなの視線が痛い!ってかなにより、私たちの存在がイタイ!

半ば泣きそうになりながら、私は台本の通りに言葉を発する。は、恥ずかしい・・・。

「今日は私たちと一緒に、楽しく!チューナーの使い方を学びましょうねv」

「それじゃ〜、チューナーの使い方を教えてくれるお兄さんたちを呼ぶよ〜!みんなも一緒に呼んでみよう〜!せーの・・・」

『タッキー!ノリックー!政輝ー!将ちゃーん!!』

「「「「はぁぁい!」」」」

元気よく、チューナー係とチューニングリーダーの4人が登場。4人はそれぞれ色違いのつなぎを着て、胸にマジックで名前を書かれている。

相変わらず笑顔のタッキー。なんやかんやで楽しんでるノリック。明らかに恥ずかしそうな黒川。そして全く違和感のない将ちゃん。

「まずは、政輝お兄さんと将お兄さんにチューナーの使い方を教わろう」

棒読み、しかもかなりテンション低めで台詞を言ったのは、翼先輩。なんかこめかみに怒りマークが見えるんだけど・・・。

「まずチューナーには大きく分けて2つの機能がついていま・・・じゃなかった、ついているよ!」

「一つは音を合わせるチューニング機能。もう一つは正確な音を出す機能」

将ちゃんは一応台詞通りに呼んでるけど、黒川は完璧無視。淡々と説明をしている。くっそー!黒川!私だって台本無視したいのに!

あ、次は笠井くんの台詞だ。この人もあんまり違和感ないんだよね。

「音を合わせるには、どうやってチューナーを使えばいいの?」

かっわいーv笠井くん、君はそのまま子供向け番組にいけるよ!と、ここで黒川がチューナーを取り出した。

「チューナーによって違うけど、大体のチューナーは3つの段階が設けてある。楽器に応じてそれを使い分け、チューニングするんだ」

黒川、かったるいって顔に書いてあるよ;そして将ちゃんがさらに補足。

「チューナーを楽器の音が出る部分に近づけるか、マイクをそこにつけるかして、準備は完了!そのまま基準になる音を出せばいいんで・・・だ!」

所々敬語が混ざりそうになるところが、将ちゃんらしくて可愛い。

「じゃあ、どうやったらチューニング完了ってことになるのー?」

山口先輩が潤目になりながら元気に手を上げて質問する。まるで普段の誠二みたいだ。

ドンマイ、山口先輩。その涙はきっと無駄じゃないですよ。

「真ん中の0って値に針が止まればOK」

「ただし、0の辺りを針がフラフラ動いてしまうようなら、チューニング完了とは言えないんだ」

「じゃあ次は、ヘルツについてタッキーとノリックに聞いてみるよ」

英士が・・・あの英士が・・・!タッキーとかノリックとか言ってるよ!これは貴重な!録音したい!

「ほな、説明するで!ヘルツっていうんは、バンドで統一する音の値のことや♪」

「これが1でも狂ってしまうと、まったく違った音になってしまうんだよ」

完璧にはまり役のノリック。そして冷静に説明を進めるタッキー。恐るべし、チューニングリーダー。

「はいはーい!このバンドは何ヘルツにあわせてあるんですかー?」

いつも通りのテンションで誠二が手をあげ、質問する。

「夏場は442、冬場は441やで!気温によって代わるんや☆」

「お、音を出す・・・機能は・・・な、な、何に・・使うんだ・・い・・・?///」

天城、恥ずかしがりすぎ、どもりすぎ。まぁ、しょうがないか。ってか顔赤すぎ。

「金管ならマウスピースの音を合わせるのに使うよ。他にも耳を鍛えるとか、方法は様々さ」

タッキーの笑顔がだんだん怖くなってるよ・・温度が下がっているような・・・。

よし、これで説明は終わり!あとは閉めるだけ。閉めるのは確か・・・。

「それやぁ、また!次回もこのチャンネルで!」

「また見てくれるかな!?」

「「「「「「「「「「「「いいとも〜!!!☆☆」」」」」」」」」」」」

よっさん・・・内藤先輩・・・・ってかちょっと待て!

別番組入ってるやん!!いい○も入ってるって!!これお○さんと一緒がモチーフじゃないの!?

元気よく拳を上げて、我先にと急いで1音から出て行くパーリーとチューナ係、チューニングリーダーたち。

このあと、部員全員からもちろん、学校中にまでこの噂は広まり、しばらく笑われたことは言うまでもない。






教訓:西園寺先生の考えることは、ろくなことがない。






















某教育テレビ番組を見て思いついたネタ。わけわからんくてすみません;

花月