おとしてしまった














大事なもの














心を全部














おとしてしまった








































































おとしもの




































































旅に出たはずだった。自由気ままな一人旅。目的地など決めてなくて、ただひたすら行ったり来たり。

だけど、今目を開ければ、そこは見知らぬ部屋の中。しばらくして、おそらく二段ベッドの下であろうところに寝かされていることに気が付いた。

どこだろう、ここは。私は旅をしていたはずなのに、なんでこんなところで寝ているんだろう。

だめだ。思い出せない。アルツハイマー?でもまだ若いですし、それはちょっと困ります。

「お、気が付いた」

ベッドから顔をのぞかせたのは、見知らぬ顔。あんた誰?と表情に出したまま、何も言わないでいたら、そいつはいびつに向かれた林檎を差し出した。

一瞬毒でも入ってるんじゃないかと思ったけど、お腹もすいていたし食べてみる。甘くておいしい。向き方以外は最高だ。

林檎を食べ終わった後、おそらく部屋の主であろう男のほうを見た。私のことなんかおかまいなしで、テレビをつまんなそうに見ている。そんなにつまんないなら、消せば良いのに。電気代がもったいない。

「ねぇ、あんた誰?」

そうたずねると、男はこっちを向いて悲しそうな顔をした。何よ、その顔。私何かしまして?あ、もしかして、名前を聞くときはまず自分からとかそういう古風な考えの持ち主だったり。

それじゃあ、名乗りますよ。ちょっと違う気もするけど。

「私は。あんたは?」

「三上亮」

やっぱり少し寂しそうな声。なんで?まぁいいや。出会って間もない他人の心境考えてあげられるほど、私の心は広くない。それよりも、まずはこの状況を理解したかった。

旅に出たはずの私が、なんでこんなところにいるか。ここはどこなのか。っていうか、私の荷物は?

「三上くん」

既に私の方を向いている三上という男を、私は再度呼んでみる。なんとなく、しっくりくる名前だと思った。

三上くんは、なんだ?と聞いて、またテレビを見始めた。テレビの中のバカな笑い声が妙に気に食わない。だいたい、人の話を聞くときは人の目をみるもんでしょうが!

まぁいいわ。とりあえず、今はそんなことにかまってる暇ないから、さくっと話を進めましょう。

「ここ、どこ?なんで私がここにいるの?」

聞きたいことを二ついっぺんに聞いてみた。ビクっと三上くんの身体がこわばったかと思うと、手に持っていたリモコンでテレビを消す。

そして、私の方をしっかりと見据えた。そんなに何回も振り返ったり戻ったりして、疲れないのかななんてバカなこと考えてみたけど、それはすぐに頭の中から消える。

三上くんはじっと私を見たまま、質問に答えようともしない。よく見れば整った顔。さぞかしモテるんだろうな。うらやましい。

彼は戸惑っているらしかった。それがなんなのかはわからなかったけど、言いにくそうに下唇を噛んでいる。

ただ理由を言えばいいだけなのに、なんでこの人はこんなにもつらそうな顔をするんだろう。何かやましい理由でもあるのかな。無理やり連れ去ってきたとか、そんな感じの。

あーこの人ならやりそうだ。雰囲気がエロそうだし。おっと、失礼。心の中で謝る。

「拾ったんだよ。この近くで」

「拾った?」

行き倒れでもしてたのかな。うん、大いにありえる。旅っていうのは危険がつきものだから。おおかた、食べ物が底をついて、倒れてたんだろうな。そこを、この人が助けてくれた。

