ずっと伝えたかった言葉がある






ずっと届けたかった想いがある






もう会うことはできないけれど






どうしても伝えたいんだ






このあふれる想いを






たくさんの感謝を






そして――






































































 a s t    e t t e r   ‐ 最 後 の  葉 ‐

































































思えばお前と付き合ってた2年間。一度も手紙なんて書いたこつなかったな。

やけん、どがん風に書いてよかかわからんとよ。

との思い出がありすぎるけん、長くなっても許してほしか。それだけ、お前との仲は深かったんや。























出会った日のこつ、覚えとーや?友達に誘われて俺のサッカーの試合見に来てたんが最初やったな。

最初はなんや、やけに大人しく試合みとる奴がおる。くらいにしか思っとらんかったけど、まさかここまで深く関わっていくなんてな。自分でもビックリしとる。

その後、試合に勝った俺たちが歓喜の声ば上げちょるとこに、泣いて現れたときはちかっぱ驚いたばい。

なして勝ったのに、泣いとるんか?って。でも、悲しくて泣いとるわけやなかっちこつは、すぐにわかったとよ。





おめでとうございます。





訛りなんて全然ない言葉で、そう言ったときのの笑顔。今でも忘れん。言葉では表せんほど綺麗なもんやった。思わず見惚れてしまったくらいや。





ありがとう。





小声で言った俺ん言葉は、ちゃんと聞こえたと?はずっと笑っとったけん、よう分からんかった。

これは俺の勝手な思い込みやけど、そん時の笑顔は、俺だけに見せてくれてたんか?

今になってわかる。その後ずっとんこつ見とったけん、一度もそげな笑顔見せとらんかったばい。

この手紙を読みながら、きっと違うって言うかもしれん。やけん、俺はそう思っちょる。そう思わせてくれんね。

























出会ってからしばらくして、先に告白したのはからやったな。急に呼び出されたときは驚いたけん、もう会いたくなかって言われるんかと内心ビクビクしとった。

俺たちが始めて出会ったグラウンド。そこにいたはあの日と全く変わっとらんかった。

思わずあの日に戻ったのかと思ってしまったと。でも、が見せた笑顔は前より柔らかかものになっとった。

俺はまた、に見惚れてしもうたんや。

気付いとった?鈍いのことやけん、たぶん気付いとらんかったよな。やけん、俺は告白された時、ちかっぱ嬉しかったとよ。

返事はただ素っ気なく、首を縦に振っただけやったな。それは、恥ずかしかったからたい。その後は嬉しそうな顔ばしちょったけど、ほんの少しだけ不安な表情もしとった。

俺が不安にさせたんやって、今なら分かると。悪か。本当なら、言葉にして伝えればよかったんや。やけん、口数の少なか俺やから、どうしても伝えられんかった。

今さら謝っても遅かね。それでも、謝らしてほしか。本当に悪かったと。

























それから、幾度となくデートしよったな。遊園地、動物園、水族館、サッカーも見に行ったりしたな。

俺も部活やら九州選抜やらで、ちかっぱ忙しか時期やったけん、急に行けんようになったときもあった。

それでもは笑って許してくれたと。なかなか会われんで、寂しい思いばさせよったな。

その分、久しぶりに会えたときはちかっぱ嬉しくて、愛おしかった。

いつまでも傍におるって、なんや確信みたいなもんがあったとよ。もそげん想いがあったとね?

