星さえ届かない











その高みに











いつか一緒に











行って欲しいんだ































































































































































集会の場所に着いたら、すでにメンバーのほとんどが集まっていた。

黒い特攻服が夜の風に揺れる。

別に集会なんてどうでもよかった。

でも、最近ではチームが大きくなり、規律が厳しくなったからサボるわけにもいかない。

面倒なことは避けたかった。



「よぉ、。遅かったじゃねぇか」

「久しぶりに学中行ったら停学くらった」

「バカ!んなとこ行く価値ねぇって」



笑いながら総長はあたいの肩を叩いた。

総長とタメ口きけるのは、たぶんこの中であたいだけだ。

群れず、他人を頼らず、ただ走ることだけに全神経を注いでいるあたいを総長は気に入っている。

あたいも総長は嫌いじゃない。

彼女はあたいの走りへの想いをちゃんとわかってくれていた。

だからあたいはこのレディースに入ったんだ。



「今日も、お前が先頭だ」

「いいの?仮にもあんた総長だろ」

「あたいは、走りたい奴を走らせないほど嫌な人間じゃねぇよ。四の五の言わず早く走んな」



バイクにまたがり、夜の街を暴走する。

あたいが一番気持ちよく感じる瞬間。

総長はあたいをいつも先頭にしてくれていた。

そのほうが走りやすい。あたいの前は誰一人として走らせない。

改造に改造を重ねたあたいのバイクが爆音を鳴らしながら走り出した。

テールランプは赤く輝き、星さえかすむほどだ。

全身に風を感じた。

夜の風が一番心地よい。涼しく、嫌なことなんてすぐに忘れられた。

でも、今日はただ一つ。気になることがある。

真田の存在。

あんな態度取った奴は初めてだ。

あたいは一度頭を振ってその考えを止める。

今は走ることだけに集中するんだ。

全てを忘れたい。

今まであった全てのことを。

その時だった。

あたいは、歩道に知り合いの顔を見つける。

さっきまであたいの頭をのっとっていた人物。

真田だった。



「あ・・・」



あたいは無意識にバイクを止めた。

あたいに続いて、少し後ろを走っていた総長があたいの隣にバイクを付けた。



「どうした?

