春の訪れ
雪が溶け、桜の花が咲く頃
俺は高校生になって
出会った恋を実らせる
春の訪れ
「でさー結局一馬はどこ受けるわけ?」
東京選抜の練習の帰り、俺達はいつものようにマックで雑談をしていた。
俺達ももう中3だ。今までサッカー一筋だったけど、やっぱり高校くらいは出ないといけない。
「特にはまだ決めてねぇけど・・・結人と英士は決めたのか?」
「決まってねぇなら俺達と同じとこ行こうぜ!な、英士」
「一馬はともかく、結人が受かるかわからないけどね」
「ひっでー!受かるっての!」
二人がなにやら騒いでいる間に、俺は二人が進めてくれた高校のことを考えていた。
都心の結構有名なところだ。今の偏差値だとまぁ充分狙えるところ。英士ならもっと高いところも狙えると思うけど、俺達のためにランクを落としてくれたんだと思う。
結人もまぁ勉強すればなんとかなるだろ。どうせ俺達はユースだから部活には入らねぇし。
中学校が別々だった分、高校は一緒のところが良かった。それは俺も同じ気持ち。結人と英士が一緒なら、どんな学校だって楽しいはずだ。
「わかった。俺もそこにするわ」
「ホントか!?よっしゃ!これで3人揃うな!」
「これで同じクラスにでもなったら面白いよね」
「アハハ!そりゃもう運命だな」
同じ学校、同じクラス、同じユース、同じ選抜、同じ夢。何もかも一緒。それもまた悪くない。
早速明日、担任の先生に言ってみよう。あと、親。受験なんてめんどくさいだけだと思ってたけど、この二人がついてるなら、そんなに苦でもなかった。
案外あっさり担任と親からOKをもらって、それなりに勉強した。本当は推薦とりたかったけど、入学後部活に入らないといけないから、取れなかった。
公立だから5教科。結構大変だったけど、まぁなんとかなった。
そしていよいよ試験当日。大きい有名校だから、かなりの人数が集まっている。この中のどれくらいが受かって、どれくらいの奴が落ちるのか、検討もつかない。
「すっげー人だな!」
「結人全然緊張してないでしょ」
「当たり前だろ?かじゅまじゃあるまいし」
「なんで俺なんだよ!」
「とかいって、ホントは結人の言うとおりでしょ?」
「・・・・・・///」
2人の言うとおり、俺はがちがちに緊張していた。合格する確立は高いって言われても、確実に受かるとは言い切れない。
昔からこういうプレッシャーには弱かった。今にも胃が痛くなりそうだ。ナイーブも苦労するぜ。
「受験番号ごとに教室が分かれてるみたいだね」
「あ、俺と英士一緒だ。一馬だけ別だな」
「じゃあ試験終わったらここで待ち合わせしようぜ。昼は俺がそっち行くから」
「わかった!また後でな!がんばれよ〜」
2人と別れて、俺は自分の受験票を見ながら指定された教室へと向かう。やっぱり中も広いから、半分迷いかけたけど、案内の人に聞いたりしてなんとか教室へたどり着けた。
自分の受験番号が書いてある席に着く。受験票を机の上において、愛用のスポーツバックから筆箱を取り出した。
確かシャーペンと消しゴム以外は出しちゃいけない決まりだったから、とりあえずシャーペン2本と消しゴムを置いて、筆箱はバックの中に戻した。
と、その時。俺のひじが机に当たって青いシャーペンが床に落ちた。筆箱をしまおうとしている最中だった俺は、慌てて振り返る。
とりあえず急いで筆箱をバックに放り入れて、反対方向を向いた。すると、隣にいた女の子がシャーペンを差し出して微笑んでいた。
「どうぞ」
「あ、ど、どうも・・・・」
綺麗だと思った。まるで人形みたいに整った顔をしている。元から女の人があまり得意ではない俺は、その微笑みだけで致命傷。どもってしまった。
「緊張しますね」
「そ、そうですね」
あーダメだ。心臓がバクバク言ってる。もしかしたら聞こえてるかもしれない。
これが一目ぼれっていうやつなんだろうか。とにかく俺の心臓は尋常じゃない速さで脈うっていた。
緊張のせいじゃない。少なくとも、テストの緊張のせいじゃなかった。
少し顔をのぞかせれば、彼女の受験票が見えた。そこには『』の文字。
さんっていうのか・・・。綺麗な名前だ。
しばらくして、担当の先生らしき人が入ってきて、受験中の諸注意と今日の日程を説明した。
でも、その間も俺はずっとさんのことが気になってしょうがなかった。こんな調子でテスト受けられんのか、俺・・・。
