隣りの席に座るあなた





とても優しくて、とても脆い





いつの間にか、そんなあなたの





特別になりたいと思った――






































































放課後物語








































































「真田一馬?」

「そう、隣りのクラスの。 、知らないの?」

H・Rも終わり部活のある生徒がグラウンドで汗を流しているころ、教室は私達のたまり場となる。

今日の話題は、女の子らしく『カッコイイ男子』について。

その会話の中で出てきた名前に、私は首をかしげた。

もちろん、全く知らないというわけではなくて、名前ぐらいは聞いたことがあったけど

顔はよく覚えていない。というか、見たことがないと思う。

「すごい美形だから、めちゃくちゃモテるんだよ。陰でだけど」

「なんで陰なの?」

「う〜ん、なんていうか…ちょっと無口で…近寄りがたい感じだから」

「ふ〜ん」

男の人にあんまり興味がなかったから軽く話しを受け流す。それでも周りの子は私に真田一馬の情報を教えてくれた。

サッカーが上手いらしく、体育の授業では一際輝いていること。

字も達筆で、何度か賞も受賞していること。

それでいて、あまり手先は器用じゃないこと。

一体どこからそんな情報仕入れてきたのかわからないけど、私を除いて皆はだいぶ盛り上がっていた。

ふと、先週の表彰式の場面が浮かんできた。たしか、真田っていう人が呼ばれていたような気がするけど気にしてなかったから、やっぱり顔は覚えていない。

「少しつり目で、ストレートな黒髪の美形がいたらそれが真田くんだよ。 も1回は見たほうが良い!」

それからしばらく真田くんの話題で盛り上がったけど、私にとってあまり興味がなかった。

元々、男の人にあまり興味がなかったし。

「あ、ヤバっ!そろそろ帰るね」

「例のドラマ?」

「そう!ゴメンね;バイバイ」

「うん、バイバイ☆」

毎週欠かさず見ているドラマの再放送。今日が最終回だったのを思い出して、私は鞄をつかんで立ちあがる。

友達に手を振って別れを告げ、早々に教室を後にした。

少し歩調を速めて階段を降りると職員室の方から1人の男子生徒が歩いてくるのが見える。

なんとなくその人を見ていると、私はある特徴に気が付いた。

つり目…?ストレートの黒髪…?美形…?

さっき友達が言っていたポイントに全部当てはまる。まさかこの人が?

「おーい!真田!」

私が階段を降りきったと同時に後ろから先生が白い紙を持って歩いてきた。

真田と呼ばれて振り向いたってことはやっぱりこの人が噂の『真田くん』なんだ。

先生と真田くんがなにやら話している隣りを通りすぎて、昇降口へ向かう。

少しだけ聞こえた真田くんの声は透き通るような良い声で、しばらく耳から離れなかった。











翌日。長い1日も終わり、私達はまた教室を独占していた。

今日は『クラス替え』について。野上ヶ丘中は1年に1回、クラス替えがある。

親しい友達との別れが辛いのもあるが、反対に新しい出会いや想い人と一緒のクラスになれるかどうかの一大イベントでもあるのだ。

そして、いよいよ明日は運命の発表日。皆それぞれの期待に胸を膨らませている。

そんな中、私は1人昨日の真田くんが頭から離れなかった。

あの後私は、ドラマの内容もほとんど頭の中に入らなかった。理由は全く分からないけど。

気が付くと皆はもう帰り支度をしていた。私も慌てて支度を始める。

それぞれの帰り道を帰って行くのを見送りながら、私は親友の と一緒に帰り道を歩く。

「ねぇ、 。なんかあったでしょ」

「え、えぇ!?」

突然の質問に驚いて をみると、何かおもしろそうにニヤニヤしていた。

「な、なんかって?」

「そこまではわかんないけど、最近良くボーっとしてるし、ため息つくし。かと思えばいつのまにか微笑んでるし」

そんなことしてたんだ、私。何か恥ずかしいことをしていないかと今日までの行動を思い返してみる。

「で、ホントに何があったの?」

「別に…なんもないよ?」

「うっそだー!あっ、もしかして恋煩い?」




の言葉を聞いて、なぜか道に落ちていた小石につまずく。

なんとかコケるのは免れたけど、隣にいる親友はさらに深く追求してきた。

「図星!?相手は誰?」

「ち、違うって!」

「まったまた〜v誰にも言わないから、教えなよ!協力しやすぜ☆」

親指を立てて軽くウインク。 はもう面白くてしょうがないようだ。興味津々で瞳が輝いている。

私は小さくため息をついて、今までボーっとしていた理由を説明した。

「昨日ね例の真田くんに会ったのよ。別に話したわけじゃないんだけど、どうも気になっちゃって。あ、でも好きだとかじゃないからね?」

私が話し終わると、 はすごく驚いた顔をしてこっちを凝視していた。

あまりに驚きように私も何かまずいこと言ったのかなと少し不安になる。

「まさか男嫌いの が真田くんにLOVEとはね〜」

「男嫌いって;それにラブじゃないよ。ただ…」

「いーや!それが恋なのさ! にはまだ自覚がないかもしれないけど、それは紛れもない恋なのさ!」

「そ、そうなの…?」

「そうなの!いや〜 もやっと恋をするようになったか。親友として嬉しいよ」(ホロリ)