「悪い、先走ってて。後から追いつく」

「・・・・・・・わかった」



総長は行くよ、と声をかけ、あたいを追い抜き夜の闇に消えていった。

歩道を歩いていた真田もあたいに気付き、足を止める。

しばらく沈黙が続いた後、先にしゃべり始めたのは真田のほうだった。



「よう。



悪名高いあたいの名前が知られているのはもっともだ。

真田はぎこちなく微笑んでいた。

でも、その笑顔は。

綺麗だと思ったんだ。



「何やってんだ、こんな遅くに。あんた優等生じゃねぇのか?」

「選抜の帰り。俺サッカーやってんだよ」

「ふぅん」



真田はガードレールを乗り越えて、あたいに近づいた。

そして、あたいのバイクをじっと見つめ、めずらしそうに声をあげる。



「これ、のバイクか?」

「そうだよ。あたいの最強バイク」

「すげぇな。お前、早いんだろ?」

「当たり前だろ。あたいを抜ける奴なんていねぇよ」

「すげぇ」



怖がるでもなく、怯えるでもなく、真田は普通にあたいとしゃべっていた。

バイクを触りながら微笑んでいる。

ふと、遠くの夜景が眼に入った。

今日は風が気持ちいい。こんな日に爆走したら、もっと気持ちいいんだろう。

もっと走っていたい。ずっと走っていたい。



「おい、真田」

「なんだ?」

「あたいと一緒に走ってみるか?」



真田は一瞬驚いた顔をして、そのあとすぐに微笑んだ。

やっぱり綺麗な笑顔だ。

あぁ、と真田はあたいのバイクにまたがった。



「バイク乗んの、はじめてか?」

「はじめてだな。車なら乗ったことあるけど」



真田がヘルメットと被ったのを確認し、あたいは勢い良くバイクを走らせる。

風があたいたちを包んでいった。

遠くに見えた夜景はすぐに近くなり、あたいはお気に入りの場所へとバイクを走らせる。

ここからもう少し行ったところ。

あと、少し。



「早ぇー!」

「気持ちよかったか?」

「すっげー気持ちよかった!」



バイクを止め、ヘルメットをはずした真田は、第一声にそう叫んだ。

あたいもバイクから降り、目の前に広がる夜の海を見つめた。

バイクを走らせるようになってから、あたいはいつもここに来ていた。

静かな海。夜になると何も見えないけど、波の音はいつまでも聞こえていた。



「なぁ、

「あん?」

「なんで、レディースなんかに入ってんだ?」



真田は見えない海を見つめながら、ぽつりと言った。

あたいもバイクに寄りかかり、同じように海を見つめる。

遠くで輝く星が、またキラリと輝きを見せた。



「走りたかったから」

「それだけ?」

「それだけだよ。別に他はどうでもいい。喧嘩とか規律とか」

はバイク走らせるとどんな気持ちになるんだ?」

「あたい?あたいは・・・風になった気がする」

「風?」

「風はさ。どこへでも行けるだろ?自由に吹きまわって、好きなとこ行って。あたいの理想なんだ」



そっか、と真田はまた笑った。

暗くてよく見えなかったけど、真田の笑顔は星より輝いてる気がして。

少し、羨ましかった。



「真田はさっきバイク乗ってて、どうだった?」

「俺も気持ちよかったよ。なんでがバイクに乗るのか、少しわかった気がする」

「むしゃくしゃしたり、落ち込んだりした時バイクに乗ると、全部忘れられるんだ」

「じゃあ俺が落ち込んだ時は、またバイクに乗せてくれよ」

「あぁ。いいぜ」



あたいは真田をまたバイクに乗せて、家まで送った。

じゃあな、と別れ際に見せた笑顔は。

あたいの胸に深くしみこんでいった。





その日から、あたいはよく真田と夜に走るようになった。

チームの走りを抜け出し、二人で気ままに走り続ける。

いろんな話をした。

サッカーの話、真田の友だちの話、学校の話。

あの海へ行くと、真田は気持ち良さそうに夜風を浴びている。

そしてまた、あの綺麗な笑顔を見せてくれた。

そんなある日。

真田は真剣な顔をして、あたいにたずねた。



「なぁ、

「なんだ?」

「お前・・・・寂しいのか?」



はっとした。

寂しいのか、なんて初めて聞かれたことだった。

あたいは寂しくなんかない。一人でやっていける。

ずっと走っていくことだけが、あたいの生きる意味。

友だちとか仲間とかどうでもいいんだ。

ただ、走れればそれだけで。



「なんで・・・そう思ったんだ?」

「はじめてを見たとき、なんか寂しそうだったから」



学校であたいが真田を殴った時。

無自覚だった。寂しそうな感じを出していることなんて。

そんなのあたいには関係ない。

あたいは寂しくなんてないんだ。



「乗りな」

「え?」

「送ってく」



あたいのヘルメットをかぶって、真田は大人しくバイクに乗った。


そしてまた、夜の街を走り回る。



ー!」

「あぁー?」

「俺はずっとお前と走っていくからなー!」



バイクに乗りながら言う真田の声に、あたいは言葉を失った。

どんなに仲間がいたって、どんなにバイクを走らせたって感じていた孤独感。

それは、あたいがいつも一人で走っていたから故のもの。

一緒に走れる奴が欲しい。

この風を一緒に感じてくれる奴が欲しい。

そんな願いを、無意識のうちに思っていたんだ。



「サンキュ、真田・・・」



あたいの声は、きっと風の音にかき消され、真田には届いていないだろう。

それでもよかった。

これはあたいの自己満足。

いつまでも一緒に走ってくれると言った真田に、心から感謝した。

ちょっと遠回りをして、真田の家に着く。

少しでも長く、真田と風を感じていたかった。



「送ってくれて、ありがとな」

「礼を言うのはこっちのほうだ」

「え?」

「あたいはいつも一人だった。一緒に走れる奴なんていなかった。けど真田。お前はちげぇ」

・・・」

「あたいは真田といつまでも風、感じていたいよ」



いつの間にか、涙が流れていた。

ずっと昔に忘れた涙。

やっと一緒に走れる奴を見つけたんだ。

あたいと同じ。でもあたいと真逆の人間。

不思議な存在。



「この前は・・・殴って悪かった」

「気にすんな。じゃ、また明日な」



真田は太陽みたいに笑って、手を振り家の中へ入っていった。

なぁ、真田。あたい、これからも走り続けるよ。

あんたと一緒に。

バイクのエンジンをかけて、走り出そうとした時。真田の家の窓が開いた。



!」

「真田・・・」

「お前はもう、一人じゃないからな!」



そう言い放ち、部屋の窓は閉じられた。

ははっ、何言ってんだ、あいつ。

あたいだって、もう一人じゃないことくらいわかってるよ。

あんたがいる。

だからあたいは走り続けられるんだ。

もう、一人の夜なんてごめんだからな。



「嬉しいよ、真田・・・」



ぽつりとそう言い残し、あたいは夜の闇に消えていく。

風を感じながら。













あたいはずっと一人で。













この風を纏う人を。













ずっと探していたんだ。















わけわからん作品になりました(いつもだろ

花月