それならこの人命の恩人だ!うわぁ〜なんて失礼なこと思ってたんだ、私は。謝ったほうがいいのかな。あ、でも心の中でのことだから別にいっか。

「そうだったんだ・・・ありがとうございました」

「いや、別に・・・」

丁寧に頭を下げてるのに、三上くんはそっけなく目を逸らした。この人、どこか様子がおかしい。私に対しての態度が不自然だった。

そりゃ、変な人だと自覚はしてるよ?旅してるし、行き倒れてるし。もしかしたら寝てる間に何かしでかしてたとか。うわぁ、そりゃ一番きついかも。

だけど、三上くんの態度はそれとはまた違うもののように感じられた。とても寂しがっているような、悲しんでるような感じがする。

何がそんなに悲しいの?私が行き倒れてることが?そんなにこの人の心は広いのか。見ず知らずの他人の行く末やら、体調やらを心配するほどに。

「それで、ここはどこですか?」

気分を切り替えて、話を進める。とにかくここがどこかわからないと、次に進むべき方向もわからない。

「武蔵森学園サッカー部寮。松葉寮」

サッカー部の寮・・・。ってことは三上くんサッカー部。武蔵森ってことは、東京か。なるほどずいぶん都会に来たもんだ・・・ってあれ?ん?

「私・・・」

?」

三上くんに名前で呼ばれたことにもちょっと驚いたけど、今私の頭の中ではそんなことどうでも良いくらいの問題が起こっていた。

どこから来たんだ?ここに来る前はどこにいた?何をしていた?そもそも、なんで旅なんかしていた?どこから旅を始めた?次はどこに行く予定だった?
























思い出せない――






















ダメ!ここにいたら、なんかおかしくなりそうだ。

旅に出なきゃ。早くここから立ち去らないといけない。早く、一刻も早く。

荷物はどこ?私の荷物。急いで、ほら時間がない。

もうどこから来たのかとか、そんなの関係ない。どこへ行くのかも決めなくていい。とにかくここじゃない場所に行かないと、おかしくなってしまいそう。

私は慌ててベッドから抜け出し、荷物を探し回った。あれがないと、私の旅が始まらないの。お願い、出てきて。また一緒にいろんなところを周りましょう?

「あれ、ない・・・ここにも、どこ行ったの?早くここから、でないと・・・」

、落ち着け!!」

「離して・・私の荷物・・旅、出る・・」

!戻って来いよ!!」

嫌!名前を呼ばないで。私の名前を呼ばないでよ。気が狂いそうなの。早くここから出して。出て行かせてよ。

なぜ私を止めるの?なぜ私のこと知ってる風なの?なんで、どうして、なぜ・・・。

!!!!」

怒鳴り声で、私の身体は動くのを止めた。頭では何も考えられない。ただ身体だけが動き回る。制御不能だった。

三上くんは私の肩をしっかり掴んで、私と目線を合わせた。その目はとても寂しそうで、辛そうで。

何よ。その目は。私が何したの?なんでそんなに哀れんだ目で見るの?

「お前は・・旅なんかしてないんだよ」

「なに、言って・・」

「お前はここの生徒なんだ、。そして俺の彼女だろ?」

「かの、じょ・・・・?」

違う。私は旅をしていたの。ここにも初めて来て、この人にも初めて会った。

なんで?なんでそんなこと言うの。なんで、涙が出るの・・・?

の家族が殺されて」




あぁ、そうか。私は・・・。




「それを偶然見ちまって」




探してたんだ。




「突然、旅に出るって出てったきり」




大事なものを落としてしまったから




「路上で倒れてるのを俺が見つけて」




正常な心。落としてしまった。




「なぁ、戻ってこいよ。・・・」

「もう、戻れない・・・」

だって私は、狂ってしまった。そう、全部思い出したの。

私は旅なんかしてなかった。普通のここの生徒。

何か大事なものを落としてしまって、旅に出た気になっていただけ。

落としてしまった。狂ってしまった

もう、昔には戻れない――

「おとしものは、見つかった・・?」

?」

私は亮の胸に飛び込んで泣いた。

「私はまだ、見つけてないの・・・!」

永遠と泣いていた。降りしきる雨のように、いつまでも。








おとしたものは、あまりにも大きくて








それがなんなのか、私にはよくわからない








だけどそれはきっと








大事なものだった





















意味不明亮ドリーム。本当に意味がわかりませんね;;

花月