誕生日には必ず帰ってくる
そう言って旅立ったあいつは
今もこの約束を
覚えているのだろうか
Present For You
誕生日が間近に迫ったある日の夜。カズは部屋でサッカー雑誌のGK特集を見ていた。
世界中の有名なGKたちのコラムやらテクニック特集やらをみて、いつか自分もと夢をはせていたとき、机の上にあるケータイの着信音が響く。
カズの身近な人たちは、カズがケータイなどめったに使わないことを知っている。連絡があれば別だが、それ以外のことでカズと連絡をとるやつといえば、昭栄かヨシくらいのものだった。
夜のこの時間にかけてくるやつといえば、昭栄か九州選抜の連絡だろう。
雑誌の開いていたページを下に向けて、カズはケータイをとった。画面には、見慣れぬ番号。昭栄でもヨシでもなかった。
少し間をあけたあと、疑いながら通話ボタンを押した。
「はい」
『あ、カズ!?久しぶりー!』
「あ?」
聞き覚えのない声。だが、自分のことを知っているということは間違い電話ではなさそうだ。一瞬新手の嫌がらせかとも思ったが、とりあえずそのまま話を続けた。
『もしかして、覚えてないとか?』
「悪かばってん、名前ば教えてくれんね」
『私だよー!!幼馴染の』
・・・?あぁ!思い出した!小さいころ、よく一緒に遊んでいた近所に住んでいた女の子。
親の都合で早々に引っ越してしまったが、それまではずいぶんたくさん遊んだ、カズの大事な幼馴染だった。
声を聞くなんて何年ぶりだろうか。急に懐かしくなる。長話になることを踏んで、カズは近くの椅子に腰掛けた。
『思い出してくれた?』
「おう。思い出した。久しぶりやな、」
『ホント久しぶりだよね!元気してた?』
「あぁ、元気や。そっちも元気そうやな」
『うん!おかげさまでー』
すっかり九州弁の抜けたに少しだけ寂しさを感じたが、それ以上にまたこうして話せたことの方が嬉しかった。
それにしても、数年経つだけでこんなにも声が変わってしまうのだろうか。が名乗るまで誰だかわからなかったくらいだ。もっとも、幼いころの声なんて、うる覚えでしかないのだけれど。
「そういえば、なして俺んケータイの番号ば知っとーとや?」
『最初家に電話したんだけど、カズがいなかったから、おばさんが教えてくれたの』
「そやったんか。それで、どがんしたと?」
『なにが?』
「なんか用があってかけて来たっちゃろ?」
『そうだった!忘れるとこだった!』
相変わらず少し抜けてる。そういうところは昔と少しも変わっていなかった。思わず笑みがこぼれる。
ちょっと待ってて!としばらく電話の向こうでガサガサとなにやらやっているを待っていると、そのうち少し息の切れた声が返ってきた。
『お待たせ!あのさ、カズ。私たちが昔やってた文通。覚えてる?』
「文通?」
そういえば、そんなこともやっていた。と離れ離れになってから、しばらくは文通や電話で繋がっていたことを思い出す。結局互いに忙しくなって止めてしまったけど、今でも手紙はとってあった。
「あぁ、覚えちょる。それがなした?」
『昨日その中にね、ちょっとおもしろい文章見つけたからさ!』
「おもしろい文章?なんね?」
『ふふーん♪それはあとでのお楽しみ!それでなんだけど、カズの誕生日ってもうすぐだよね?』
カズは部屋にかかっているGKのカレンダーを見る。たしかに後数日で自分の誕生日だった。
「そうや。やけん、それがどがんした?」
『そっち、行くから』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
『そういうわけで!よろしくね!あ、そろそろ切んなきゃ。じゃ、またね〜』
「ちょ、待ちぃ!!・・・・・・・切りよった;」
無機質な機械音を発するケータイを切って置き、カズは椅子の背もたれに寄りかかる。
