真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに











どこまでも、ずっとどこまでも











伸びていく紙飛行機












それは私の悲しみと











喜びを乗せて

















































































紙飛行機
















































































夕方の公園。子ども達もいなくなり、夕日が照らすこの場所で私は一人紙飛行機を飛ばした。

ブランコは、漕ぐたびにギィという音を立てる。その音を聞きながら、私は落ちた紙飛行機を見つめた。

「やっぱり無涯の折った紙飛行機より全然飛ばないや」

昔から折り紙とかは得意だったけど、無涯に初めて折ってもらった紙飛行機はすごかった。

まるでこの世の果てまで飛んでいきそうなほど、すっと直線に飛んで本物の飛行機が着陸するみたいに落ちる。

私のはすぐ飛んですぐ落ちた。無涯のみたいにはなかなかいかない。

「にしても遅いなぁ、無涯」

そろそろ部活が終わる頃。いつも無涯の部活が終わるまで、私はここで待っていた。

名門野球部の主将。最後まで練習してる無涯の邪魔はしたくない。だから私は、学校ではなくここで待っている。

あの人は優しいから、学校で待っていたらきっとすぐに練習を切り上げて迎えに来てしまう。

野球をしている無涯が好き。一球を投げる瞬間、あの気迫に満ちた顔。全身全霊をこめて投げるあの五光を打てる人なんていない。

なにより、大好きなことを一生懸命やってる無涯は誰よりも輝いて見えた。



暗くなりかけた公園の入り口で、聞きなれた声がかかる。見上げると、そこには大好きな彼氏。無涯の姿。

「遅くなってすまなかった」

「ううん、いいの。今日もお疲れ様」

無涯も乗る?と隣のブランコを指差せば、俺はいい、なんてブランコの枠組みに寄りかかる。

無涯がブランコ乗ってるとこ見てみたいんだけどなぁ。ってこんなこと言ったらしかられそうだけどね。

「今日は部活、どうだった?」

「また御柳がサボってな。探すのに苦労した」

「キャプテンは辛いね」

「マネージャーの一人でもいたら楽なんだがな」

そう言って無涯は私を見た。私にマネージャーやってほしいのかな。まさかね。

私はこうして、無涯の帰りを一人待っているだけで充分。なんか、奥さんみたいでちょっと嬉しいし。

ギィと音を立てて、またブランコを少し漕ぎ出す。顔にうける風が心地よかった。

ふと、さっき飛ばした紙飛行機が目に入る。そういえば、初めてあったときも無涯は紙飛行機飛ばしてたなぁ。

「なにぼんやりしてるんだ?」

「あ、えっとなんでもないよ。それより無涯、紙飛行機折って?」

「紙飛行機でいいのか?」

「うん、今日は紙飛行機な気分なの」

「どんな気分だ」

苦笑しながらも、私の手渡した折り紙で丁寧に紙飛行機を折っていく。

手先が器用なことが、すぐにわかった。無涯が飛行機を折っている間、私は始めてあったときのことを思い出していた。

あれはちょうど1年前。嫌なことがあって屋上に来ていた私は、そこで一人泣いていた。

学校も、友達も、勉強も、なにもかもが嫌になって、いっそここから飛び降りてしまえばどれだけ楽なんだろうとも思った。

涙は止まるところを知らず、次々にあふれ出る。屋上の風が、その涙を冷たくしていった。

錆びた柵から下を見れば、かなりの高さがあって、少し足が震えた。あぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう・・・。

もう、どうでもいいや―――

そのとき。一枚の紙飛行機がすっと私を横切っていった。

あの時は雲ひとつない晴天の日。それに真っ白な紙飛行機は雲みたいによく解けた。

紙飛行機につられて上を見れば、大きな空が広がっていて。その中心に紙飛行機が迷うことなく飛んでいた。

それを見ていたら、なんだか自分がとても小さく感じて、自分の悩みなんて本当にくだらないことなんだと思えた。

いったい誰が飛ばしたんだろう?後ろを振り返ると、そこにいたのは屑桐無涯。

野球部の主将だということも、2年生ながらにエースピッチャーだということも知っていた。怖い人だな、とか思っていたけど、まさかこの人が紙飛行機を折っていたなんて・・。

か?」

屋上の柵に寄りかかっていた無涯は、振り向いた私の顔を見てそう言った。名前、覚えていたんだと少しビックリする。

「・・・・泣いているのか?」

「え・・・・」

そうだった。私、泣いていたんだ。

そのことすら忘れさせてくれた一枚の紙飛行機。こんなにすごい紙飛行機を作れる人、そうはいない。

きっとこの人はとても優しい人なんだ、とそのとき初めて思った。

「大丈夫。もう、大丈夫だよ・・・」

ありがとう、とぎこちなく笑えば、無涯もふっと微笑んだ。

それから無涯は―――

?」

無涯の声で、現実に戻される。見ると、もう紙飛行機は出来上がっていた。綺麗に折られた紙飛行機。あの日と同じ色の。

「なにかあったのか?今日はいつもと違うが・・・」

「う、ううん!なんでもない。昔のこと、思い出してただけ」

「昔のこと?」

その言葉と共に、無涯がすっと紙飛行機を投げる。

真っ直ぐに、真っ直ぐに。どこまでも伸びていく紙飛行機。公園の外灯に照らされてキラキラと輝いているみたいだった。

無涯みたいだ・・・。

どこまでも真っ直ぐに野球をする無涯。キラキラと輝いて、とってもかっこいい。

そんな無涯が私は大好き。

「ねぇ無涯、覚えてる?」

「何をだ?」

「無涯と始めてあったとき、紙飛行機折ってくれたんだよ」

「あぁ、そうだったな」

あの日と同じように、無涯は笑う。覚えていてくれたんだ。

私に近づいて、無涯が優しいキスをしてくれた。まだぎこちない、私たちだけのキス。

ねぇ、覚えてる?その後無涯は、もう一回紙飛行機折ってくれたんだよ?

悲しいときは飛行機を折ればいい。そうすれば空の彼方へ飛んでいく。

そう言ったのは、紛れもない無涯自身。

だから今度は、私のために・・・。










紙飛行機を折ってください。