狂っていたとか











間違っているとか











そんなのどうでもいいの











私はただ











あの人を











助けてあげたいだけ





























































































救世主

























































































ゲームが始まってから3日目。早くも最終日になってしまった。

最初は銃声がなるたびに怖がっていたけど、それも次第に慣れていき、今ではそれが当たり前になった。

幾度となく狂った友人を見てきて、幾度となく友人の死体を見てきた。

仲のいい友達が死ぬ瞬間も見た。友達を殺したクラスメートの渇いた笑い声も聞いた。

それでも私は、狂えることなくここに立っている。ずっと探し続けている。

私の彼氏・・・真田、一馬。

ゲームの舞台となったこの無人島はかなり意外と広い。人一人探すのにもかなり苦労する。現に、もう最終日まで使ってしまった。

今までの放送は1度も聞き逃していない。死んだ人の中に一馬の名前は入っていなかった。

彼は今もどこかで生きている。きっとまだ、綺麗なままで。

一馬は人を殺す勇気なんてないから。そんなに強い人じゃないけど、そこまで弱い人じゃないから。

最終日の今日も、まだどこかで震えていると思う。

銃声に慣れることもなく、死体を前にしては泣きながら、それでも生きている。そんな自分を憎みながら、まだゲームに参加してる。

一馬はそんな人。彼氏の反応くらい、当然読めるよ。それが一馬ならなおさらね。わかりやすいから。

一面の海が見渡せる崖の上に来た。コンパスは北をさしているから、たぶん最北端。

下を見れば、二つの死体が浮かんでた。自殺・・・か。それもまた、一つの選択肢だと思う。

でも私にはできなかった。否、考えようともしなかった。

だって、私には目的があるから。一馬を探し出すっていう大きな目的。

それを果たせたら自殺でも、なんでもすぐに受け入れてあげるわよ。

幸い、私の武器はピストル。このこめかみを打ち抜くにはうってつけの銃。

もちろん、殺傷能力も高い。さすがにマシンガンとかには負けるけど、それでも人を殺すには充分なものだ。

この銃が自分のバックから出てきた時、思わず笑みを浮かべてしまった。

それってやっぱり狂ってることになるのかな。でも、しょうがないよね。だって嬉しかったんだもん。

この銃ひとつで、なんでもできる気がした。もちろん、優勝なんて望まない。

私の望みはもう決まってる。それは――



?」



果てしない海を見つめているところに、私の名を呼ぶ声が聞こえて思わず振り返った。

一馬。私がずっと探していた人。私がこの世で一番好きな人。

その彼がそこに立っていた。よかった、ギリギリで会うことができて。

また生きて、会うことができて。

一馬は、私の目を見るなり急に持っていたナイフを隠した。

一瞬だったけど、血がついているようには見えない。やっぱり、一馬はまだ人を殺してないんだ。

読みが当たって嬉しいけど、それよりも驚いた。誰も殺さずにここまで生き残っていた人がいたなんて。

さすが一馬。昔から、運だけは強いよね。



!よかった、生きてて!俺ずっと探してたんだ!」

「私も探してたよ、一馬」



にこりとも微笑まず、私はただ淡々と言葉を発した。

そういえば、ゲームが始まってから私は笑いも泣きもしていない。

これも狂ってるうちに入るのかな。

まぁいいや、そんなこと。やっと目的を果たすことができるんだから。

私の望み、やっと叶うね。ありがとう、一馬。



・・何してんだよ・・・・!」



さっきまで私の好きな笑顔で笑ってた一馬の顔が、一瞬にして険しくなる。

私は一馬に銃を向けていた。私の望み。それは――一馬を殺すこと。



「何って、一馬を殺そうとしてるのよ。わかるでしょ?」

「なんで・・・俺を殺すために探してたっていうのかよ!」

「そうだよ。ずっと探してたの。この手で一馬を殺すために」



ずっと、ずっとこの手で一馬を殺そうと心に決めていた。あの古びた教室で、ゲームの開始を告げられた瞬間から、ずっと。

なんでかって?そんなの簡単。

彼を、愛しているから。理由はただそれだけ。

好きで好きでしょうがない。この世で一番愛しているの言葉は決して嘘じゃない。

サッカーに嫉妬していまうほど、私は一馬を愛してる。

だから、他の人に殺されてほしくないの。

一馬の性格だと、このゲームに生き残るのは不可能。私が全員を殺して、最後に自殺して、一馬を優勝者にすることはできるかもしれないけど、それだって可能性は低い。

だから殺すの。一番確実な方法。一馬に人を殺させるくらいなら、私が一馬をこのゲームから救い出してあげる。

『死』という形で・・・。



「今・・・助けてあげるから」

「どうして・・・なんでだよ!俺のこと、もう好きじゃなくなったのか?」

「ううん、逆だよ一馬。愛してるからこうするの」

「意味わかんねぇよ・・・っ!」

「だって、死んだらこのゲームから抜け出せるでしょ?まだ一馬は綺麗なままだから、私がそのまま天国への逃げ道を作ってあげる」



どうしていいのかわからない、って顔してる一馬。おかしいな、もっと喜んでくれると思ったのに。

だってそうでしょ?この最悪な殺人ゲームからようやく抜け出せるんだよ?

大丈夫、一瞬で殺してあげるから。痛くなんてないよ。

一馬はゆっくりと目を閉じ、ナイフを地面へ落とした。

ありがとう、一馬。助けてあげる。この銃で・・・。



「なぁ、

「なに?」

「俺のために、俺を殺してくれるのか?」

「そうだよ」

「まだ、俺のこと愛してくれてるのか?」

「当たり前だよ、一馬。世界で一番一馬を愛してる」

「そ、っか・・・」



なら、いいか・・・、と一馬は微笑んだ。

あぁ、やっぱり一馬は強い。

私もすぐに後を追うから。一人じゃないよ。心配しないで。

さよなら、一馬――
































































































ガゥン!!



























































































倒れていく一馬はやけにゆっくり見えた。左胸から血を流し、黒い髪を風になびかせ、そのまま吸い込まれるように横たわっていく。

一馬、ねぇ一馬。

また二人で笑い会おうね。

きっと天国なら、また会えるから。

今、そっちに行くからね・・・。

こめかみに銃を当てて、渇いた音を最後に聞きながら私も意識を失った。


















北の果て。二つの死体は並んでいるように見えた。
























久しぶりのバト笛。一馬はきっと一番強い人。

花月