誕生日











バレンタイン











クリスマス











どのイベントにも











無涯が私を選らぶことは











一度もなかった






















































































涙のクリスマス










































































華武高野球部にクリスマスなんてあるわけない。そんなこと、付き合った当初からわかっていたはずだった。

だけど、現実にその事実を痛感させられるとやっぱり辛い。クリスマスくらい、一緒にいたい。さっき無涯の家に電話したら、部活に行っているとのことだった。

野球部のマネージャーでもなければ、他の部活に入っているわけでもない私はこうして冬休みを家で過ごしている。それはなんとも切ないものだった。

今頃、街ではカップルたちがいちゃついてるんだろうなぁ。私もそんなことしてみたい。無涯と肩を並べてみたい。

でも、それはムリ。野球部の主将である無涯が、私のために部活を休んだら他の部員に示しがつかなくなってしまう。

かといってなんの用事もないのに学校へ行ったら、私ばっかり好きっていうか、一生懸命みたいで悔しかった。

プライドが高いのかな。なんでこう、素直になれないんだろう。私は欲だけ深くて、でも弱い部分は見せたくない。

わがままと言われたらソレまでだけど、これが私の本音だから。その部分もひっくるめて無涯は私を愛してくれている。

だから私は学校には行かない。クリスマスくらい、どうってことないって自分に言い聞かしていた。

2階にある部屋で、クッションを抱きしめ、無涯と撮ったたった1枚の写真を眺める。

恥ずかしがって写真を撮ることが嫌いなのに、私のために我慢してとってくれた。あんまり二人っきりで出かけたことはないけど、それでも一緒にいられるとこんなにも嬉しい。

バイトと部活と勉強と、たくさんのことを抱えている私の彼氏。それでも私を愛してくれている。それだけで充分だよ。

だから我慢しよう。クリスマスなんて、来年もまたある。来年はきっと無涯もプロ入りしてちょっとは楽になるだろうから。

あ、でも無涯が有名になっちゃったら堂々と街なんか歩けないかも。ファンとかもたくさんできたりして、私よりももっといい人とかが出てきちゃうのかな。

そしたら嫌だなぁ。なんて思ってみたり。

でも一番嫌なのは、そんなことしか考えることができない私の思考。なにより、私自身。

無涯がそれでいいなら、私はただその決定に従うだけ。わがままはできるだけ言いたくない。少しでも無涯の支えになりたかった。

邪魔だというなら、こっちから別れる。そのくらいの覚悟は当に出来ていた。

せっかくのクリスマスなのに、こんな暗いこと考えてるのはたぶん私くらいのもんだろう。なんだかむなしい。やめよう、こんな思考回路。停止しちゃえばいいじゃん。

外はもうすぐ日が暮れる。夕焼けが私の気持ちに反して綺麗だ。

華武の練習は夜遅くまで続く。長期休業となればなおさら。だからきっと無涯が家につくのは9時ごろ。二人で出かけるなんて、無理な話だった。

ゆっくり、ゆっくり沈んでいく夕日を見つめていると、目じりに熱いものを感じる。

それは次第にたまっていき、そっと私の頬を伝った。

「む、がいぃ・・!」

私は声をあげて泣いた。クリスマスの日に泣くなんて、ありえないこと。それでも私の涙はとどまることを知らなかった。

今まで思ってきたこと、全部本当。だけど、全部嘘かもしれない。

無涯に会いたい。邪魔しちゃいけないことも、無涯が私より野球のことを大切に思っていることもわかっている。それでも私は、彼に会いたかった。

プロになっても一緒にいてほしい、クリスマスの時は二人で街を歩きたい。これは全部わがまま。私の言っちゃいけないわがまま。

クリスマスには奇跡が起きるなんて、誰が言ったんだろう。私には起きなかったよ。ねぇ、神様。

無涯に会わせてください――

空には夕日と星がどちらとも存在していた。もうすぐ夜になる。まだ部活は終わらない。

と、そのとき。部屋の窓に何かが当たる音を聞いた。涙を拭って、冷えた窓を開けてみる。そして、私は玄関のところにいた人物を見て言葉を失った。

「無涯・・・!!」

「遅くなって悪かった、

どうして無涯がここに・・・。まだ部活している時間でしょ?

走ってきたのか、無涯のはく白い息は乱れていた。そんなに急いで、私に会いに来てくれた。その事実がただ嬉しかった。

「部活は?」

「早めに切り上げてきた。が泣いているような気がしてな」

なんでわかっちゃうかなぁ。無涯に隠し事が通用したことはない。でも、気付いてくれて嬉しいよ。

私は窓を閉めるのも忘れて、急いで下へ下りていった。そして玄関のドアを開けるなり、いきなり無涯に抱きつく。

「寂しい思いをさせて、すまない」

「全然大丈夫。だって無涯は、こうして会いにきてくれたでしょう?」

それだけで充分だよ。嬉しい。嬉しい。こんなにも嬉しいことって他にある?

、メリークリスマス」

そう言って無涯はキスをしてくれた。優しく、甘いとっておきのキス。

クリスマスには奇跡が起きる。それは起きるんじゃなくて、人が起こすもの。

私に舞い降りた奇跡は、無涯が起こしてくれた。

こんなに嬉しいクリスマスは他にない。ありがとう、神様。

そして、ありがとう。無涯。これからもずっと一緒にいてね?