寒い冬の真っ只中。南校舎の屋上。











扉を開けたらそこにいたのは、制服をキチンと着こなした美少女。











扉を開けたのはネクタイを緩めた美男子。











バレンタインデー。











それは、何かが起こる前触れに過ぎなかった。

















































































口移しのチョコレート





















































































バレンタインデー。海外から伝わってきた、女の子の聖なる一日。

女の子が想いを寄せる男の子に愛のチョコを渡すのが、日本では一般的だ。

もちろん、それは付き合っていてもしかり。

なぜチョコなのかとか、なぜ女の子が告白するのかとかは日本では独特の風物だが、とにかく女の子にとって、バレンタインデーとは重要な日の一部だ。

しかし・・・。



ー今年のバレンタインデーはどうする?」

「もふ?」



、17歳。華の高校2年生だがなぜ「もふ?」なんて間抜けな声を出しているかといえば、それはちょうどお昼休みでお弁当を食べていたからである。

の親友であるはその間抜けな声に、はぁ・・・とため息をついた。



「もふ?じゃないわよ。バレンタイン!今年もやらないつもり!?」

「今年もって・・・おととしもやってないけど?」

「だからこそ!今年くらいはやってもいいんじゃない!?」

「わかった、わかった、だから肩ゆすらないで、ぐふっ!」



そう、このという少女。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能という才色兼備な才能の持ち主なのだが、どうも色恋沙汰には全くの無縁なのであった。

いや、無縁というのは少し違う。疎いという表現の方が合っているのかもしれない。

のような女の子を世の男性、とくに思春期真っ盛りな中高生が放っておくわけがなかった。

そのため、何回も告白されてきたが、全てスルーするか断ってきた。

理由は?と聞かれたら彼女は――



「だって束縛されるの嫌いなんだもん」



これだからもう、親友のは躍起になってを普通の感覚に戻そうと必死なのだ。

こちらのに劣るとも勝らない美貌の持ち主。もちろん彼氏もいる。

全国的に有名な武蔵森学園高等部、サッカー部主将渋沢克朗だ。そして、と克朗がくっつけたがっているのはといえば・・・。



「三上先輩でいいじゃない!三上先輩のどこがダメなわけ!?全国の三上先輩ファンが聞いたら、なんて袋叩きよ!?」

「恐いこというなぁーは。だって束縛されるの嫌いなんだもん。別に三上先輩が嫌いなわけじゃないよ」

「じゃあ一回でいいから三上先輩と食事してみなさい!ね!お願いだから!このとおり!」



は両手を胸の前で合わせ、片目を閉じてお願いした。

もぐもぐと大好きなシーチキンのおにぎりをごくんと飲み込み、今度はが深いため息をついた。



「わかった。そこまでがお願いするなら1回だけね。で、いつ?」

「ありがとう!もちろん2月14日のお昼休み!中庭は目立つから南校舎の屋上ね」

「あはは、計画立ってたのね;わかった。じゃあ行くよ。だからお願い、そろそろ離れて;」



それで、冒頭に戻るわけだ。



「はじめまして。の紹介で来ました、です」

「あぁ、お前がうわさの・・・・俺のことは知ってるよな?」

「知りません」

「・・・・・・・・」



痛い沈黙が二人の間に流れた。

しばらく南校舎に静寂が注がれたが、それを破ったのは亮の方だった。



「はぁ;渋沢克朗の紹介で来た、三上亮だ。一応よろしくな」

「はい、一応よろしくお願いします」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」



再び南校舎に沈黙が流れる。

寒い日の昼。幾ら日差しがあっても、二人の間に吹く風は冷たかった。



「とりあえず食べません?」

「そうだな」



二人はやっと並んで食事を始めた。

どちらも校内校外ともに人気のある人達だ。並んでいるととても絵になる。

気づいていないのは本人たちだけだろう。



「お前、今日いやいや来ただろう?」

「三上先輩こそ、いやいやでしょう?」

「亮でいい。それに敬語止めろ」

「わかった。たぶん私と同じように渋沢先輩に無理やりお願いされたんじゃない?」

「はは!わかってんじゃねぇか」

「なんでくっつけたがるんだろうね」

「さぁな。渋沢は俺たちは似てるから気が合うとか言ってたけど」

「・・・亮、束縛嫌い?」

「大っ嫌い」

「・・・気が合うかもしれないな。俺も束縛は大っ嫌いだ」



またもぐもぐと食べ始める二人。そして食事も終わり、一服、と亮は懐からタバコを取り出した。



「私もメンソール好き」

「特にセッタ、だろ?」

「Just!」

「やっぱ俺たち気ぃ合うわ」

「付き合ってみます?」

「そうだな、それもあり。だけど・・・・」



亮はいきなりの肩を抱き、唇を重ねてきた。

煙が口移しで入ってくる。好きな味。セッタのメンソール。



「ごちそうさま」

「そういう強引さは好きだよ、亮。じゃあバレンタインデーの贈り物はキスってことで」

「いや、もっともらうぜ?」

「どうぞお好きなように」



そのあと二人は何度も唇を重ねあった。





バレンタインデーの奇跡。

こんな付き合い方もありでしょう?