その後の はとても上機嫌だった。なんでそんなに喜んでいるのかわからなかったけど、私のことを思ってくれているのは理解できる。

それがとても嬉しかった。

は別れ際に一緒のクラスになれるといいね♪と言って微笑んだ。

私もそう願いながら静かに手を振った。












運命の日。昇降口には、新しいクラスが張り出されていた。

みんな必死になって白い紙を見つめているので、高校受験の発表日みたいだなと1人苦笑した。

〜!!」

後ろから聞こえてきた呼び声にしたがって振りかえると、 が息を切らしながら走ってくる。

「おはよ、

「おはよ〜!よし、早速見に行こう!!」




は私の手をグイグイ引っ張って1組の張り紙から順番に見て回った。

3組まで見終わった時点で、私達の名前は見当たらなかった。どうやら4組から6組の中にあるようだ。

そして6組の張り紙の前に来たとき。私達は揃って声をあげた。

「「あった!!」」

一番端にある張り紙にはしっかり『 』『 』の名が書かれている。

私達は手を取り合って喜びあった。

「あ…」

何気なく見ていた男子の欄を見て、私は小さく声を上げた。

『真田一馬』

一緒のクラスだと分かった瞬間、自分の頬が緩むのがわかった。

慌てて元に戻そうとするけど、やっぱり少し微笑んでしまう。

変なの…




と共に教室へ入ると机の上に名前の書いてある紙が置いてある。どうやらその席に座れということらしい。

私の席は一番廊下側の一番前だった。

どうやら私達は最後の方だったらしく、ほとんどの人が着席していた。




と別れ、私も大人しく自分の席に座ろうとしたとき。目の前にあるドアから、人が入ってきた。

見ると、つり目でストレートの黒髪が特徴の美少年。真田一馬だった。

彼は少し教室を見渡したあと、あっさり荷物を置いた。私の隣りの席に。

驚いて机の上にある紙をみると確かに『真田一馬』の文字。

私がしばらく固まっている間に、担任の先生が入ってきた。

「今度このクラスの担任になる、神崎です。よろしく」

先生はそれからしばらく日程などについて話していたけど、私はそれどころじゃなくて内容が全く頭に入っていなかった。



―キーンコーンカーンコーン―



チャイムの音が鳴り響き、私ははっとして回りを見渡す。

担任の先生はいなかったのとみんな席を立っていることから、休み時間だと分かった。

!良かったね♪おめでと!」




がやけににこにこしながら私の肩を叩く。

なにがおめでとうなのか分からなくて、私は の顔を見上げた。

「あれ?もしかして、聞いてなかったの?」

「なにが?」

「今日から1週間 と真田くん日直やれってさ。神崎が言ってたジャン!!」

日直?1週間?真田くんと?

