山ほどもらったプレゼント
たくさん言われた愛の言葉
でも、俺が一番嬉しかったのは
たった一つの
優しい口付け
HAPPY BIRTHDAY
10月5日。俺の誕生日にして、人生で1番厄介な日でもある。
そのわけは・・・。
「あ、いたわ!あっちよ〜」
「御柳くん待って〜vv」
「うわぁ!?」
どこにいても学校中の女が俺にプレゼントを渡してくる。ったく、モテる男は辛いぜ。
まぁ、全く嬉しくないわけじゃないんだが、どうにも俺は束縛されるのが嫌い。だからこうして逃げ回ってる。
教室なんかに留まってたら即刻餌食になっちまう。というわけで、屋上に避難中。とは言っても、普段から屋上でサボってるんだけどな。
野球部で鍛えた俊足を生かして何とか逃げ切った俺は、屋上のドアを乱暴に開けてそのまま仰向けに寝転がった。
女って言うのはなんであんなにしつこいんだ!?でもさすがにここまでは追ってこれねぇだろ。なんせ、屋上の鍵が壊れてること知ってんのなんて、俺くらいだから。
荒い息を整えながら、空を見上げる。俺はこの瞬間がたまらなく好きだった。なんにも捕われるとこなく自由に時が流れていく。まさに、俺が理想とする時間だ。
目を閉じれば秋らしい風が優しく吹いていて、居心地が良かった。こりゃ今日もサボり決定だな。
なんてことを考えてたら、上から一枚の紙が落ちてきた。風に飛ばされて俺の顔に当たったそいつをつまみあげると、鉛筆で書いた風景画が描かれてある。
絵なんて全く興味のない俺だけど、一目見て素人が描いたものじゃないことが分かった。それくらいこの絵は美しかった。
「すいませ〜ん。その紙取ってもらえますかぁ」
絵の落ちてきたほうからなんともやる気のない声がする。思わず絵に見惚れていた俺がハッとして上を見ると、髪の長い女が一人見下ろしていた。
長い黒髪が風で乱れるのを気にすることなく、女は少しだけ口元に笑みを浮かべながら俺を見ている。
おそらくこの絵を描いた主だろう、手にはたくさんの紙と数本の鉛筆が握られていた。
声が出ない、ということをはじめて体験した。言葉にできないほど、この女は美しかった。
「あのぉ・・・」
「ん?あぁ、ホラ」
またやる気のない声で我に返る。俺は立ち上がって、女に紙を手渡した。こういうとき、身長がでかいって便利だよな。
「ありがとうございます〜」
本当にありがたいと思ってるのかよくわからない声でにっこり笑う。その笑顔に不覚にも赤くなってしまった。こんなんじゃプレイボーイ失格か?
「お前、名前なんてーの?」
「です〜」
俺から紙を受け取るなり、早速続きを描き始めた女に向かって聞く。自分の名を名乗るときでもやっぱりこいつの声はやる気がなかった。
それでも顔つきは真剣そのもの。食い入るように屋上からの風景を眺めては手馴れた様子で描いている。そのギャップが妙におかしかった。
「なんでこんなとこにいんだ?サボりかよ」
「あなたもサボってるじゃないですか〜えっと・・・」
「御柳芭唐」
俺が名乗ると珍しい名前ですね〜なんて言われた。人がせっかく自己紹介してやってんのに、こいつは一瞬たりとも風景から目を離しはしない。まるで俺なんか目でもないって言われてるみたいで無性に腹が立った。
「お前さぁ」
「お前じゃないです〜です〜」
抜けてるようで変なとこ律儀だな。なんか調子狂うぜ。
「じゃあ、。なんでこんなとこで絵なんか描いてんだよ。だいたい、サボってまで絵描くやつがいるか?」
「別にいつもサボってるわけじゃないですよ〜今日はたまたま描きたかっただけですぅ。それにここはとっても見晴らしがいいですからね〜」
嬉しそうに笑いながら、それでも手は休めない。真剣なんだか遊んでんだか、まったく掴めないやつだ。ただ、その横顔はため息が出るほど綺麗だった。いつまで見てても飽きないくらいに。
「できました〜!」
やたら大声出すから、びっくりしてちょっと滑った。は完成した絵を嬉しそうに見つめている。俺も興味がわいてきて、その絵が見たくなった。
そして、ドアノブを足場にの横へ移動。確かにここなら見晴らしは十分だ。
「見せてみろよ」
「いいですよ〜お目汚しですが〜」
少し照れたように紙を渡す。そこには絵とは思えないほどリアルな町並みが描かれていた。綺麗で、繊細で、俺の心を奪うには十分すぎるほどの絵。
今、こいつがプロだって言われても全く疑わないだろう。
「どうですか〜?よければ感想聞かせてください〜」
は期待十分に目をキラキラさせて俺を見つめる。近くでみるとやっぱり美人だが、まだガキっぽい。ホントにコイツが描いた絵か?
