年に一度の戦い
その白熱したバトルを制するのは
天才か
絆か
戦いの火蓋が
今、切って落とされる
ガラクタ交響曲-アンサンブルコンテスト-
今年もこの季節がやってきた。
「―――というわけで、アンサンブルコンテストの校内予選が近々あります。参加希望者は今週中に届け出てください。以上、解散」
『ありがとうございました!』
朝のミーティングが終わった瞬間。私は興奮のあまり思わず楽器を高々と掲げてしまった。
これも毎年のことなので、もはや誰もツッコミはしない。今年は行ってきたばっかりの1年生もまたあの先輩かぁ程度にしかみていなかった。
なんか軽く寂しいんですけど。あれ?気のせい?まぁいっか。
そんなことより!待ちに待ったアンサンブルコンテストの季節がやってきましたよ、みなさん!
今年も校内予選を突破するのは私たちサックスパートって決まってるのよ。なんたって笛中吹奏楽部の伝統だからね、サックスパートのアンサンブルコンテスト出場は。
「やったやった♪今年も私たちの勇姿が見られるよ〜んv」
「、騒いでないで早く楽器片付けたら?また先生に怒られるよ」
誰だ!私の悦時間を遮るやつは!
勢いよく後を向いたら、そこに立っていたのは天才・椎名翼先輩。
はっ!そうだった!翼先輩といえば、毎年アンサンブルコンテスト出場の枠をかけて争うライバル。当然今年も私たちと競うことになる。
この余裕に満ちた不敵な笑顔。ちくしょー、絶対負けない!
「翼先輩、今年は辞退したほうがいいんじゃないですか?だって勝つのは私たちサックスパートって決まってますもん」
「甘いね。俺の率いる金管五重奏が負けるわけないだろ?そっちこそ早く辞退したほうが恥かかなくて済むんじゃないの?」
「私たちサックスパートが負ける要素なんて一つもありませんよ。見ててわかりません?私を筆頭とするあの天才たちを!」
「ふん、思い込みもたいがいにしたほうがいいね。今年の金管五重奏は選りすぐりのメンバーを集めたから、サックスなんて固定メンバー揃いのところなんか足元にも及ばないよ」
相変わらず憎たらしい〜!こうなったら意地でも勝ってやる!笛中代表になるのは私たちだ!
普段なら恐れ多くて決して喧嘩なんかふっかけないけど、アンサンブルコンテストとなれば話は別。なんとしてでも勝利を手に入れないと。歴代の先輩方に申し訳ない。
翼先輩と私の間に激しい火花が散った。
「にらみ合ってるのはいいけど、早く出ねぇと部長に鍵閉められんぞ」
通りすがりの黒川にそう注意されて、私たちはにらみ合ったまま素直に1音を後にした。
黒川、あんたもサックスパートとしてちょっとは対抗心燃やしなさいよ。このミスターマイペースめ!
翼先輩が帰ったあとも、私はまだ楽器を握り締め闘志を燃やしていた。絶対に負けない。特に金管五重奏にだけは!
チャイムの音が鳴り響くのも気付かずに、私の後ろには炎が燃え上がっていた。
無論、このあと担任の先生に怒られたのはいうまでもない。
「まぁ毎年のことだけど、今年もやっぱり翼先輩と張り合ってたわね、」
「当たり前じゃん、有紀!アンサンブルコンテストは私たちの晴れ舞台なのよ!」
昼休み、お弁当を食べながら有紀にアンサンブルコンテストについて熱く語る。
昔から、金管五重奏とサックスパートはアンサンブルコンテストで競い合っていた。
まぁ結果は私たちの圧勝・・・ってなに?アンサンブルコンテストの説明をしろって?はいはい、わかってますよ。これが主人公の役目だもんね。
でもさ、こういうのは脇役の代名詞であるみかみん先輩とかかじゅまとかにやらせても・・・わかったからそう睨まないで。ちゃんとやるから。
アンサンブルコンテスト。年に1回、各学校から代表チームを出して地区予選、東京大会、関東大会、全国大会と勝ち進む、言わば吹奏楽コンクールのアンサンブルバージョン。
毎年このコンテストでいい成績を残してる学校はその年の吹奏楽コンクールでもいい成績を残してる。
だからまぁ本番までの肩慣らしって感じで、けっこうどこの学校も気合が入ってたりするわけ。
そういう私たち笛中も毎年東京大会までは出場できるまぁ強豪校。その学校の代表になるんだから、かなりの実力が必要なの。
我が笛中は出場者が多い場合、校内予選っていうのを開いてどのチームを登録するかを決める。そこで毎年争ってるのがサックスパートと金管五重奏。まぁ、正確に言えばサックス四重奏なんだけどね。
とまぁこんな感じ。言い足りないことは、話の中で説明があると思うから。たぶん。(おい)
なにはともあれ、重要なのはサックスパートと金管五重奏は敵対してるってこと!ここがわかればあとは問題ナッシング!