あまりに唐突だったから、何が何だか全く理解できなかった。

隣りの人を見てみると静かに雑誌を読んでいる。

落ち着いてるなァなんて1人感心。

そのときの私の顔が少し赤くなっていたなんて、知るよしもなかった。












放課後。西日の差す教室で私は黒板を消していた。




が帰りがけに「がんばってねv」なんて言うから、真田くんが気になってしょうがない。

真田くんは私の隣の席で日誌を書いている。その横顔は夕日に照らされて、きれいだった。

しばらく黒板消しを持ったまま立っていると、急に放送がかかる。


―2−6 さん。職員室まで来てください―


スピーカーから聞こえたのは担任の声だった。私は急いで教室を出る。

職員室につくと、ドアの前で担任が立っていた。彼女は机の上にのったクラス全員分のノートを教室まで運んでおくように告げた後、さっさと職員室へ入っていった。

1人でこの大量のノートを運べ?冗談じゃない。

思いっきり嫌な顔をしたあと、少しため息をついてノートを持った。

ノートは思ったよりも重くて、あまり運動が得意ではない私にとってはかなり辛い事だった。

「お、重い…」

なんとか階段の前まできたが、そろそろ限界が近づいてきていた。

1度目を閉じ、覚悟を決めて1段目からのぼりはじめる。

あぁ、もう嫌んなるなぁ…

やっと踊り場まで来て、私は肩を落とす。

そのとき、私の腕がふと軽くなった。

「え・・?」

一瞬何が起きたかわからなかったが、隣を見て全てを理解した。

私の持っていたノートのほとんどをもって立つ、真田くんを見て。

「あ、え!?真田くん!?なんで…」

「日誌。届に行く途中だったから」

「じゃ、じゃあ良いよ!これくらい1人で運べるし、ね?」

「……」

なにも言わずにスラスラと階段を登って行く真田くん。

私よりかなりのノートを持っているのに、やっぱり男の子なんだと実感した。

その後姿をみて、少し頬が赤くなったのを真田くんは知らないだろう。

教室について教卓の上にノートを置くと、真田くんは帰り支度を始めた。

「ありがとう、真田くん。助かったよ」

「別に…」

こっちをみないで言う淡々とした声。初めて聞いたときと同じ、透き通る声だった。

スポーツバックに荷物を詰め終えて、真田くんは教室を出ようとした。

私は慌てて声をかける。

「真田くん!!」

「ん?」

振り向いた顔に凛とした雰囲気が漂う。胸が高鳴った。

「あ、その…また明日ね」

「…おう、また明日」

そのまま真田くんは帰って行った。

こんなにも男の人が気になるなんてこと、今までなかったから。

なんで顔が熱くなるのか検討も付かなかった。

そう、 と電話するまでは――










「えぇ!?真田くんにノート持ってもらった!?」

今日のことを報告するように言われていたので、私は帰ってすぐ に電話した。

「うん。半分以上持って軽々階段上がって行ったよ」

「へぇ〜やっぱり男の子だね」

「私もそれ思った。ねぇ、 。ちょっと相談があるんだけど」

「なになに?」

明らかに声色が明るくなる。よっぽど興味があるのだろう。

ちょっと単純なんておもいつつ、そんな親友を可愛く思った。

「なんか、真田くん見ると…こう、顔が熱くなるっていうか…とにかく変になるの。どうしたんだろう…」

「…… 、それ本気で分かってないの?」

「え?なにが?」

「だから、やっぱり恋だって!!! 、真田くんのこと好きなんだよ!」

「そっかな…どうすればいい?」

「そうだね〜…あ!いいこと思いついた!」

「??」

「ねぇ、 。明日も真田くんと日直やるよね?」

たぶん電話の向こうで はにやりと笑った。

その後、 が言った『いいこと』に私が赤面したのは言うまでもない。














そして決戦の日。2日目の日直。私はまた、真田くんと二人きりで教室にいた。

真田くんは相変わらずいつもの席で日誌を書いている。

その横顔を見ながら、私は の話しを思い出す。



―まず、なにもしないでボーっとするの。いつもみたいに―



いつもみたいにというところが気になったけど、言われた通りにボーっとする。

真田くんが走らせるペンの音がやけに大きく聞こえた。

ふいに、隣の方から視線を感じる。きっと真田くんだろう。私の緊張は一気に上がった。



―で、視線を感じたらゆっくりそっちを向いて―



ぎこちなく、だけどゆっくり真田くんの方を向く。そして――











































とびっきりの笑顔で微笑んだ。






































みるみるうちに顔が赤くなっていく真田くん。意外と赤面性なのかななんて思いつつ、私は真田くんに近づいていった。

「な、なんだよ///」

真っ赤になりながら目をそらす。その姿に私まで赤くなってしまう。



―近づいて行ったら、一気に告れ!!―



「あ、あの…私…」








いつもどこか無愛想で







「さ、真田くんのことが…」








それなのに、さりげなく優しくて








「その…す………」








そんな貴方が








「好き、です」











たまらなく愛しいの


少しつり上がった目を大きく見開いて、真田くんはさらに赤くなった。

動揺して落としたシャーペンの音が響く。

私の心臓は破裂寸前で、聞こえてしまうんじゃないかと心配した。

しばらくの沈黙が流れたあと、真田くんはガタンという音を立てて立ち上がった。

ビックリして少し後ろに下がると、真田くんは椅子と机の間から抜け出し、私の横へ移動した。

「さ、真田…くん?」

今だになんの反応も示さない真田くんに私が問い掛けると、目の前が真っ暗になる。

抱きしめられている――そう気付くのに少し時間がかかった。

それから、私の心臓は早さを増す。

広い胸板が、とても居心地良かった。

「俺も…ずっと、好き…だった///」

涙が出そうになるのを必死にこらえて、私は静かに頷く。

西日が二人を暖かく包み込んでいた。















あなたと初めて会ったのも















あなたと初めてしゃべったのも















あなたと初めて恋に落ちたのも















全部全部、私の大切な















放課後物語

fin





長いなぁ・・・しかもまとまってない。

駄文ですね、すみません。

花月