クリスマスと言ったら
並んで歩いて
ケーキとか食べて
ラブラブする
そんなことばかりだと思ってた
クリスマスの教室で
終業式が終わって冬休みが始まる。もちろんそんな日に好んで学校へ来ようなんてことしないけど、私は別だった。
誰もいない夕方の教室。野球部は2面ある専用グラウンドでまだ汗を流している。そんな姿を2階の窓から眺めて、ふっと一回ため息をついた。
冬休みなのによくやるわ、まったく。半分呆れながら机に腰掛け見ていると、こっちに思いっきり手を振るバカがいる。御柳芭唐、私の彼氏。
またため息をついて小さく手を振り替えしてやると、もっと大きく振り続けた。そして包帯を巻いた先輩にどやされてしぶしぶ3塁に戻っていく。守備練習のようだ。
さて、なんで私が冬休み、しかもクリスマスのこの日に誰もいない学校なんかに来ているのかというと、なんのことはない、ただ呼び出されたから。
呼び出したのはもちろん芭唐。朝の5時ごろ(たぶん野球部の練習が始まる時間)に電話でむりやり起こされたと思ったら練習が終わる頃に学校へ来て欲しいとだけ言われた。
何時に終わるのかとか、なんで行かなきゃいけないのかとか全く聞けず、電話は切れた。
せっかくのクリスマス、このクソ寒い中をこうして私は誰もいない教室で未だ終わらない部活を一人待ち続けている。
だんだん日も傾いてきて、すぐに真っ暗になった。しょうがなく電気をつける。
もう、早くしないと門が閉まっちゃうのに。何でこんなに長く練習してんのよ!たぶんさっき手を振ってたから練習長引かせたんだろうな、あの部長さんが。
クリスマス。街にはカップル達が溢れている中、私たちは学校で部活をやり、それを待ってる。こんなに雰囲気のないクリスマスなんてあるわけ?あっていいわけ!?
あーあ、だんだんむなしくなってきた。もう帰ろうかな。でも外で待ってるのは寒し、勝手に帰ったら芭唐が怒るだろうから、しょうがない。
こうなったら部活終わって、絶対デートしてやる。疲れてようがなんだろうが、私をこれだけむなしくさせたんだから、そのくらいのことしてもらわなきゃ。
時計の音が教室の中に響き渡る。それ以外の音は何もしない。時々グラウンドから掛け声が聞こえてくるくらいだ。
10分経ち、20分経ち、30分が経ち、そして1時間が経った。グラウンドには照明灯がつき、まだ練習は続いている。
教室は電気をつけて明るいけど、廊下は暗い。おまけに寒いから、怖がりの私としては最悪のシュチュエーションだ。
「芭唐ぁ、早く着てよー・・・」
小さく呟いて少しでも廊下から離れようと、一番窓側の席へと移動する。また外から野球部の練習が見えた。
2階ということもあって、選手たちの顔まで良く見える。その中で芭唐はやっぱり目立った存在だった。
1年生ながらに1軍入りし、その上最強の4番として君臨している。守備センスも1年生とは思えないほどだ。
そんなすごい人と付き合ってる。それだけでなんだか嬉しいというか、あったかい気持ちになれた。だからなんやかんや言ってもここで待ち続けてるんだと思う。
それに、野球をやってる芭唐の姿は好き。いつもは軽い感じの芭唐が野球をやってる時だけは真剣な目をする。そのギャップがかっこよかった。
そんなことをぼんやりと考えていると、選手達が監督と部長の周りに集まっている。どうやら練習が終わったみたいだ。
っしたー!という元気な声と共に選手達がばらける。芭唐はユニフォームのまま校舎内に入っていった。
そろそろ来るな、と机の上から降りて暗い廊下のほうを向いた。足音が響いて、だんだん近づいてくるのがわかる。
「メリークリスマス!!!!!」
大きな声とクラッカーを鳴らして、芭唐は教室のドアを開けた。舞い落ちる紙ふぶきを浴びながら私は言葉を失った。
「芭唐、何?その格好・・・」
「何って、サンタに決まってんじゃん。似合うだろ?」
クラッカーを鳴らして入ってきた芭唐はユニフォームの上からサンタの衣装を着ている。いつの間に着替えたんだか;
まさか私をわざわざ学校に呼び寄せたのって・・・。
「この衣装を見せるためじゃないよね?」
「え?そうだけど?」
殺!!!!恋人たちの祭典であるクリスマス(ホントはキリストの誕生日だけど)をこんな雰囲気もなにもないところで、コレだけの衣装のためにぶち壊すなんて!!
私は腕を組んでそっぽを向いた。女心を傷つけた罪、軽くないわよ?
「?なに怒ってんだ?」
「鈍感すぎるどっかの誰かがクリスマスをぶち壊したから」
「ぶち壊してねぇだろ!ちゃんとサンタの衣装着てきたし、それにプレゼントも用意したんだからな!」
「・・・・・・・・プレゼント?」
その言葉にちょっとだけ振り向く。まさかあの芭唐がプレゼントを用意してるとは思ってなかったからびっくりした。
「プレゼントってなに?」
「やるから後ろ向いて目ぇ閉じろ」
ちょっとためらったけど言われたとおり、芭唐に背を向け目を閉じる。首に何か当たるのを感じた。
そして目を開けると、窓に映った私の姿。その首にはキラキラ光る可愛いネックレスがぶら下がっていた。
「可愛い・・・」
思わず怒りを忘れて呟いてしまった。その可愛さに呆然としていると、後ろからそっとぬくもりを感じる。
「これからちゃんと、デートしような」
「エスコートしてくれるの?」
「あたりまえじゃん」
「なら許す」
芭唐の手をぎゅっと握って私はそのぬくもりをかみ締める。
どんなに雰囲気のないクリスマスだって、芭唐がいれば特別なものに変わる。
それが、クリスマスのいいところ。