悔しかった
















苦しかった
















辛かった
















だけどそれ以上に
















お前は悲しんでくれてたんだな




































































廃ビル屋上














































































練習が終わって、俺はいつものように廃ビルの屋上に忍び込んでいた。ここから見える景色はとても綺麗で好きだ。もうすぐ日が完全に落ちる。その様子を、俺は黙って見ていた。

東京選抜に落ちた。同じ学校の同じ学年の同じFWの鳴海は受かったのに、俺だけ落ちた。

なんでだよ。実力テストでも練習でも、あれだけ絶賛してたくせに、なんで落とされなきゃなんねぇんだ?名門明星中だぜ、俺。

ゴールだってたくさん決めた。最終テストの紅白戦だって1点決めたはずなのに。なんで、俺なんだよ。

悔しい、となんでっていう言葉が頭ん中ぐるぐる回ってて、苦しかった。

もうやめてやる。サッカーなんて。こんなスポーツ。都選抜にも選ばれないようじゃ、将来プロのサッカー選手になるなんて、無理な話しだし。

発表のとき、西園寺とかいう女コーチは自分に才能がないなんて思うなって言ってたけど、そんなのムリだ。じゃあ受からせろよ。

どこがいけなかった?俺のどこが。何でBの奴が受かってAの俺が落ちるんだよ。分けた意味あったのか?俺がBの連中に劣ってたとでも言うのかよ!

「あー・・・・くだらねぇ」

俺の独り言は、夕方と夜が入り混じる空に消えていった。

ホント、もう止めてやろう。サッカー。別の道でも、探してみるか。

そろそろ帰ろうと思って、寄りかかっていた柵から身体を離したとき、後ろから錆びたドアが開く音を聞いた。ここを知ってるのは、俺とあとは・・・。

・・・」

明星中サッカー部マネージャー。そして、俺の彼女でもある。そういえば、俺が選抜に落ちたって言ったらすごい悲しそうな顔してたな。

それからろくに話してなかった。もなんかあったみたいで、ふさぎこんでた。

だけど、生憎俺は自分が苦しいときに人の心配してやれるほどできた人間じゃない。たとえでも、俺は今自分のことで手いっぱいだった。

はずっと俯きながら、俺のほうを見てた。おいおい、それじゃまるで幽霊だ。なんてバカなこと重いながら、俺もまたを見つめる。

なんで何も言わないんだ?もしかして、別れ話とか?

それじゃあ俺はサッカーと彼女。二つとも同時に失うわけか。はっ!もう俺に残るもんはなにもねぇな。

とりえだったサッカーも無くなった。愛しい彼女も失う。これ以外に、俺は何を持ってるっていうんだ?

「兵助・・・・」

やっとが口を開く。なんだよ、早く言えよ。別れようって。こっちはとっくに覚悟出来てんだからさ。

「なに?」

はまだ俯いたままでいた。だけど、しばらくしてから小刻みに肩を振るわせ始める。泣いてんのか・・・?

、お前どうし・・・」

「あんたの名前は!!」

バッと顔を上げて、はそう叫んだ。なに言ってんだよいきなり。ついにキレたか?っていうか、何泣いてんだよ。

「はぁ?」

「いいから!あんたの名前は!!!」

「設楽、兵助・・・」

意味わかんねぇ。いったい何がしたいんだ?相変わらずは泣いてたままで、叫び続ける。俺が名前を答えるとうん、って力強く頷いた。

「在籍中学は!!」

「明星中」

「所属部活は!!」

「サッカー部」

「ポジションは!!」

「FW・・・」

だから、なにがしたいんだ。俺へのあてつけか?最初はちょっとバカらしいなんて思ってたけど、の顔は真剣そのもので、一蹴するにはあまりにも忍びなかった。

泣いてる、なんで。なんでそんなに泣いてるんだよ。俺の所為か?俺が選抜に落ちたから、泣いてるのか・・?

「2トップの相棒は!」

「鳴海」

「あんたが召集された選抜の名前は!!」

「東京選抜」

「そう!東京選抜!!」

はビシっと俺を指さして、また叫ぶ。そして俺の方に近づいて優しく抱きしめた。

「あんたは設楽兵助。明星中のFWで、鳴海の相方。東京選抜に受かった鳴海がただ一人と認めた相方。あんな暴れ馬と2トップ組めるの、兵助くらいしかいないんだから!それにあんな選抜ごとき、こっちから願い下げよ!」

やっぱりは、俺のために泣いていてくれた。俺が落ちて悲しんでたのは、のほうだった。

俺以上に悲しんで、俺以上に苦しんでた。なんで俺はそれに気付いてやれなかったんだろう。俺はバカだ。一番大切なものに気付いてやれなかった。

は俺から離れると、今度は柵に手をかけて外に向け、叫んだ。

「コラー東京選抜ー!聞こえてるかぁ!?」

響く声は、すっかり日の落ちた空に解ける。

「お前らが落とした設楽ってやつはなー!すっごい選手なんだぞー!」

忘れてたんだ、俺は。俺が大事にしてた2つのもの。

「いつかプロになって、お前らを見返してやるからなー!」

サッカーもも。俺にとってはかけがえのない大切なもの。それを失うなんてこと、俺にとってはありえない。

見てろよ、東京選抜。俺はプロになってまたお前らと同じフィールドに立ってやる。

そのときまで、せいぜい頑張れよ。



「な、なに・・・!」

「いい加減、泣き止めよ」

「だってぇ・・」

俺はまだ泣いているをそっと抱きしめた。もう、離さねぇから。

「ありがとな・・・」

ありがとう。俺の大事なもの思い出させてくれて。












これからも俺は、の笑顔がある限り













サッカーをやり続ける。
















選抜に落ちた兵助のドリームは一度書いておきたかったものです。でも駄文;

花月