1学年が、320人。
1クラス40人。

3年間しかない間に、同じクラスになる確率って、どのくらいになるのだろうか。
320から、40を選ぶ確立。
単純に考えれば、40/320。
3年間同じになる確立を求めるとするなら、それの3乗。










(40/320)





つまるこというとその答えは、1/512だ。

うわぁ。なんだこれ。本当にこの計算があっているのかどうかは分からないし、数学の弱い、あたしにはほとほと頭の痛くなるようなものなのだろうけど、故意に先生が選んだりしていない限り(まさか、ないよねそんなの)とにかく、かなりの確立なのは間違いない。
ノートの端には、小さく筆算の後。そこから導き出された想像もできない数値。

こんなことをする意味もないのだけれど、ふと、気になってしまった。
すごいねー。とただ感心してため息を漏らすと、白く散って刹那に消える。
このクソ寒いのに、校庭ではサッカーなんかしてたりして、元気なことこの上ないと、半分呆れつつも羨ましい。
窓に四角く切り取られた空は、白く霞み、濁りきっていてそれでも、見上げるほどに青さをましていく。


昼休み、ご飯も食べ終えたうららかな時間。バカみたいに真面目なことを考えて徐々に落ち始め、頭の中もうすぼんやり白んでいった時、出し抜けに頭に衝撃が走った。
頬杖を付いていた腕から、ずるりとずれた頭が重力に従って落ちる。



「あっ、ぶな!」

「なにぼさっとしてんだよ」


「はぁ?」



フリーフォール。机に激突しそうに成った顎を支え、眉を寄せて声のする方を見上げると、一馬がノートと教科書を片手に立っていた。
凶器はあれか。
軽く睨むように、視線を合わせると、ふいと、即座に逸らされた。
けど、そのまま一馬を睨んだまま低く言い放つ。



「痛いでしょ」

「知るか」

「うわ。ひっどーい。仮にも彼女に向かってそんなこと!」


がバカ面さらしてんのが悪いんだろ」

「ばかじゅまに言われたくない」

「ばかじゅまいうな!」



声を荒げた一馬に、してやったりニヤリと笑い視線を向ける。ざまあ。
いつも口ではあたしに敵わない一馬が、ガラにもなくかわいいと思ってしまう。本人は望んでないだろうけれど、きっと選抜とかユースにいる時もそうなんだろうな。
だったら反抗しなきゃいいのに、とも思うのだけど、そうすると面白くなくなるから言わない。
明らかにむくれている一馬。



「で、なんなの?」

「次、移動教室だから」

「あーそっか!実験だ」

「お前、ほんっとバカ」



よくよく見れば、一馬がもっているのは教科書と筆記用具。それと、ポケットには財布とか携帯。一応の貴重品。

慌てて時計を見ると、昼休み終了五分前を、長針が無情にも指していた。やばい。
とりあえずポカリと一馬を叩いてから、あたしは机の中をまさぐり始めた。
ノートに教科書、分厚い資料集。なぜだかいつも入っている、色鉛筆やらホチキス、ノリなんかが入った二つ目の筆箱。荒らしたせいで、無残にも中途半端にそれらを吐き出しかけた机が、悲鳴を上げている。



「んー、どこやったっけ?」

「早くしろよ」

。カバンの中は?」


「あ。」



一馬に示され、紺色の通学カバンを除いてみると、きちんとその教科書だけが入っていた。
机の中がいっぱいで、入りきらなかったんだ。そういえば。テヘッ、と一馬に向かって笑いかけると、無言で頭を叩かれた。本日二度目。



「ほらみろ」

「さっすが一馬、あたしのことよくわかってるね!」

「何年一緒だと思ってんだ、バカ



必要なものだけを両手に抱え、イスから立ち上がる。
改めて教室を見渡すと、どうりで静かなわけだ、みんなとっくに行ってしまったらしく、あたしと一馬意外誰もいなかった。



「ほら、さっさといくぞ」

「あ、うん」



唐突に一馬に腕をつかまれ、引っ張られるようにして走り出す。
机にぶつかってしまわないよう、器用にすり抜け、寒さ対策にきっちり閉じられた教室のドアを開けた。ガラガラと、横に滑る。
空気の悪いせいで暖かいのだろう教室に、一気に澄んだ空気が流れ込む。



