これもダメ
あれもダメ
じゃあ一体
なにがいいっていうの?
変わらないもの
『このたびは誠に残念な結果ではありますが――』
はぁ、またか。
私は不採用通知と書かれた紙をぐしゃぐしゃに握りつぶし、ゴミ箱へと放り投げた。コツン、と当たったけど素直には入ってくれなかった。
この通知がくるのは、これで3つ目。もういい加減見飽きてくる。たかがバイトの面接に、どうして受からないのか。友達はしっかり受かってるのに。
ってか、学校の面接よりもやりづらいんですけど。あーあ、どっかにいいバイト落ちてないかなぁ。
またタウンワークをめくって自給のいいバイトを探す。だけどまだ16歳。高校生になったばかりの私を雇ってくれるところなんて、そうそう見つからなかった。
めぼしいところを見つけても、年齢が足りない。もうちょっと早く生まれてきたかったよ、マミー。
みなさん勘違いされてる方も多いと思いますが、ここは学校。決して家じゃないですよ。
まぁ学校でバイト探ししてる奴もどうかと思うけどね。わざわざ家じゃなく学校で合否通知を開く奴もいないと思う。
けど、家より学校のほうが落ち着くっていうか居心地がいいっていうか。こんな奇妙な人私ぐらいしかいないだろうけどね。
あ、16歳からOKのところあった。丸つけとこ。
ペンケースから赤ペンを取り出しているところで、ガラガラと立て付けの悪い教室のドアが開いた。
あらら、こんな時間になんの用ですか・・・って私だけの場所じゃないけどさ。
「あ??」
「あ、一馬」
真田一馬。私の幼馴染。家も隣。小学校も中学校も高校まで一緒。腐れ縁ってやつかな。
一馬にはないんだろうなぁ、バイトしたいとかいう気持ち。その前にそんな時間ないか。サッカーのクラブユース?だっけ?に入ってたし。
東京なんとかにも選ばれてたみたいだし。かなりのサッカー通。将来の夢はもちろんサッカー選手。
いいなぁ、未来がしっかり決まってる人は。その陰にはいろいろ努力があったのは知ってるけど、それでも一般人の私からしてみればうらやましい。
私なんてまだ、将来の夢も決まってないし。それどころかバイトすら決まってない。
早くバイトしてお金もらいたいなぁ・・・。
「何してんだ?」
「バイト探し」
「高1で雇ってくれるとこなんてあんのか?」
「ないからコンナ時間まで残って探してるんじゃない」
「家でやれよ」
「いや。放課後の教室、落ち着くし」
「そういやは昔からそうだよな」
「そう?」
「放課後ずっと残ってボーッとしてただろ?」
「そうだっけな・・・昔のことなんて忘れたわ」
「まぁ別にいいけど」
一馬は自分の席からゴソゴソとサッカー雑誌を取り出して鞄にしまったあと、私の隣へ腰掛けた。
全く、そっちも相変わらずサッカー雑誌愛読してるじゃない。
お互い変わらないね。それもまた、なんかいい。
ずっと回りは変わってきた。けど、何か一つ変わらないものがあるっていうのは落ち着く。人間は常に、落ち着くことを求めるから。
一馬の存在は、私にとってとっても落ち着くんだ。
お互い昔の自分を知っているから、なんでも言い合える。一馬はどうかわからないけど、少なくとも私は一馬の考えてること、大体わかるし。
今だって、私のこと心配してくれてることがわかる。バイト落ちたのも、たぶんだけどバレてる。
たいしたことじゃないよ。全然平気。でも、心のどこかでは誰かに気持ちをぶつけたいのかな。
自分のことなのに、わからないなんて、変だね。
「いいの、見つかったか?」
「見つからない。一馬紹介してよ」
「俺が知ってるわけないだろ?っていうか、またバイト落ちたのか?」
「やっぱりバレてた」
「そりゃ、不採用通知がゴミ箱の脇に落ちてたら誰でも気付くよ」
「あ、戻すの忘れてた」
どっこいしょ、とおばさんくさい立ち上がり方をしてゴミをゴミ箱へ今度は確実に放り投げる。
さよなら、不採用通知。もう二度と来ないでね。
一馬は鈍いけど、変なとこ鋭いからたまにドキっとする。これも昔から一緒にいる私だけが知っている事実。
クラスの人から見れば、一馬はそんな風に見えないんだろうな。いっつもクール気取ってるから。
もっと素の自分を出せばいいのに。そしたら学校がもっと楽しくなるのに。
つまんないよ、エンジョイしてこその高校生でしょ?
なーんて心の中でお説教しても、意味がないからまたタウンワークに目を移す。
やっぱりないなぁ・・・全部18歳からだ。たまに16歳も見かけるけど、条件が悪いしなぁ・・・。
「なぁ、」
「んー?」
目線を動かさずに生ぬるい返事だけ返す。
一馬の咳払いが聞こえた。あ、なんか緊張してるな。どうしたんだろう。
これは真面目に聞いたほうがいい?
タウンワークから目を離して、一馬の方に向き直る。
予想以上に一馬の顔は赤かった。
「紹介したいこと、あった」
「なになに?バイト?もしかして、悪い仕事じゃないでしょうね」
「バっ!んなわけないだろ!」
「はいはいわかってるって。で、なにを紹介してくれんの?」
顔が赤いまま、また咳払いをして深呼吸。一体なにをそんなに緊張してるの?いくら幼馴染の私でもわからないよ。
あのさ・・・、と一馬は私の顔を見つめた。
ドキっと胸が高鳴る。これは、なに?
「俺を・・・紹介しようと、思って・・・」
「え・・・?」
俺を紹介するって・・つまり、その・・・告白ってやつですか?
何も言い返せなかった。何もいえない。
本当に長く付き合っててもわからないことがあるのが人間なんだね。突然なにを言い出すかと思ったら・・・。
でもね、一馬。はっきり言えたっていうのは、進歩だよ。私も心のどこかで待ってたのかもしれないね。
落ち着く存在の一馬がもっと近くに感じれるようになることを。
「そんなの、決まってるじゃない」
「き、決まってるって・・?」
にっこり笑って、頬に軽いキスをした。
耳まで真っ赤に染まった一馬の顔は、彼の大好きなリンゴみたいで、ちょっと楽しい。
変わらないね、ホントに変わらない。
そんなあなたが大好きだよ。
「バイトより何倍も嬉しいもの、見つけちゃったね」
「そう、だな・・・//」
放課後の教室で、私たちは優しいキスをした。
夕日が暖かく照らし出す。
これからも変わらないあなたでいて――
バイトの面接落ちましたよ記念で。
花月