「アバウトな説明ね・・・;」
「ノープロブレムよ、有紀!気持ちは伝わったから!」
「はぁ;」
あ、忘れてた。今日の放課後誰をメンバーにするか決めなきゃ。
今年は人数が多いから2チームくらいできるかな。サックスならどの楽器も吹けるっていう人たちが揃ってることだし。
なんなら全部サックスパートでアンサンブルコンテストを埋め尽くしてもいいのよね。そのほうがパーリーとしては嬉しい限り。
うっひっひ、と怪しい笑いをしていたら、軽く有紀に軽蔑された。だって考えるだけで笑いが止まらないんだもん。楽しすぎて!
まぁ、そんなこんなで昼休みは終わり放課後練の時間。今日はラッキーなことにパート練だった。
「えーっと、それでは今年のアンサンブルコンテストに向けて、チーム分けをしたいと思います。今年は人数が多いので、二つのチームを作ります」
さぁさぁ作るわよ!絶対に負けない最強チーム!2つもあれば安泰よね。
「あーまた始まったばい、の変な負けん気・・・」
「仕方ないっすよ、毎年のことなんだから」
カズ先輩とかじゅまがいろいろ言ってるけど、そこはスルー。さっそく分けていきましょ♪
「まずAチームね。A・SAX1、みかみん先輩。A・SAX2、みっくん。T・SAX、私。B・SAX、カズ先輩。以上。次はBチーム・・・ってなんでみんな頭にはてなマーク浮かべてんの?」
「いや、だってさ・・・」
みっくんが頬を掻きながら小声で言った。
「功刀先輩をAチームでつかったら、バリサク誰がやんの?」
フッフッフ・・・甘いわね、みっくん。私はパーリーよ?そこらへんの対策はちゃんと練ってあるって。
「心配ご無用!わがサックスパートには、あの椎名翼先輩ご推薦の天才プレイヤーがいらっしゃるのです!」
「さっきまでその椎名と争ってたのはどこのどいつだよ」
「シャラップ、みかみん先輩!そのお方は・・・」
ジャカジャカジャカジャカ・・・(ドラムロール)ジャン!
「黒川柾輝くんです!!!」
おぉ〜!とわけのわからない紹介の仕方に一同拍手と共に黒川を見る。
実は黒川。いつもはテナーやってるけど、バリサクもできてしまうという器用な人だったのだ。
それを知ってるのは翼先輩と西園寺先生と、その二人の会話を偶然聞いてしまった私しかいない。なんか得した気分vっていっても今全員に発表しちゃったんだけどね;
とにかく!こんな器用な人間を使わないわけにはいかない!というわけで、バリサクよろしくね。黒川!
「なんでバリサクできんだ?黒川」
「まぁ、昔ちょっとやってたからな。功刀先輩ほどじゃねぇけど」
ふーん、とかじゅまが納得したように頷く。なんかさりげなくカズ先輩を立てるところが黒川らしくて素敵よ!
「そんなこんなでBチームは、A・SAX1、水野。A・SAX2、みゆきちゃん。T・SAX、かじゅま。B・SAX、黒川。この2チームで校内予選を潜り抜けます!決して手を抜かないように!」
基本お祭り好きなみっくんと、何事にも一生懸命なみゆきちゃんは乗り気。かじゅまと水野はまぁ普通。それでも言われたことはちゃんとやるタイプだから大丈夫。カズ先輩も同じく。真面目だからね。
問題は黒川とみかみん先輩。どうもやる気が感じられない。特にみかみん先輩なんかAチームのくせにだるそうにしてる。
けどまぁ、腕は確かだから大丈夫でしょ。
あとは曲だなぁ・・・どうするか。楽器店いって探してきてもいいんだけど、それだとみんなの意見聞けないし・・・。あ、そうだ。こういうときは書記に聞いたほうがいいわよね!
