季節はめぐり











気が付けば桜の咲く頃











あなたと過ごした3年間が











終わろうとしている






















































































春の涙
















































































こんなにも大好きなのに届かない想い。

隣にいるだけでドキドキして、幸せな気持ちになる。でも、どこか切ない感情も傍にいた。

素直になってこの心を伝えればどれだけ楽になるか。その勇気が私にあれば、今頃ラブラブで愛を感じられているのに。

そんなこんなで過ごした3年間。1年の時からずっと好きだった人。真田一馬くん。

今日は卒業式。お世話になった先生とか、仲の良かった友達とかと別れるのはとても淋しい。でも一番寂しいのはやっぱり一馬くんと別れてしまうこと。

どこの高校に行くのかは怖くて聞けなかった。たぶん私とは違う高校だと思う。

彼を好きになって早3年。何回もチャンスがめぐってきたけど、全て逃してしまった。そして今日が最後のチャンス。

今日気持ちを伝えないと2度と会えないかもしれない。足が震えること怖いけど、やっぱり結果はどうであれ伝えないと始まらない。

フラれちゃったとしても、もうほとんど会う機会もないんだから、平気だよね。きっと。

そんなことをお姉ちゃんと話してたら、イベントに告白するとフラれるというジンクスを聞いてしまった。なんでわざわざそういうこと言うかなぁ・・・。

巨大な不安と少しの期待を胸に秘め、私はなんとか一馬くんを呼び出すことに成功した。

野上が丘中名物、出会い桜。創立と共に立てられたこの桜の木の下で告白すると、二人は永遠に幸せになることができるらしい。

卒業式が終わって、卒業証書入れを握り締め、私は一人桜の花びら舞い散る木の下にたたずんでいた。

だんだん太陽が沈んできて、あたりはすっかり夕暮れ。ふと、校舎のほうを見上げる。

3年間過ごしてきたこの学校とも今日でお別れ。式の間は告白のことで頭がいっぱいで、涙も出なかったけど、こうして改めて校舎をみるといろいろな思い出が蘇ってきて、目頭が熱くなる。

1年の時、初めて同じクラスになって一目見たときから気になってた。

どこか他人と距離を置いてる感じの人だったけど、その瞳には熱く燃えてる何かを感じ取ることができた。

心の中に一本、しっかりした柱があるような、そんな感じ。ゆるぎないその柱は、誰にも汚されることなくすっと立っている。それがなんなのかは未だにわからないけど、きっとすごく大切なもの。

一馬くんの大切なものってなんだろう。ずっと考えているうちに好きになってた。

冬休みの課題の習字で表彰されてるときの真っ赤な顔、友達と話してるときの楽しそうな顔、バレンタインで女の子に囲まれて困ってる顔。体育のサッカーでシュートを決めたときの得意そうな顔。

どれも全部忘れられない。頭の中に焼きついて離れなかった。

そんな一馬くんとも今日でお別れ。当たり前のように過ごしていた中学校3年間が終わるなんて、未だに実感がわかないけど、もうあの教室に私たちはいない。



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クラスにたくさんいる女子の中で私のことだけって下の名前で呼んでくれてた。それが何よりも嬉しくて、自慢だった。

名前を呼ばれるだけで、まるで一馬くんの特別な存在になれたような気がした。だけどそれは私の勝手な思い込み。それを本当にできるかどうかは今日の結果にかかっている。

3年間のどの思い出にも一馬くんは登場していた。思い出すたびに愛しさで胸がいっぱいになる。それと同時にとてつもない寂しさが襲ってきた。

毎日顔を見られなくなるなんて、思いもしなかった。

不意に涙が頬を伝う。桜の花びらが舞い落ちると同時に私の涙も地面に落ちていった。

もう2度と、あの教室で笑いあえない。一馬くんと過ごした日々は戻ってこない。そう考えるだけで涙は止まることを知らず流れ続けていた。



(こんな顔、一馬くんに見られたら最悪だ・・・)



必死に涙を拭っても、後から後からあふれ出してくる。その時。桜の花びらに紛れて、人影が見えた気がした。

涙で滲む目を擦りながら遠くを見つめる。それは紛れもなく一馬くんの姿だった。



!?」



私を見つけるなり、少し駆け足になった一馬くんは泣いている私を見て驚きの声をあげた。

そりゃそうだ。めったに人前で泣かない私が泣いてるんだもん、驚くよね。

なんでもないよ、と涙を拭って私は一馬くんに向き直った。そういえばこうやって二人っきりで話すのは初めてかもしれない。

緊張で足が震える。気付かれないように細心の注意を払った。

相変わらずかっこいいなぁ。あの燃えるような目も変わらない。近くでみると、やっぱり私の大好きな一馬くんだ。



「ごめんね、突然よびだしたりして」

「いや、大丈夫。特に用事もなかったしな」



頭を掻きながら少し俯く一馬くん。これから私がなんて言うのか、気付いてるのかな。

胸の鼓動は高まり、上手く呼吸ができない。それでも一馬くんを見つめて一度深呼吸。

落ち着いて。これが最後のチャンスなんだから、頑張って言わないと。

どんな結果に終わろうと、ずっと胸にしまっておくより悔いは少ないはず。夕暮れの桜がとても美しく見えた。



「あのね、一馬くん・・・私・・・」



大丈夫、言える。ずっとずっと隠してきた想い。

いつも視線の先にはあなたがいた。笑っているときも怒っているときも泣いているときも、いつも心の中にはあなたの存在があった。



「1年生のときからずっと・・・・」



あなたのことが・・・・・















































































「好きでした」


















































































一陣の風が花びらを散らしていく。その中で私たちはただ黙って立っていた。

一馬くんは顔を真っ赤にして、私はあまりの緊張に目を潤ませて。そのまましばらく時は流れた。

3年間、いろいろな想いが交じり合った気持ち。その中で一番伝えたかった言葉を伝えることができた。私はただそれだけで嬉しかった。



「えっと・・・」



最初に言葉を発したのは一馬くんだった。顔が赤い。照れてる一馬くんも可愛くて、さらに愛しさが増した。

これで終わり。全てが終わった気がする。なぜかすっきりした気持ちを抱きながら、彼の言葉の続きを待った。

大きく深呼吸をする一馬くん。そして、意を決したように私をしっかりと見つめると、そのまま私の視界は暗くなった。



「え・・・・」



何が起きたのかわからない。ただわかるのは、一馬くんから感じる優しいぬくもりだけ。

抱きしめられているとわかるのに、少し時間が必要だった。



「か、一馬くん!?」

「俺もずっとのことが好きで・・・でも勇気が出なくて・・・だからすごく嬉しかった・・・」



途切れ途切れの言葉だったけど、私には確かに伝わった。顔は見えずとも、彼の表情は手に取るようにわかる。きっと私が見たこともないくらい真っ赤だろう。

嬉しかった。そしてなにより、愛しかった。私も一馬くんの背中に手を添える。



「ありがとう、一馬・・・」



体中から愛しさがあふれ出し、また涙が零れ落ちる。それは嬉しさが溢れた雫。

離れても大丈夫。私たちはようやく繋がることができた。

そのために必要とした3年という時間も、無駄じゃない。

私が流し続けた―――



















優しい春の涙