去年はブレスレット
その前はタオル
いつも買ってばかりだから
今年の誕生日は
もっと愛のこもった
特別なものを
あなたに
最高のHAPPYBIRTHDAY
8月20日は愛しい彼氏、一馬の誕生日。
この日のために、何週間も前からプレゼントを考えていた。
大好きな一馬のため、何をあげたら喜んでくれるか一生懸命考えて、考えて。
ようやくたどり着いた結論。それは――
「手作りクッキー?」
「そう!手作りクッキー!」
マックで親友のと一馬の親友、結人くんと英士くんの4人で一馬の誕生日プレゼント談義をしていた。
もちろん主役の一馬はいない。用事があるって、先に帰っちゃったからこれは好都合ということで、緊急集会を開いていたところだ。
一馬がいたら、こんな発表しないしね。
「手作りって、去年はなにあげたんだっけ?」
「去年はブレスレット。だから今年は手作り感あふれるものにしようと思いまして」
「何味?・・・って聞くまでもないか」
「もちろん!りんご味♪」
一馬の好きなものはリンゴ。いや、正確に言うとリンゴジュースなんだけど、リンゴならこの際なんでもいいや。
てなわけで、リンゴ味のクッキーを作ります。
え?料理は得意なのかって?
そんなの!そんなの・・・そんなの・・・・ねぇ?
と、とにかく!最高のプレゼントに一馬が思わず涙してしまうような手作りクッキーを作る!これが私の目標!
目指せ、平野レミ!
――と、意気込んで作ったのはいいけど・・・。
「、あんたいつになったら渡すのよ」
「だ、だって・・・」
一馬はたとえ彼女がいようとも、校内でとてつもない人気。
先輩、後輩、同輩。様々な角度から狙われている、まさに野上が丘中の王子的存在なのだった。
朝一緒に来る時は、女の子のプレゼント攻めにあい、撃沈。
昼休みも教室にすら入れないほどの女の子が詰め掛けていた。
そしてとうとう来てしまった。放課後まで・・・。
「!あんた仮にも彼女なんだからね!そこはしっかり見せ付けてやらないとしまいには一馬くん取られるわよ!?」
「仮にもって・・・そりゃないですぜ、さん。しかも取られるって・・・」
「ホントのことでしょ!それが嫌だったら、さっさ渡して来なさい!」
「うわぁ!?」
に勢いよく背中を押され、まだ収まらない女の子の波の一番後ろに放り込まれた。
にしてもすごい人・・・こんなにたくさんいたのか、うちの学校の女子は。
そんな一馬は、女の子たちの真ん中で顔を赤くして戸惑ってる。
きっと、私のクッキーなんかものともしないほど、いいものもらってるんだろうな。
なんだろう、私。彼女なのに・・・。
なんだか急に切なくなって、私は人ごみを掻き分け、波から抜け出した。その時。
「ちょっと!邪魔よ!」
「きゃっ!!」
不意にぶつかられた肩。落ちていくクッキー。そして、グシャっという鈍い音。
全てがゆっくりに見えた。
「ク、クッキーが・・・っ!」
箱は見事につぶれ、綺麗な包装は足跡で汚れてしまった。
あぁ、もう踏んだり蹴ったりだ。やばい、涙出てきた・・・。
「!」
後から一馬の声がした。きっと、私の姿を見て声をかけたんだろう。
ごめんね、一馬。ダメな彼女で。
私はグシャグシャになった箱を握り締め、精一杯走った。後からはまだ女の子達の黄色い声が響いている。
一馬が私を呼ぶ声も、聞こえない。
走って端って、ようやくたどり着いたのは校舎裏。
もうこのクッキーは渡せない。どうしよう。今から代わりのプレゼントなんて・・・。
「」
突然私の名前を呼ばれ、涙でボロボロになった顔をそのまま後ろに向けた。
そこには、肩で息をする一馬の姿。手にはなにも持っていなかった。
「か、一馬・・・!」
「ったく!人が一生懸命呼んでるのに、逃げることないだろ?」
「だって!」
だって、プレゼントが・・・せっかく用意したプレゼントが・・・。
またいびつな形の箱をぎゅっと握り締める。
そこに、すっと差し伸べられた、手。
「え?」
「くれるんだろ?その箱」
「だ、だけど!中身はもう・・・」
「俺、のために一つもプレゼントもらわないで待ってたのに、今年の俺のプレゼント0にする気か?」
「うそ・・・」
「ホントだって。その証拠に、なにも持ってないだろ?」
両手を広げて笑ってみせる一馬。その笑顔にまた涙腺が緩んだ。
大粒の涙がポロポロとこぼれてくるのを押さえ切れなかった。
「からのプレゼントなら、どんなものでも俺にとって最高のプレゼントだ」
「一馬ぁ・・・っ!」
泣き続ける私を一馬は優しく抱きしめた。
暖かいそのぬくもりに、心を落ち着けながら、私はそっと一馬の頬に口付ける。
「これ、もらってくれますか?」
「もちろん」
差し出した青色の箱。
形はいびつだけど、愛だけはたくさん詰まってる。
誕生日おめでとう、一馬。