まったく知らなかった人が







急に特別な存在になる







そんなこと、きっとそうそう起きるもんじゃない







これはきっと







奇跡と呼べるもの


































































奇跡の語らい



























































教室に入ると、なんとなくクラスが騒がしかった。それも厄介なことに、私の席の周りだけ。

「あ、。おはよー」

私の親友、が上半身だけこちらを向きながら手を振る。おはよ、と軽く返事を返した。

自分の席につくと、相変わらず回りがうるさい。別に興味もなかったので放っておいたら、が私の前に座る。

「ねぇねぇ、聞いた?今日三上先輩がクラスに来るんだってーvv」

「三上・・・先輩?」

疑問の声をあげると、近くにいた女子が全員こちらを向いた。みんな唖然とした顔をしている。

・・・まさか、三上先輩知らないとか?」

「うん」(キッパリ)

そんなに有名なの?三上先輩って。全く知らないんですけど。

、もうちょっと周りに興味持とうよ・・・」

哀れみに満ちた表情では私の肩に手を置く。

「3年の三上亮先輩。サッカー部のレギュラーで司令塔。顔よし頭よし運動神経よしの完璧人間なのよ。もちろん、学校では知らない人がいないくらいの有名人。その人が今日うちらのクラスに来るんだってv」

知らない人がいないくらいの有名人って・・・。現にここにいるんだけど。知らない人が。

「まぁいいや。別に興味ないから」

「ダメ!ダメだってそんなんじゃ!今学校にいる女子で三上先輩のこと知らないなんてありえないんだからね!」

「そんなこと言われても興味ないもんはしょうが・・・・」

「大丈夫!一目みればも絶対惚れるからv」

私の言葉を遮って、が自信満々に言った。惚れるわけないじゃない。今まで14年間生きてきて一回も好きな人できたことないんだから。

にしてもその「三上先輩」が2年のクラスになんの用があるんだろう。私にとってはその疑問のほうがよっぽど興味ある。

そんな会話をしているうちに、始業のチャイムがなって、気付いたらHRが始まっていた。































































「ったく!なんで俺がこんなこと!」

ぶつぶつと文句を言いながら、3階へ続く階段を上がっていく。その手に大量のノートを抱えながら。

あんのくそ教師!ちょっと反抗したくらいで雑用任せやがって!ただ授業中に間違ってた数式を教えてその後にちょっとした嫌味言っただけじゃねぇか。

それなのに、クラス全員分のノート集めて持って来いだと!?しかも教室まで!おかげでせっかくの昼休みが台無しだ!

ふざけんのも大概にしろ!

怒りに震えながら階段を上っていくと、上りきったところに「2−B」と書かれた教室が見える。

ん?2−B?確かここには・・・

俺はこの間藤代と話していた会話を思い出した。

「三上先輩!突然なんスけど、ちゃんって知ってますか?」

?あぁ、知ってる。2年のやつだろ」

「さすが!可愛い子はどの学年だろうとチェックしてるんスね」

「どういう意味だよ、それ」

確かに藤代が言ってたように、可愛いから目についたっていうのもある。だけど、それだけじゃなかった。

サッカー部のグラウンドは教室が良く見える位置にある。特に2−Bは教室内までよく見えた。

俺が練習の休憩中、ふと2−Bを見てみると窓側に座ってるあいつが見えた。

目を奪われるっていうのは、こういう時のためにあるもんなんだろう。それくらい俺はに見とれていた。

それ以来、俺の頭ん中での存在が離れる日はなかった。

「失礼します」

ガラガラと扉を開けると、目の前にある教卓に数学教師が座っている。軽く睨みを利かせながら、ずかずかと教室内へ入っていった。

教室内の視線が全て俺に集まった。あちらこちらから俺を賞賛する話し声が聞こえてくる。

「お、三上。ご苦労だったな」

「いえ」

心にもない言葉を言うと、わざと音を立てるようにノートを置く。そのとき、俺の視界に窓側の席が入ってきた。

そこに座っていたのは、あの日と同じ、興味なさそうに窓の外を見つめるの姿。

へぇ、この俺が入ってきたってのに、見向きもしないなんて。なかなか面白い奴じゃねぇか。

ノートの整理するふりをして、さりげなくを見ていると、一瞬目があう。

その瞳は本当に綺麗だった。



































































噂の「三上先輩」が教室を出て行ったあと、クラスの女子の興奮は最高潮に達した。

いたるところから、悲鳴にも似た黄色い声が上がっている。

初めて見たけど、確かにかっこいい。背も高いし。でも、人間って外見じゃないでしょ?