「さむっ」

「ほら、コート」

「さんきゅ」



廊下の寒さに身震い。
仄暗いコンクリートの冷たさが、ひんやりと肌につき、鳥肌が立った。

無防備に差し出されたコートを、遠慮なく借りる。
ふわり。身にまとうと、安心した重さと、あたたかさ。一馬の匂い。ほとんど泣きたくなるくらい、ほっとする安心。



、走るぞ」



頬に突き刺さる風は、さっきよりも穏やかで凪いでいて、どこまでも走っていけそうな気がした。










なんて、嘘だけど。



「さっき、なに考えてたんだ?」

「ええ、と・・・」



ぜーはーぜーはーと情けなく。日頃、運動なんてしていないせいで、早くも息切れ。
隣を走っている一馬は、同じ速さのはずなのに余裕しゃくしゃくで、そりゃあ、鍛えてるから当たり前なのだけれど、悔しい。
それを鼻にかけ、自覚していない分、余計に。

一馬のコートはあたしには大きくて、肩がずいぶん落ちてしまっているし、腕ももたついていたのだけれど。長すぎる裾が、風を孕んで重さそうけるのに、どうしようもなく、この人に包まれていると、実感して、風は刹那に凪いでしまうのだ。
一馬の黒いダッフルコート。



「三年、間っ、ずっと、おなっじ、クラスにっ」


?」


「あー、もうっ息切れするっ!」



はーはー。
意識の外側で、恒常性を守るために回数を増す呼吸。
そのくせほとんど肺には入っていないのだろうところが、苦しい。
両手を挙げ、イライラを発散させるように叫ぶと、意外にも廊下から階段にかけて響き、一馬が呆れたように、でも少しだけ心配したようにあたしを見やった。

思わず、足も止まり、ゆっくり歩く。



「大丈夫か?」



うん。低く頷き、大きく深呼吸を一回。
冷えた空気に、喉も鼻もぴりっとする。埃っぽく、暗くて湿った廊下の空気は、ぞうきんに似ていると思う。タオルからずっと、使い古されたような、もうくたくただといったような。



「だか、ら。なにがいいた、かったってと。すごい確立ってこと!」

「へー」



だから、そう。まさか運命だなんて、言いたくはないけれど。
これがどれだけすごいのか、具現化できれば苦労しないのに。

大して感慨深くもなさそうな一馬の相槌に、これをみせて驚かせてやりたい。



「っつーか、別に同じクラスじゃなくても・・・」

「クラスが同じなのは大事だってば。遠足とか、修学旅行とか。いっぱい分けあえるもん」

「まぁ。そうだけどな」

「じゃあ、なくても・・・の続きはなんなの?」

「なんでもねーよっ!」



妙に言い切った一馬を肘で小突いてみたのだけれど、精一杯ごまかしやがったから別に深くは聞かないでおく。
共有することで、所有するつもりは毛頭ない。それでも、一緒にいる時間は長い方がすき。喋ってなくても、くっついてなくても。
にやにや笑っていると、むくれた一馬に小突き返された。



「だから、大事なものは大事ってことだろ・・・離れてても」



少し顔を赤くした一馬の呟きは、無情にもチャイムの金属音に飲み込まれた。
言葉の端々をしっかりと掴んでいたけど、あたしは意地悪にも聞こえないふりをする。



「あ。チャイム鳴っちゃったー急がなきゃ!」



さっきとは反対に、今度は一馬の腕を引っ張って、背中に嬉しさを滲ませながら。
廊下に響き渡る足音は、きっちり二人分。




















* * *
相互記念の花月さんにささげます。
ほんと、遅ればせながらで申し訳ありません。またやってるよー的なということで考えてみたのですが、この式があってることすら謎なのですが、知識を総動員して、それかなーとか思ったりして。けっこうすごい確立ですよね(笑)
051212MON


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こんなに素敵な作品を書いていただいて、本当にありがとうございました!!
すばらしすぎて踊りだしそうです!本当にすごい確立ですよね。びっくりしました。
では!これからもよろしくお願いいたします!
如月花月