いきなり来る?なんで、どうやって。いろいろな疑問が頭の中を回っていたが、それよりもカズの心は懐かしさで溢れていた。
昔はよく、公園でサッカーをした。カズが世界一のGKになったら、と結婚するとか、子供らしいことも言っていたような気がする。
我ながら恥ずかしい。子供とは、恐ろしいものだと思った。
しかし、本心はなんだかんだ言っても嬉しい。久しぶりに幼馴染に会えると思えば、胸が躍った。
それからしばらく、カズはケータイの着信履歴を見つめる。そこに残る番号をしっかりメモリに追加して、一人笑みをこぼしていた。
いよいよ、カズの誕生日が明日に迫る。しかし、一向にの現れる気配はない。
普通祝いに来てくれるのなら、1日前とか2日前とかに来るものだろうと思っていたカズは、まさに拍子抜け。上手くだまされてしまったような気さえしてきた。
その日は九州選抜の練習があったので、帰りが遅くなった。少し期待して帰ってみても、来客はないとのこと。
考えてみれば、当然のことだ。東京からここまで来るのにはかなりの時間とお金を消費する。しかも一人旅となれば、親が許すはずもない。
(やけん、が約束を破ったことなんて、一度もなかったばい)
部屋に戻り、荷物を置いてケータイを見つめる。もしかしたら、何か事情があって来られなくなってしまったのかもしれない。そうしたら必ず連絡がくるはずだった。
時計の指す時刻はもう11時50分。もしかしたら、明日来てすぐ帰るのかもしれない。
あぁ、もうすぐ日付が変わる。ここまで起きていたんだから、12時をすぎるまで起きてみようと、カズは時計を見つめた。
そういえば、が引っ越す日は泣いてたなぁ。
日付が変わるまで、後5分。
必ず戻ってくるって、言いよった。
後3分。もうきっと、は来ない。
どんなに遅くなっても、約束だけは守る律儀な奴やった・・。
柄にもなくカウントダウンなんてしてみた。10秒前。9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・。
そして、0になったそのとき。
−ドーン!!−
爆発音。しかもかなり大きい。カズは急いで時計をベッドに投げ捨て、窓を開ける。
そこに広がっていたのは、無数の打ち上げ花火。
冬の花火も綺麗なもんだった。思わず黙って見入ってしまう。
「カズー!!」
懐かしい声に名を呼ばれ、下を見ると、そこにいるのは懐かしい人。。
「お誕生日おめでとー!!カズー!!」
「おう、サンキュ」
こんな夜中に、こんな場所で、打ち上げ花火をあげる奴なんてそういない。それに、昔の約束をここまで律儀に守る奴も。
そういうところは、ちっとも変わっていない。それがただ、嬉しかった。
「今そっち行くけん!」
ジャージ姿で外に出ると、かなり冷え込んでいた。目の前にいるは、寒さで顔を真っ赤にして笑っている。
大人になったは、とても綺麗で、カズは少しだけ顔を赤く染めた。
「久しぶりだね、カズ。HAPPY BIRTHDAY!」
「ありがとな。そや、電話で言っとったおもしろい文章ってなんね?」
「あぁ、あれね!こういうこと・・・」
は勢い良くカズに抱きついた。寒さが一気に吹き飛び、暖かくなる。だが、カズには何がどうなっているのか検討もつかず、ただ黙って抱きしめられていた。
そして、後から恥ずかしさが出てくる。
「な、なんばしよっとか!?」
「カズが言ったんだよ?大きくなったらをもらってやるって」
はカズから離れ、にっこり笑って言った。
「プレゼント。私をもらってくださいな!」
びっくりしたと同時にかなり嬉しかった。この言葉は、カズが知らぬうちに期待していたもの。
もちろん、断る理由など最初からなかった。
「最高のプレゼントやな」
「当然v」
そして二人はキスをした。冷たい冬の暖かな時間。
HAPPY BIRTHDAY カズ――
カズさんお誕生日記念のフリー夢です!カズさんお誕生日おめでとう!