「カズ先輩、悪いんですけどパート練進めといてください。かじゅまは私と一緒に準備室へ行くわよ!」
「え?あ、あぁ」
かじゅまをむりやり引きつれ、準備室へと向かう。
書記は楽譜の管理も任されているから、楽譜で困ったときには書記に聞くのが一番。ちなみに準備室には楽譜の棚が山ほどある。
1音の隣にある準備室のドアを開けると、早くも先客が楽譜を調べていた。
「お、一馬に!お前らも楽譜探し?」
もう一人の書記である結人が片手を上げてそう聞いてきた。傍らには膨大な数の楽譜。そしてそれらを漁っているのは・・・。
「なんだ、へたれサックスパートか」
「へたれじゃないですよ!そっちこそダメ金管グループじゃないですか!」
かじゅま。今ならヘタレといわれ続けた君の気持ちが良くわかるよ。これからは少しだけ控えるね。(でも止めはしない)
翼先輩と、おそらく今回の五重奏のメンバーであろう人たちは必死に楽譜を探していた。
五重奏はトランペット2本、ホルン1本、トロンボーン1本、チューバ1本の計5人で構成されている。
ホルンは翼先輩として、トランペットは誠二とシゲ。トロンボーンは須釜先輩。チューバに至っては副部長のよっさんだ。
確かに見た限り、ものすごいメンツ。これは強敵になりそう・・・。
でも気で負けちゃダメ!こんな人たち、私たちサックスパートにかかれば一ひねりよ!
何事も強気、そう。強気でいかなくちゃ。
翼先輩たちのグループに負け時とこっちもかじゅまに手伝ってもらって必死に楽譜を探す。
負けてられっか!でも楽譜は慎重に探さないと。うーんどれがいいかなぁ。
そして探すこと約2時間。やっとぴったりの曲を2つ見つけた。
レベル的に難しいほうをAチームに振り分けよう。よっし!さっそくみんなに持って帰ってあげよう!
「それじゃあお先に失礼します〜♪」
まだ探し続けている翼先輩たちに別れを告げて、ルンルン気分でパート練の場所へ帰っていく。なんかこれだけでもう勝った気分になってくる。
「みんなお待たせ!曲選んできたよ!さっそくこの曲で練習・・・ってどうしたの?」
「気の毒だな、」
みっくんが哀れんだように私をみる。他のみんなも同様。え?なに?なになに?なになになに!?
「先輩、あんなに椎名先輩たちと戦うこと楽しみにしてたのに・・・」
いや、みゆきちゃん別に楽しみにはしてないんだけど・・・ってホントに何があったの!?
「何事?みかみん先輩!」
「さっき西園寺先生が通って、今年は校内予選やらねぇんだと」
え・・・?はい・・・?今、なんと・・・?
校内予選ヲヤラナイ!?
「なんだってぇぇぇぇ!?!?!?!?!」
なんで!?どうして!?どういうこと!?笛中の伝統行事が!!!(壊)
「サックスパートと金管五重奏以外はみんな出場しねぇらしいぜ。だからあんまり大げさにすんなって言ったんだよ」
そんな、みかみん先輩・・・。つまり、私たちの闘志にみんなビビって参加を辞退したってこと!?
あーもー!今年こそこてんぱんに金管グループを叩き潰せると思ったのに!なんでみんな参加しないのよ!
っていうか、一生懸命張っていた対抗意識はどうなるの!?もうどうすればいいわけ!?
「まぁとりあえず・・・」
「「「「「「「出場おめでとうございます」」」」」」」
サックスパートの面々は口をそろえて私にそう言った。こんなんじゃ出場しても嬉しくないよ!
おめでたくないーーーーーー!!!!!!!!
結局笛中はアンサンブルコンテストで東京大会金賞を受賞しました。チャンチャン。
だんだんオチが一定化してませんか・・・?(聞くな
花月
