いつもならバカ騒ぎするこの季節
今年はなぜか静かに
1年を振り返ってみて
最初に浮かんだのは
君の顔
大晦日
今日は大晦日。12月の寒い夜、俺は一人で部屋にいた。
友達からはバカ騒ぎの誘いが何回か来たけど、生憎このクソ寒い時期にわざわざ外へ出る趣味はねぇ。一人暮らしのこの部屋で、俺は一人寂しい年越しを迎えようとしている。
「今年も終わりかぁ・・・」
広すぎず狭すぎないこの部屋に俺の声は響き渡った。今振り返ってみると、中学ん時とは違って野球ばっかりやってたような気がする。
そりゃ、サボったりしたけどそれでも高校の練習は厳しいものだった。
年寄りくさくて少し嫌だけど、なんだか慌しい1年が終わりを迎えようとしている。そのことに安心する自分がいた。
今頃街では大騒ぎだろう。それなのにここは静かなもんだ。テレビもつけていないこの部屋で、不意にケータイの着信音が響いた。
小窓をみると、そこには愛しい彼女の名前。の文字。すぐさま通話ボタンを押した。
『芭唐ー?ヤホv』
「ヤホvじゃねぇよ。どうした、こんな夜中に」
『もうすぐ年明けるから、その前に挨拶しようと思って』
「俺が誰かと一緒だとか、考えないわけ?」
『どうせ一人で部屋にいるんでしょ?お見通しだよ』
俺は心の中で小さく舌うちした。なんだ、バレてんのかよ。どうせ俺は寂しい年越し過ごしてるよ。
『というわけで、今からそっち行くから』
「は!?おまっ、今なんて・・・!!」
『じゃ、待っててねーバカランv』
一方的に電話は切れた。おいおいおい、ちょっと待てよ。いきなりすぎるだろいくらなんでも!俺は急いで部屋を片付け始めた。
しばらくして、部屋のインターホンが鳴る。どうせ友達とか大勢連れてくるんだろうと踏んでいた俺は、重たい足取りで玄関のドアを開けた。
「こんばんはー芭唐!」
「え・・・一人?」
「そだよ?いけない?」
「いや、いけなくはないけどよ・・・」
一人、か・・・。まぁたまには彼女と過ごす年越しってのもいいかもしれねぇな。
たくさんコンビニのビニール袋を抱えては部屋へと入ってきた。急いで片付けたから、あんまり綺麗になってないけど、いつもよりはずいぶんマシだ。
いつもは足の踏み場もないからな。それにビールの空き缶とか散乱してたら、も不良とか言って怒りそうだし。
テレビの前の小さなテーブルに座って、買ってきたオレンジジュースを明ける。
小さなグラスに注ぐと二人で乾杯した。カンっという乾いた音が部屋に響く。一気に飲み干し、同時にグラスを置くと、なんか息が合ってるみたいで嬉しくなった。
「危なかったねー芭唐」
「なにが」
「私が来なかったら一人寂しい年越しを過ごしてたとこだよ?感謝してね」
「あぁ、そうだな。ありがと」
素直に感想を述べただけなのに、は目を大きく開いて言葉を失った。俺なんか変なこと言ったか?
「・・・・ど、どうしたの?熱?」
「生憎いたって健康だよ」
「芭唐が私にお礼言うなんて・・・・」
「お前、俺をなんだと思ってんだ?」
ったく、俺だってお礼くらい言うし、と過ごせるから嬉しいとだって思ってるんだからな。
は買ってきたスナック菓子の山に手をつけて、静かに時計を見つめていた。時刻は11時50分。後10分で年が変わる。
「今年もいろいろあったよね」
「そうだな」
「一番印象深いのはなに?」
の質問にしばらく頭を悩ませたあと、俺はジュースを飲みながら言った。
「と出会えたこと」
「・・・・・・・・・・・風邪?」
「なんでだよ」
本当にそう思ったんだからしょうがねぇだろ。
「そういうはどうなんだよ」
「芭唐と出会えたこと」
「一緒じゃねぇか」
「私はいいの。芭唐は意外」
「どういう理屈だ、そりゃ」
「私の理屈」
「あぁそうかい」
まぁとの会話はいつもこんな感じだ。でも、これはこれでけっこう楽しいと思う。なんて話しているうちに残り1分を切り、そして10秒前のカウントダウンが始まった。
「10、9、8、7、6、5・・・・」
が時計を見ながら小さくカウントを口にする。そして0になった瞬間。俺はに口付けた。
「ごちそうさまv」
「な、ななななな!?」
あせりすぎだろ。顔も真っ赤だし。くくっ、おもしれぇ。
「キスから始まる1年ってのも、いいだろ」
「バカ・・・//」
「聞こえねぇな」
それからしばらく俺達は、静かな時を過ごした。あけましておめでとうも、今年もよろしくも言わずに。
だってんなこと言わなくても通じてるから。
今年だけじゃなく、これからずっと。仲良くやっていこうぜ、。