ことの始まりはこの言葉
クリスマスだし、なんかやりたい
そこで犠牲になったのは
我らが守護神
功刀一
クリスマスパーティー
「というわけで、サンタ役はカズさんに決定しました」
「はぁ?」
放課後の部室。部員全員を集めた練習後の集合で、私は高らかにそう宣言した。納得してないのはカズさんだけ。他のみんなは口をそろえて「異議なし」と手を上げる。
「ちょお待て。なんね、それは」
「やだなぁカズさん。クリスマスですよ、クリスマス。そのクリスマスで今回はカズさんが名誉あるサンタに選ばれたんですよ」
「サンタだぁ!?」
まったく状況が理解できていないカズさんとみなさんのために、説明しましょう。我がサッカー部に伝わる伝統。
ことの始まりは約2時間前。昭栄との会話からだった。
「もうすぐクリスマスやね、」
「そうだね。去年はクリスマスパーティーしたし、今年もなんかやりたいね」
二人であれこれといろんな案を出して、最終的に出た結論。クリスマスパーティーで仮装したらどうか。
「面白そう!絶対やらなそうな人にやらせよう!」
「そやねーそれやったらやっぱりあん人が良かやろ!」
「もちろん、あの人しかいないでしょv」
こうして私たちは仮装大会・・・もといクリスマスパーティーに向けての衣装を買いに走っていった。
「ということなんです、カズさん」
「伝統でもなんでもなかやろ・・・!」
まぁそうなんですけどね。とりあえず今年からの伝統ってことで。
私は大きな袋からサンタ用の衣装を取り出してカズさんに手渡した。断固として受け取ろうとしないカズさんに無理やり渡し、よっさんの協力も得てなんとかカズさんをサンタにすることに成功。
「なして俺がこげんこつせなあかんのや・・・」
「安心してください。私も同じ運命辿ってますから」
カズさんは私の衣装を見て言葉を失ったかのように固まった。この完璧な仮装に感動したのかな。
「・・・お前なんちゅう格好しとおとね?」
「トナカイですよ。私がトナカイならサンタも安心ですね♪」
「・・・・・・・・・・・余計不安や」
「失礼ですね、これでもトナカイ準2級ですよ?」
「それは英検やろ!?」
「ナイス突っ込みです、カズさん。この信頼関係こそ、サンタとトナカイにおける・・・」
「もうよか;」
ため息をついてカズさんはすでにクリスマスパーティーの始まっている部室へと入っていった。しばらく外で様子を窺ってみる。
思ったとおり部室は大ウケ。大爆笑の嵐。カズさんが昭栄を殴る姿が容易に想像できた。
そろそろ私も行こうかな。私が入ったらきっともっと面白くなる・・・ってところで突然部室のドアが開いた。
「あれ、カズさん。もうリタイアですか?」
「、ちょお来い」
あれれ・・心なしか額に怒りマークが見えるんですけど・・・。もしかして、いや、もしかしなくても怒ってますか!?
部室の裏側に呼び出された私はサンタの格好をしたカズさんと二人っきりになった。
これはかの有名な呼び出しというやつで、カズさんはいまマックス級に怒っていて、それで私の運命は・・・。
さようなら、私の人生・・・(遠い目)
「カ、カズさんそんなに怒らないでください;私が悪かったのでせめて命だけは・・・!」
「はぁ?なんば言いよっとね?」
「え・・・?」
怒ってない?暗くてよく見えないけど、ちょっと顔が赤いですよ?
ま、まさか!怒りを通り越して呆れてらっしゃったり!?
「俺はサンタやんな?」
「え、あ、はい・・そうです」
サンタですけど、気に入ってないんじゃないんですか?なぜそんなことを聞くんだろう。
「それで、お前はトナカイや」
「そのとおりです」
「目、閉じ」
「な、なしてですか!?」
「ええから閉じ!!」
「はいぃ!」
やっぱり怖いよ、カズさん。かなり怖いよカズさん。殴られるんだろうか。
私は奥歯を食いしばって目を閉じた。
すると、唇に感じる柔らかな感触。
まさか・・・キスってやつですか?
「カ、カズさん!?///」
「サンタからのプレゼントや。ありがたく貰っとき」
そう言ったカズさんの顔は真っ赤で、トナカイの歌を思い出した。なんだか可愛くて、そのまま私はカズさんに抱きつく。
「トナカイとサンタの恋はありですか?」
「大ありや」
私が過ごしたクリスマス。こんなにいいプレゼントを貰ったのは生まれて初めて。
来年もまた一緒に過ごしたい。ね、カズさん。