チャイムの音と同時に、テストが始まった。ボーっとしていた俺ははっと我に返ってテスト用紙に目を向ける。
集中しないと。受かるところも落ちてしまう。
あ、でも。さんと一緒のクラスになれたらいいなぁ。そんなことを考えながら、俺は解答用紙に答えを書き続けた。
午前中のテストが終わり、昼食の時間になった。結人たちのクラスに行く途中、さんと目が合う。
「どうでした?テスト」
「まぁ、なんとか・・・そっちは?」
「私もなんとか大丈夫そうです」
普通の顔も可愛いけど、笑うともっと可愛かった。たぶん俺の顔は今、すっごく赤いはずだ。
「じゃあ、また・・・」
「あの」
俺が教室を出ようとしたところで、彼女に呼び止められた。心臓が跳ね上がり、ぎこちない動きで後ろを振り返る。
「私はといいます。名前、教えてくれませんか?」
少し恥ずかしそうに、さんは聞いた。俺はそれ以上に照れながらなんとか質問に答える。
「真田、一馬です」
俺の名前を呟いて、さんはありがとうとお礼を言った。どういたしましてと返して俺は今度こそ教室を出る。
結人と英士に早くこのことを伝えたかった。まさかこんなところで恋の話なんてするとは思ってなかったけど、一目ぼれは一目ぼれなんだからしょうがない。
そして結人と英士が受験していた教室でそのことを話すと、案の定同じ言葉が返ってきた。
「「バ一馬」」
んだよ!なにも声そろえなくたっていいだろ!それにバが余計なんだよ、俺の名前は一馬だ!
「まさか受験会場で恋に落ちるなんてなぁ・・・で、試験のほうはできたのか?」
「それはなんとか・・・でも隣が気になってしょうがないんだよ」
「重症だね。まぁいいんじゃない?もう一つ高校入る目的ができたんだから」
「目的・・・?」
「「その子と同じ高校入って告白するんだろ(でしょ)?」」
こ、こ、告白!?いや、でもまだ俺が受かるともさんが受かるともわからないし、それに入学してすぐ告白なんて・・・!
「まぁとにかく、一馬はなんとしてもこの学校に入らないといけないね。その子のためにも」
「やっと一馬にも春が来るのか〜」
結人、それは気が早すぎだろ。第一、まだ受かってもないのに。
まぁしょうがない。とにかく、午後のテストに全力を尽くすだけだ。高校に入んなきゃ話にならないし。
「じゃあ、頑張れよ一馬!」
結局その日の午後は『告白』の二文字が頭を埋め尽くしていて、テストに身が入らなかった。
こんなんで本当に受かるのかな、俺・・・。
テストも終わり、そのあと行われた面接も終えて、月日は流れる。
今日は合格発表の日。受験票を握り締め、俺達はたくさんの数字が書かれているボードの前に立っていた。
「これで誰か一人だけ落ちたらキツいよなぁ」
「縁起でもないこと言うなよ結人」
「ま、一番危ないのは結人だけどね」
確かに。結人が一番危なかった。必死に受験番号を探していると、突然隣から声がかかった。
「真田さん」
さんの声だ。すばやく隣を見ると、彼女も頬を赤く染めて受験票を持っていた。
「どうでしたか?」
「あ、いえ、まだ・・・さんは?」
「私もまだ見つけてないんです」
そう言って笑うと、彼女はボードに視線を移した。
さんが落ちてたらどうしよう。そしたら一緒に高校生活が送れなくなる。そんなの絶対に嫌だった。
俺の受験番号は1852。1800番台はAと書かれたボードに書かれていた。
1850、1851・・・・・・そして見つけた、1852の文字。
「あ、あった!」
「ホントかよ、一馬!」
「俺もあったよ。おめでと、一馬」
「さん!」
俺は自然とさんの名前を呼んでいた。隣にいる彼女もまた、笑顔を見せていた。
「おめでとうございます」
「さんの番号は?」
彼女はにっこりと笑ってこう答えた。
「ありましたよ。ほら、あそこ」
さんが指差した場所には、確かにその番号が書かれていた。よかった、これで楽しい高校生活が送れそうだ。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
俺達は微笑みあって、しっかりと握手を交わした。
握った手のぬくもりは、暖かくてもうすぐ来る春の訪れを感じさせる。
こうして俺の高校生活は恋と一緒にスタートを切った。
合格記念夢!無事合格してよかったです。受験生のみなさんも、頑張ってください!
花月
