夜の電話は不兆の証











そしてあいつからの電話は











ろくなことが起こらない











前兆の印




















































































H E L P











































































その電話は、突然かかってきた。

携帯のディスプレイを見ると、彼女であるの文字。

なんだ、こんな時間にかかってくるなんて珍しい。

時計をみると、夜の9時。

は普段ならドラマを見てるからまずかかってこない時間帯なのに。

首をかしげつつ、電話にでる。

すると、緊迫した声でが勢い良く俺の名前を呼んだ。



『一馬!』

。どうしたんだ?」

『助けて!お願い!早く来て・・・!』

「え!?おい、何があった!?」

『いいから早く!じゃないと私・・・キャー!!!』

!?」



そこで電話は途切れた。

これは非常事態だ。

普段は冷静ながあんなに取り乱すなんて、よっぽどのことがあったに違いない。

俺は携帯だけ握り締め、の家に向かった。

俺の家からの家まで、走って10分くらい。

自転車で行こうと思ったが、カギを開ける時間さえ惜しい。

一刻も早くのところへいかないと。

に何かあったら、俺は・・・俺は・・・!

日ごろサッカーで鍛えた俊足を充分に発揮して、の家へと急ぐ。

俺、今なら小岩にも勝てるんじゃないか?

そんな考えがよぎったが、すぐに消えた。

今はそんなこと考えてる場合じゃない。のピンチなんだ。

ようやくのマンションに着いた。

エントランスにの姿はない。とすると・・・上か?

合鍵を使って、エントランスの自動ドアを開ける。

エレベーターより、階段のほうが早い。

俺は階段を一段抜かしして、5階にあるの家へ向かおうとした。

そのとき。



「一馬!」



4階に差し掛かろうとしたとき、の叫び声が聞こえた。

すると、踊り場のところでがうずくまってるのが見える。

俺はすぐにの下へ駆け寄り、抱きしめた。



!どうしたんだ!?」

「一馬・・・あれ・・・あれ!」



が涙声になりながら、踊り場の上にある3段目の段を指差す。

そこにいたのは・・・。











































































「セミ?」








































































うん。あれはどう見てもセミだ。

足を上に向けて仰向けに寝転がっているセミ。

死んでいるのか、それとも弱っているだけなのかわからないけど、とりあえず。セミ。



「あのセミ、まだ生きてるの!私が階段登ろうとしたら急に動き出して・・・・」



もうは涙を流している。

いや、わかるよ。怖いのはわかるけどさ。

・・・・・たかがセミだろ?

夏になったら出てくる、虫のセミだろ?セミのオバケとかじゃなくて、普通のセミ。

しかも飛んでるんじゃなくて、もう死掛けの。

前から虫が嫌いなだったけど、まさかここまでとは。

正直、急いできたことがバカらしく感じた。



「このままじゃ家に帰れないよぉ・・・」



俺にしがみつきながら涙を流す

わかった。セミをどっかにやればいいんだな。

俺はセミを掴もうと手を伸ばす。

しかし。



-ジジジジジジジ!!!!!!!!-



セミは勢いよく動き回り始めた。

確かに厄介だ。

俺もそんなに虫強いほうじゃない。むしろ嫌いなほうだ。



「一馬・・・」



潤んだ瞳で俺を見つめる

その弱弱しい姿に、心を掴まれた。

がんばれ、俺。愛しいのためじゃないか。

のためならセミくらい・・・・セミくらい・・・・。

再びセミに手を伸ばす。そしてゆっくりセミを捕まえた。



「よしっ」



セミは相変わらず動き回るがそれを放さないよう注意して、柵の向こう側に放り投げた。

空中に放たれたセミはジジジ!という音を立てながら地面に落ちていく。

なんとかなった。良く頑張ったな、一馬。お前は偉いよ。ヘタレじゃないよ。



「ありがとう!一馬!」



再び俺に抱きつくの頭をポンポンと撫でてやる。

にしても、に苦手なもんがあったなんて、意外だ。

夏も終わりに近づくとセミは死んでいく。

マンションの階段にセミが転がっていることなんてしょっちゅうだからな。



「もう大丈夫か?」

「うん、大丈夫。一馬、またセミが出たら助けてね」

「まかせとけ!」



を家まで送り届け、俺も自分の家へ戻ろうとした。

エントランスを出ると、が柵から身を乗り出して手を振っていた。



「一馬ー!大好きだよー!」



の笑顔を見て、俺も自然と笑みがこぼれる。

、俺も大好きだよ。

そして手を振りながら、家路に着いた。
















翌朝。また電話がかかってきた。



『一馬!』

、か?どうした?」

『助けて!』

「ん?なにが・・・?」

『昨日一馬が放り投げたセミがエントランスにぃ!!!』








俺の苦悩はまだまだ続く。
















私も蝉は嫌いです

花月