「まぁ、上手いんじゃねぇの?」
「え〜それだけですかぁ?」
「生憎絵には興味ねぇんだよ」
「じゃあコレを機に絵を好きになってください〜」
そう言ってはまた鉛筆を持った。そして今度は俺を描き始める。不意をつかれてしばらく何も言えなかったけど、いきなりの展開に驚かないわけがない。
「おい!何いきなり俺んこと描いてんだよ!」
「いえ、せっかくですから〜」
にこにこと笑いながら俺を描く。笑っているけど、その目は真剣そのもの。俺は一つため息をついて抵抗するのをあきらめた。どうせここより他に行くところなんてねぇし。暇つぶしにはもってこいだな。
が俺を見て手早くスケッチしていく。真剣すぎるの目に見つめられるたびにドキっとした。ここに着てから俺は少し変だ。こいつ一人に翻弄されすぎて。
今まで何人もの女を相手にしてきたけど、みたいな感情を抱いたことはない。いったいなんだってんだよ。
「御柳くん〜?」
「あ、なんだ?」
「どうしたんですか〜?ボーっとして〜」
「別になんでもねぇよ。それより描けたのか?」
「もう少しですよ〜」
楽しそうだ。まるで無邪気に遊ぶガキみたいに。俺の口元は自然と緩んだ。そのとき、今度はが驚いた顔をしている。
「どうした?」
「いえ、御柳くんは美人さんですね〜」
「・・・・・お前、そりゃ嫌味か?」
「滅相もない〜最高の褒め言葉じゃないですか〜」
「男が美人って言われて喜ぶかよ」
「いやぁまったく描きがいがあります〜」
また鉛筆を動かす。人の話なんて聞いちゃいねぇ。それでも、なぜか心が和んだ。不思議と居心地が悪くない。
いつまでもここにいたいと思った。
「完成です〜♪」
は鉛筆を後ろに放り投げて、絵を俺に突き出す。そこには俺がいた。紛れもない俺自身が。
儚そうな目を遠くに見据えて、風に髪を揺らせている俺。そこら辺の写真よりもずっと心がこもっていて、暖かかった。
でも一つだけ、この絵にはダメなところがあった。
「綺麗すぎるな」
「はい〜?」
絵をに返して、俺は目の前に広がる町を見た。もうそろそろ日が傾いてくる。太陽は少しずつ西に移っていった。
「俺はこんなに綺麗なやつじゃねぇよ」
綺麗すぎる。この絵は。俺はそんなにあったかいやつじゃない。よくサボるし、女遊びも激しいし。泣かせたかったじゃないけど、女を泣かせたことも数多くある。
そんな俺が、こんなにあったかく描かれていいはずがないだろ。
「そんなことないですよ〜」
が俺と同じ方を向きながら静かに言った。とても、凛とした声だ。
「御柳くんは綺麗な人です。素っ気無くて、ちょっと怖い気もしますけど、自分に嘘をつかない、自由な人です〜」
相変わらずのんびりした口調だったけど、その言葉にはしっかりと芯が通っていた。
なんでこいつは俺のことそんな風に言えるんだ?今日会ったばかりなのに。なんでそんなに自信に満ちた声で言えるんだよ。
「なんで、そんなに・・・」
「ずっと、見てましたからぁ」
照れたような笑いを見せて、は少し俯いた。
俺を見てた?俺の記憶では、に会ったのは今日が初めてだ。それでも何も変な反応はしてなかった。回りの女たちみたいにキャーキャー騒ぐでも、頬を赤らめるでもなく。ただ普通に。
「ここに来たのも偶然じゃなかったんですぅ。今日は、その・・・御柳くんの誕生日でしたから〜」
「でも、お前名前聞いてきたじゃねぇか」
「御柳くんが名前知らないのに私が名前を知ってたら気持ちが悪いでしょ〜」
ほんの小さな気遣いですよ〜とはまた笑う。ってことは、最初から俺がここに来ること見込んでたわけか?待ち伏せってやつ?
抜け目のねぇやつだな。でも、そんな大胆な女も嫌いじゃねぇ。
「、それで誕生日プレゼントは用意してるんだろ?」
「え!?あのぉこの絵じゃダメですか〜」
「ま、これで大目に見てやるか。その代わり・・・」
の小さな肩に手を回して強引に唇を奪った。やわらかい感触を十分に確かめたあと、俺がそっと唇を離すとは顔を真っ赤に染めて驚いている。
「な、なにをするんですかぁ・・」
「誕生日プレゼントだろ?」
にやりと笑みを浮かべれば、も優しく微笑んだ。そしてあらためて、俺に絵を差し出した。
「おめでとうございますぅ」
ありがとうの代わりに俺は再び口付けをする。今度は優しく、そっと。
たくさんの誕生日プレゼントより、と交わすこのキスが
なによりも嬉しい宝物――
初御柳ドリームでございます。記念すべき初作品がこんなんで良いのでしょうか。
本当は5日にUPしようと思ったのですが、少しいろいろありまして・・・;一日遅れの誕生日です!
芭唐んハッピーバースディ♪
花月
