一番大事なものが目の前から消えて
俺は必死に探し続けた
だけど、俺はそれを
全て拾えたのだろうか
さがしもの
の両親が殺されたと聞いて、がその現場を偶然見ちまったって聞いて。
俺がの部屋に行ったときには、もうすでにはいなかった。旅に出ると言って。
探して、探して、探しまくって、やっと見つけたは、路上に倒れていた。
大きな荷物を持ったまま、雨の降る道の真ん中で倒れているを見たとき、俺は瞬時に悟ったんだ。
あぁ、俺の知ってるじゃなくなっちまったんだって。
冷たくなった身体を抱きしめるようにして抱え、とりあえず俺の部屋に運んだ。
渋沢には悪いと思ったが、席をはずしてもらうようにして、寝ていると二人っきりになる。
何時間経ってもは目覚めず、雨も止まなかった。起きているときはせめて傍にいてやろうと、ずっとベッドの近くから離れなかったけど、がくれた林檎があるのを思い出して、剥くことにする。
料理全般は渋沢にまかせっきりだったから、包丁を持つのなんて久しぶりだ。できるだけ整えたように切ったつもりだけど、やっぱりいびつな形。
さらに乗せてもう一度ベッドを見ると、うっすら目を開けているがいた。よかった。やっと起きたか。
「お、気が付いた」
できるだけ不安にさせないように、明るい口調で言ったつもりだったが、どこかぎこちない。
しょうがねぇだろ。心配したんだから。探してるときは常に鼓動が早くて、不安だった。
こうしてが見つかったことで、俺がどれだけ安心したことか。こいつは少しも気付いてないんだろうな。
俺の顔をみてるは、こいつ誰?とわかりやすい表情を見せた。予感は的中。こいつは俺のことを覚えていない。ついでにいうと、自分のことも。
林檎を差し出すと、少し戸惑いながらも手に取り食べてる。本質的なところは変わってないな。いつもならここで、「剥き方が汚い」とか皮肉を言って笑うんだろうけど、今はそんなそぶり全く見せない。
とりあえず、身体のほうは大丈夫そうだ。なるべく悟られないように、俺は後ろを向いてテレビをつけた。もちろん見るつもりなんかない。いつものことが気になっている。
「ねぇ、あんた誰?」
あぁ、やっぱりか。覚えてない。全部、忘れちまったんだな。
少ししてから、は自己紹介をした。名前なんて、言われなくてもわかってる。他のことだって全部知ってる。またはじめから、やり直さなきゃいけねぇのか?
「三上亮」
淡白にそう言って、見てないテレビの音量を上げた。声が少し震えているのが、自分でもわかる。は気付いているだろうか。
「三上くん」
の声は普段と変わらないのに、全く別人のように聞こえた。三上くんなんて呼ぶなよ。お前が俺を呼ぶときは、亮だったじゃねぇか。
「なんだ?」
なんで覚えてねぇんだよ。なんで、がこんな目にあわなきゃなんねぇんだよ。
リモコンを持つ手に、力が入った。ギシっとそいつが悲鳴をあげる。
「ここ、どこ?なんで私がここにいるの?」
受け入れたくない現実を、は容赦なくぶつけてくる。思い出させたほうがいい、と心の中で誰かが言った。
俺はテレビを消して、のほうに向き直る。きょとんとした顔。虚ろな目。外見はなのに、心はどこへ行っちまったんだよ。そんな目向けるな。俺の知ってるの目じゃねぇ。
言うべきか、言わざるべきか。俺は下唇を噛む。悔しかった。何もしてやれない無力な自分が悔しくて、たまらなかった。
「拾ったんだよ、この近くで」
「拾った?」
これで思い出してくれるだろうか。いや、たぶんムリだ。こいつの頭の中では、旅に出ていたことになってる。
そう言って、俺の前から姿を消したんだから。なぁ、その旅の途中で落としちまったのか?大切なものを。
は頭を下げて、礼を言った。ありがとう?そんな言葉いらねぇよ。だから思い出してくれ。
目を逸らした俺を、がにらみつける。わかってるよ、言わんとしてることくらい。
「それで、ここはどこですか?」
この質問に答えたら、は帰ってきてくれるだろうか。思い出してくれるだろうか。
そんなことない。ありえないのに、俺はどこかで期待してる。
あんなに辛い思いして、心が壊れないはずないのに、俺はまだ・・。
「武蔵森学園サッカー部寮。松葉寮」
しばらくして、の動きが止まった。その身体は震えだし、大きな目はさらに見開く。
明らかに異常だった。どうした?なにがあったんだ?
「私・・・」
その声は、の声だった。見知らぬ人の声じゃなく、正真正銘の声。
「?」
ためしに名前を呼んでみた。だけど、はまだ震えたまま。
すると、急にベッドから抜け出し、部屋中を探し回る。ぶつぶつとうわ言のように何かを呟きながら、一心不乱に荒らしまわった。
「あれ、ない・・・ここにも、どこ行ったの?早くここから、でないと・・・」
そうか、荷物。また旅に出るつもりなんだ。こいつは。
だけど明らかに様子がおかしい。今までは意識もしっかりしていたのに、まるで狂ってるみたいだった。
「、落ち着け!!」
「離して・・・私の荷物・・・旅、出る・・・」
行かせるかよ。絶対に行かせない。お前の居場所はここなんだ。俺の傍って決まってんだよ。
だから・・・お願いだから・・・。
「!!戻って来いよ!」
「!!!」
俺が怒鳴ると、の動きは止まった。だが、その目は未だに宙をさまよっている。
言ったほうがいい。でないと、は一生戻ってこなくなる。
俺のことも、武蔵森のことも忘れて、またどっか旅に出かけちまう。
そんなの絶対に嫌だった。死んでも、俺はを離さない。
「お前は・・・旅なんかしてないんだよ」
「なに、言って・・」
「お前はここの生徒なんだ、。そして俺の彼女だろ?」
「かの、じょ・・・・」
とたんには泣き出した。ただ静かに、涙を流す。その大きな瞳から零れ落ちる雫を見て、俺は全てを告げた。
「の家族が殺されて、それを偶然見ちまって。突然旅に出るって出てったっきりで、そこを路上で倒れてるのを俺が見つけて・・・」
話が上手くまとまらない。だけど、だいたいのことは伝わったはずだ。
「なぁ、戻ってこいよ。・・・」
またいつもみたいに笑い会おうぜ?そのほうがきっと楽しい。
辛いことなんて、俺がすぐに忘れさせてやるから・・・。
「もう、戻れない・・・」
は泣きながら、静かに言った。
「おとしものは、見つかった・・・?」
「?」
俺がその名を呼ぶと、は胸に飛び込んできて、泣いた。
「私はまだ、見つけてないの・・・!」
そうして、は泣き続けた。ずっと、ずっと、振り続ける雨のように。
さがしていた
ずっと、さがしていたのに
それは俺を
全て拾えた・・?
亮視点です。でも、理解不能;;
花月
