人間とは
危険を回避するために
あらゆる手段を使う生き物である
理 由
「うわっちゃー・・・・やらかしてもーた;」
今流行の関西弁(マイブーム)でぽつりと呟く。
目の前にある時計は9:00を指しており、今の私には最悪な時間。
もしかして日にち違いでは?とカレンダーを確認するも、そこには今日の日付にバッチリ赤丸が記されていた。
今日は祝日。デートの日。待ち合わせ時間はあと30分後。
デートの相手、彼氏の椎名翼は待ち合わせ5分前には必ず来る律儀なお方。
もし私が遅刻でもしようもんなら・・・・。
東京に悪魔襲来の予感。
「とりあえず、急がんと!!!」
ベッドから勢いよく飛び出して、昨日選んでおいた服を着る。
長い黒髪をとかしながら、これからの予定を立てた。
ここから待ち合わせ場所まで急いでも約20分。少なくとも9時10分には家を出ないと・・・って今もう10分やん!
しょうがない、5分くらいなら翼もきっと許してくれるはず。
髪直して、軽くメイクして・・・あ、バックも変えなきゃ。あとは、あとは・・・。
もうよくわかんない!とにかく、朝ごはんは抜かさんと。歯磨きして、顔洗って、お姉ちゃんの自転車借りよう。
「よしゃ、いっちょ上がり!」
髪型が整ったあと、猛スピードで1階へ。
「あれ、。今日は出かけるんじゃなかったの?」
「寝坊!遅刻!つまりヤバイ!」
お姉ちゃんにするっと答えて、バタバタと身支度を整える。
居間の時計はすでに9時15分を少し過ぎたところ。ヤバイ。本気でヤバイ・・・。
「おねーちゃーん!チャリ貸してー!」
「いくらー?」
「金取るんかいな!?」
くっそーこの金の亡者が!お前バイトしてんだろが!しょうがないなぁ・・・。
「300円!」
「もう一声!」
「500円!」
「よし。ハイ、鍵」
500円も払うほど豪華なチャリじゃねぇだろうが!!
もういい!早く行かんと、翼が怒る!
さっき考えてた全てのことをやり終え、颯爽とチャリにまたがってついた時間はなんと・・・9時50分;
当然私の彼は怒っていたわけで・・・。
「遅い!!」
「・・・・すみませんでした」
怖い!怖い!怖いよー!いつもは女の子に間違われるくらいの可愛い顔なのに、それが今は見るも恐ろしい形相に。
可愛いお顔が台無しですよ?なんて言おうもんなら、翼お得意の護身術で投げ飛ばされそうです。
あーどうしよう、なんて言い訳しようか・・・。
「待ち合わせ時間は確かが決めたんだったよね。俺がもっと遅い時間のほうがいいんじゃないかって提案もあっさり断って、自分で9時半に設定しておきながら遅れるってどういうこと?しかも俺が待ち合わせの5分前には来る性格だってわかってるはずだろ?それなのに、なに。今の時間。9時50分!?25分あったら何が出来ると思う?サッカーの試合のハーフタイムより10分も長いんだよ?まさかとは思うけど、寝坊なんてくだらない理由じゃないよね。この俺を25分も待たせたんだからそれに似合う大事件が起きたんだろ?それとも、これは俺に対する嫌がらせと受け取ってもいいわけ!?」
で、でた・・・翼のマシンガントーク。これで何人の人が地の底へ落とされたことやら。
私一応彼女なんだけど、手加減なんて一切無用。思いっきりスイッチ入っちゃってます。
恐ろしや・・・・!!
寝坊だってこと、バレバレじゃん。ここで寝坊なんて言ったら別れ話を持ち出されそうだ。うん、間違いなくそうなるだろうな。
何か言い理由はないかな・・・。うーん・・・。
「それで。なんで遅れたんだ?」
「えっとですね。実はお母さんが急に熱を・・・」
「さっきのお母さんに挨拶されたんだけど?」
う゛っ・・・くっそ〜!なんでこういう時に限って出会うんだよ!?
しかたない。次だ。
「あ〜それは昨日の話だった!今日は、お姉ちゃんのチャリが壊れてて、急に修理を頼まれ・・・」
「へぇ〜じゃあは誰のチャリで来たわけ?」
そうやったー!バリバリお姉ちゃんのチャリやんけ!
私としたことが、不覚!後は、他になんかなかったか・・・。
「あ!急に気分が悪くなちゃって・・」
「その割には顔色抜群にいいね」
ちっ!メイクが裏目に出たか・・・。
ホント、どうしよう!いまさら言うか?寝坊でしたって。
そうだよ。正直になることが一番だって。。
へっ!嘘ついて適当にごまかしとけばいいんだよ。でなきゃ別れるかもしれねぇんだぜ?
私の中の天使と悪魔が言い争ってる。
でも、ちょっぴり悪魔が有利だなぁ。別れたくないがための言い訳だし。
「はい、理由は?」
「ここへ来る途中変な男どもにからまれちゃってて・・・」
「。お前、武道の心得は?」
「・・・・黒帯です;」
あ〜も〜!!なんで武道なんてやってるんやろ!
女の子やったらもっと可愛らしいもん習わせてくれ!おとっつぁん、おかっつぁん!
「え〜っとねぇ・・・。朝起きたら宇宙人がいて、私を連れて行こうとしたから必死に戦って・・・」
「・・・・・それ本気で言ってんの?」
「本気と書いてマジとよむ!」
「はぁ・・・・;」
翼がため息をついて、肩をすくめる。だってしょうがないじゃん。別れたくないのですよ。
わかってあげて、朝が辛い人間のことを・・・;
「わかったわかった。俺の負け。で、本当の理由はなんなの?」
「・・・・・怒んない?」
「怒んないから」
「・・・・・別れたりしない?」
「はぁ?俺がと別れるわけがないだろうが」
「へ?ホント?」
「ホントだよ・・・ってまさかそれが怖くて本当の理由いわなかったのか?」
「うん」
「ほんっと、呆れた。あのなぁ、俺が遅刻したくらいで別れるような小さい男に見えるか?」
「(確かに背は小さいけど)見えない」
「だろ?」
「うん・・・ってなんで殴る?」
「なんとなく」
恐るべし、椎名翼のエスパー能力。そんなにわかりやすいですかね。
「はい、さっさと理由を述べる」
「ね、寝坊を・・・してしまいました・・・」
「やっぱりね。そうだと思ったよ」
ははは〜気付かれてましたか。いやぁ、さすがは彼氏。察しがよろしいことで。
「それじゃ、まずはジェラートが食べたい」
「きっちり奢らさせていただきます」
「わかっていればよろしい」
しっかり手をつないで、目指す場所はおいしいジェラートのお店。
このあとも、しっかりエスコートしてくださいね?
私の愛しい、翼くん。
私たちが付き合い始めた理由は多々あれど
私たちが別れる理由なんて
どこにもないから――
久々の翼夢です。遅刻の理由は、私も考えるのが苦手です;
花月
