寂しかった
辛かった
一人だった
孤独だった
それに気付いてくれたのは
ほかの誰でもない
貴方、ただ一人
孤 高 の 華
あいつはいつも明るくて、元気で、クラスの中心人物だった。
けど、時折見せる寂しそうな目が、俺はどうにも気になって。
気が付けば、いつもあいつを目で追うようになっていた。
同じクラス、隣の席の――。
「真田くん」
日直の日誌を書きながら、こっちを見ないでが言う。
その姿はとっても綺麗で、一瞬ドキっとしてしまった。不意に顔が赤くなる。
クラス・・・というか学校でも評判の美人。隣の席になったときは、友達から散々羨ましがられた。
現に今を狙ってる奴が何人もいることを、俺は知っている。
あんまりいい思いがしないのは、なんでなんだろう。
「なんだ?」
「さっき日誌取りに行ったら、先生がノート点検しといてくれだって。これ書き終わったら一緒に取りにいこ」
「あぁ、わかった」
スラスラと手早く日記を書き続けて、は真剣な表情を見せている。
俺はそれを眺めながら、ただぼんやりと考え事をしていた。
明るく、誰にでも優しいと評判の。でも、俺は見てしまった。
昨日の放課後、教室の片隅で一人きり、泣いていたところを。
それはいつものじゃなくて、まるで幼い子供のように、小さく縮こまって泣いていた。
教室に入ることもできなくて、俺はそのままその場を後にした。
無理やり教室に入って、慰めてやることもできたかもしれない。けど、俺はそれをしなかった。
なんでだろう、ってずっと考えていた。たぶんだけど、の泣いている姿が、近づかないでと言っていたような気がしたからだと思う。
一人にしてと、けれど、寂しいと泣いていたような気がする。
本当はだれよりも孤独な人なんじゃないかと、俺はそのときの本当の姿を見た気がした。
「――なだくん。真田くん!」
「え!?あ、な、なんだ?」
「もぉーなんだ?じゃないよ!どうしたの?ボーっとして」
「あ、いや、ちょっと考え事」
「ふぅん、そっか。あ、日誌書き終わったからノート取りにいこ」
「わかった」
とともに、教室を後にする。
そのままお互い何も言わずに、職員室へ入り、俺が半分以上のノートを持って(一応男だから、そこら辺はマナーだろ)また教室へ戻った。
二つの机をくっつけて、ちょうど半分ずつ、ノートを点検していく。
いくらテスト期間で忙しいからって、ノート点検くらい自分でしろって感じだ。教師も変なところ押し付けだよな。
目の前にいるの姿がどこか大人っぽくて、またドキドキする。
なんなんだ、この気持ち。すごく心臓が脈打つのが早い。
その時。ふと、の手が止まった。
「どうした?」
黙ったまま俯いて、は赤いペンを置く。
俺もつられて点検をやめ、を見つめた。
「ねぇ、真田くん」
「ん?」
「昨日・・・私が泣いてるところ、見たでしょ」
思わずペンを落としそうになった。
見られてた。というか、気付かれてた。
なんて言っていいのか、わからないまま、俺はただ黙り込んでしまった。
「聞かないの?」
「なにを?」
「理由」
「そりゃ、なにがあったのか聞きたいけど・・・言いたくないことは無理に言わないほうがいい」
「どうして言いたくないことだってわかるの?」
「・・・・すっげー寂しそうな目ぇしてたから」
の目が大きく見開かれ、驚いた表情になる。
図星だったからなのか。すごく、意外そうな顔をしていた。
「真田くん、エスパー?」
「時々、そんな目になってたからな」
「そっかぁ・・バレてたか」
また少し俯いて、悲しそうに笑う。
小さな手は未だに止まったまま動かず、俺たちの時間も止まっていた。
「私の家、お母さんがいないの」
「そうなのか?」
「うん、そう。離婚。だからね、家に帰っても誰もいないんだ」
「そうか・・・」
「寂しくなんてないよ。でもね、なんだか、こう・・・心にぽっかり穴が開いた感じなの」
「・・・」
「その穴から全部零れ落ちちゃうんじゃないかって。大事なものが全部・・・だから、怖いの」
「なぁ、」
「なに?」
「それを、人は寂しいって言うんだよ」
の目から涙がこぼれた。
綺麗な涙。透き通ったその雫は、頬を伝いそのままノートの上に落ちる。
「そう、なのかなぁ・・・私、寂しかったのかなぁ・・・」
「俺が・・・」
「え?」
「俺がその寂しさ・・・消し去ってやるよ」
「付き合おう、」
なんで自分がこんなこと言ったのか、わからない。けど、泣いているをみて、そう思ってしまった。
いつもを見ていたのも、悲しい目に気付いていたのも、全部が好きだったから。
今、やっと気付いた。
「今まで、辛かったな・・・」
「真田くん・・・」
「もう、一人じゃないから。もう、大丈夫だから」
泣きたいときは俺の胸で泣けばいい。
の支えになれると思っているから。
は小さく頷いて、そのまま泣き続けた。
この小さな少女を――
俺はきっと守り抜いてみせる。
祝50作品目!
花月