なんでそんなにキャーキャー騒げるのか、不思議でしょうがなかった。

「どう、。初めて見た三上先輩は」

「う〜ん、かっこいいとは思うけど、そこまで騒ぐほどじゃない」

「え〜!?理想高すぎだよ」

「そうかなぁ」

大体その人のことよく知りもしないで、好きだの嫌いだの言うのはかなり失礼だと思う。

だから、私の中での三上先輩への評価はこの時点ではまだ「普通」。

さっき一瞬目があったけど、そのときだって胸は高鳴らなかった。

たぶんこの先もそうだと思う。だってこれからあの人と関わることなんてなさそうだから。

「あ、そうだ。ごめん、。先にご飯食べてて」

「どこ行くの?」

「ん?ちょっとね」

不思議そうに小首をかしげるを残して、私は足早に教室をでる。

手に持った袋の中身が出ないように気をつけながら、校舎裏への道を歩いていった。

なんとか人に気付かれないよう、校舎裏にたどり着く。するとそこには、思わぬ先客がいた。

「よう、また会ったな」

さっきまで教室で騒がれてた先輩。きっとクラスの子がこんな状況になったら卒倒しちゃうんだろうけど、生憎私はそんなに可愛らしい神経を持ち合わせてはいない。

いたって普通に三上先輩を見つめていた。

「なにしてんだ?こんなとこで」

校舎の壁に寄りかかりながら三上先輩は気だるそうに言った。私はなんと答えていいのかわからず、ただ黙って立っているだけ。そのとき、三上先輩の足元から一匹の猫がひょっこりと顔を出した。