やけん、今が隣におらんようになって、ちかっぱ違和感があるたい。俺の隣はの隣は俺。そげん構図が俺ん中で出来上がっとった。

そんで、その構図は永遠に変わらんって、勝手に思っとった。まさかこげん早く壊れるとはな。

今でもまだ、信じられんたい。

























が死んでから、俺は電話が怖くなったと。なしてって?の死を聞いたんが電話だったからや。

今でもよく覚えちょる。が震える声で、泣く崩れそうな声で、の死を伝えたときのこと。

全身の力が抜け落ちて、俺はその場に崩れたと。視界がぐるぐる回っとって、目の前が真っ暗になりよって、なんも考えられんかった。

が眠っとる病室ば行ったときも、俺ん頭は全然機能しとらんかったばい。ただ、一つだけわかったのは、の肌の冷たさやった。





カズさんの手は冷たいですね





雪の降る中、俺ん手を握ってそう言っとったの言葉を思い出した。そのとき繋いでどったん手のぬくもりと一緒に。

やけん、この冷たさは異常やった。これでもう、俺んこつ笑えんな。なんて考えとった。





アホ。お前ん方が冷たかよ。





静かにつぶやいて、ん手を握る。そん時、が笑った気がしたと。

、俺ん声は届いとったか?俺の言葉に微笑んでくれたんか?

お前は優しか奴やけん、神さんの目ば盗んでひょっこり降りて来よったかもな。

安心せい、俺にはちゃんと分かったと。の微笑み、見逃さんかったとよ。

やけん、心配せんでもよか。俺んこつはなんも心配せんでよか。

ただ、時々思い出してくれんね。功刀一って男がいたってこつを。

























そっちの世界はどうや?噂には聞いとったと思うけん、その通りか?

が死んでからもう1年。俺は未だに信じられん。

優しか顔に似合わず、よく人ばからかって遊んどったけん、今回もたちの悪か悪戯やなかかって、何度思ったかしれんとよ。

またあのグラウンドで、ただじっと青い芝生見とるんやなかかって。そんで、俺んこつ見つけたら、「冗談ですよ。驚きました?」って、なんの悪びれもなく。

いつもの笑顔でそげんこつ、言ってくれるんやなかかって。

そげなこと、ずっと考えとる。

やけん、実感はわくったい。隣にいないとき、傍にいないとき、からの電話がかかってこんとき、繋ごうとした手が空をつかんだとき。

あぁ、はもうおらんのやって。

それでも信じられんと。が死んだなんて、信じたくもなか。

ダメな男やって笑っとるやろうな。きっと。まったく、その通りたい。

ば守れんで、なにがGKや。愛しい人の命も守れんで。本当、失格やな。

























もうすぐ、日付が変わると。そしたら何の日か、覚えとうね?イベントとかに詳しかのことやけん、きっと知っとるやろうな。

俺たちが始めて出会った日。あのグランドで、試合を見とった日や。

には言わんかったけど、俺はこの日に伝えたか言葉があったと。

何度も言おうとしたばってん、恥ずかしさが邪魔しよって、言えんかった。

、こん手紙もそろそろ終わりにすると。長うなってしもて、悪か。

俺は生きる。の分まで、十分に長生きするけん。の後は追えん。

もし今の後を追ってそっちに行ったら、もうは一生口ば聞いてくれんようになると思うばい。

そげんこつ、死ぬより辛か。

やけん、俺はギリギリまでこっちにおる。そんで、じぃさんになったら、迷わずそっちに行けるように頑張ると。

そしたら、俺を出迎えてくれんね。俺が好いとったその綺麗な声で、俺ん名前を呼んでくれんね。





カズさん





そう呼ぶの声は、絶対に聞き間違えん。どこにおったって、聞き分けられる自信があると。

小さくてよか、どんなに微かでもよか、俺の名前を呼んでくれ。

すぐに会いに行くけん。必ず、会いに行くけん。

それまでしばらく、待っとって欲しか。

そんで、たまに俺を思い出してくれんね。そうしてくれたら、俺は本望たい。


























最後に、さっき言っとった伝えられんかったこつを言う。一回しか言わんけん、よーく聞いて欲しか。

ありがとう。俺ん傍にいてくれて、俺を支えてくれて。

ごめん。守ってあげられんで、ずっと近くにいてやれんで。

そして、愛してる。世界中の誰よりも。

心の底から想っとる。この気持ちに、偽りなんてなか。














愛してる
























きっと今日も晴れるだろう。そうしたら、この手紙と出かけよう。

あの日出会ったグラウンドで、きらきら光る芝生を見つめながら。

この手紙を送り出そう。

天国の君に届くように。











愛しい人の死というのは、とてもつらいものですね。

花月