「あ」

思わず声が出てしまう。しまったと思ったけど、もう後の祭り。猫を抱き上げた三上先輩が面白そうに私を見つめている。

「もしかしてコイツ、お前の?」

「いえ、拾ったんです」

かわらに捨ててあった猫。なんとなく気が向いて拾ったはいいものの、うちでは飼えないからこんなところに勝手に住まわせている。

毎日こつこつとえさを与えてるうちに、すっかり懐いてしまった。

「へぇ、お前がこんなことしてるなんてな。意外」

まるで私のことを全て知っているかのような口ぶりにすこしカチンときた。だいたいこの人こそ、なんでこんなとこにいんのよ。

「そう睨むなよ。別に言いふらそうってわけじゃねぇから」

そういって私に猫を返す。腕の中で丸くなる猫に私の表情は少し緩んだ。

「知ってるんですか、私のこと」

なんだか馴れ馴れしい感じだったので、聞いてみると三上先輩はおかしそうに笑う。

「まぁ、少しはな。だろ?2−Bの」

クラスまで・・・。もしかしてストーカー?なわけないか。ストーキングされる覚えがないし。

「なんでこんなとこにいるんです?サッカー部昼練あるんじゃないんですか?」

「たまには息抜きも必要だから、サボるときはよく来るんだよ。誰にもいねぇし」

息抜き、か。私もサボるときはよくココへ来る。今までよく会わなかったもんだなぁなんて不思議に思った。

「猫、好きなのか?」

「あんまり好きじゃないです」

「じゃあなんで飼ってんだよ」

「別に。拾ったから」

「あっそ;」

私がなにか変なことを言ったのか、どことなく先輩は呆れた顔を見せる。

猫はあまり好きじゃなかった。気まぐれで、気が付くとすぐどこかへ行ってしまうから。

だけど、時々うらやましくなる。どこまでも自由で、のんびりとした暮らし。何にも囚われず、どこまでも自分らしく生きている彼らが。

「猫みたいに生きたいと思うんです」

「あ?」

「だから、拾ったんです」

自分でも何を言ってるのかよくわからなかったけど、知らず知らずのうちに言葉があふれてきた。

なんで今日まで全く知らなかったこの人にこんなこと言ってるんだろう。

変な奴だって思われるだけなのに。

「そんなの簡単じゃねぇか。ようは、自分らしく生きるってことだろ?」

いつの間にか私の腕から抜け出していた猫が、先輩の足元にじゃれている。

先輩は猫を抱き上げながら続けた。

「自分がしたいようにやればいいじゃねぇか。そんなの誰にも文句言われる筋合いだってねぇし、後悔だってしない。ただ自分の思ったことを思ったようにやればいいだけだ」

なぁ?と猫の頭をわしゃわしゃと撫でながら三上先輩は微笑んだ。

胸を打たれる。三上先輩の動作一つ一つに目が奪われる。

三上亮というこの人の大きさを、感じ取れた気がした。


































































「それでね、そのとき私が・・・」

翌日、いつもどおりと話す昼休み。最初は普通に聞いていたけど、だんだん私は窓の外を眺めるようになっていった。

?おーい!」

目の前で手を振られ、ようやく現実に戻る。なに?とあわてて聞き返した。

「最近変だよ。いつも以上にボーっとしてるし」

「そんなことないよ」

口ではそういっていても、私は明らかに変だった。校舎裏で三上先輩に会ってから、先輩の顔が頭から離れない。

この前なんか、ただ廊下ですれ違っただけなのに顔が真っ赤になってしまった。

「そういえば、。さっきの授業で先生にノート運んどけって言われてなかった?」

「そうだった!」

時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わってしまう。私は急いでノートをもって教室を出る。

階段を駆け下りて社会科教室のドアを開けると、そこには思いがけない人がいた。

「あれ、じゃねぇか。なんでここにいんの?」

み、三上先輩・・・。よりによってなんでこの人が!

「ノ、ノートを出しに」

なにどもってんのよ、私は。なんでこんなに意識してるんだろう。

「先生ならいないぜ。俺が代わりに留守頼まれてるから」

そうですか、とノートを置いて立ち去ろうとしたら、強引に腕を引っ張られた。

「そんなにあわてんなよ。話くらいしてこうぜ」

にやりと笑った三上先輩の言葉に逆らわず、私はちょこんと隣に座った。

「で、最近どうだ?猫みたいに生きれてんのか?」

「猫みたいにって・・・;まぁ、それなりに頑張ってますけど」

「そりゃよかった」

机の上に足をのせて、天井を見上げている先輩の横顔を見ると、また胸が高鳴る。

だんだん顔まで赤くなっていった。

「どうした?顔真っ赤だぜ?」

突然こっちを振り向いた先輩が面白そうに言う。もうどうしていいかわからない私はただ黙って俯くしか出来なかった。

「お前もしかして・・・俺に惚れた?」

「はぁ!!??」

な、なにを言い出すんだこの人は!!惚れる!?誰が、誰に!!!!?????

「ち、違います!」

「そんなに赤くなりながら言っても説得力ないって」

今まで笑ってた三上先輩の顔が急にまじめになる。私はもう、息すらできない。

・・・・」

名前を呼ぶ先輩の声は、とてつもなく艶やかで。頭の回転が追いつかない。

「俺のものになれ」

力強くいった先輩の言葉を、私はうまく理解できなかった。

どうして?前までなんの興味もなかったのに。誰だかさえ知らなかった私を、どうして好きになったの?

それに私は、なんでこの人をこんなに意識してしまうの?

あの日校舎裏で話した日からずっと考えていた答えが、ようやく出た気がする。

私はこの人が好きなんだ。

「はい」

静かにそういって、私たちはキスをした。




前はあんなに遠かった存在が今はこんなに近くにある。




それがとても幸せだった。




人を愛することがこんなに幸せなことなんて、知りもしなかった。




貴方に会えて知ることが出来たこの感情。






今胸の中で、神々しく輝いている。





300HITを踏んでくださった藤本さまへささげます。三上ドリームでございます。

せっかくリクエストしてくださったのに、こんな駄文ですみません;

ちゃんとリクエスト通りに書けたでしょうか。もっと精進しなくては!

藤本さま、こんなヘボドリームでよろしければぜひ受け取ってやってください。

花月