夕方から降り出した雨は
止むこともなく
さらに勢いを増し
俺の心と一緒に
冷たく 冷たく
世界を濡らした
さよならの言葉
それは、たった一瞬のことだった。
「別れよう」
の口からその言葉が出たのは、突然のこと。全く想像すらしていなかった俺は、何を言われているのかさっぱりわからなかった。
最初は冗談かと思った。けど、目の前にいるの顔は真剣で、目には涙を浮かべている。
嘘じゃない。これは本当のこと。
は俺に別れを告げているんだ。
「な、なに言ってんだよ、。冗談きついぞ」
「ごめんね、一馬・・・。本当にごめん・・・」
ついにの目から涙がこぼれだす。なんで泣くんだよ。どうして謝るんだよ。
別れを告げる理由がどこにあるっていうんだ?
外は雨。の部屋はとっても沈んだ空気で、俺の心臓はこれ以上ないってほど、バクバクいっていた。
なんで、どうして。その言葉が頭を締め付ける。
俺は何をした?が何をしでかした?俺たちの間に何があった?
自分自身のことなのに、全く訳がわからない。こんなに居心地が悪いのは初めてだ。
「なぁ、。・・・・本気、なのか?」
ひとつ、頷く。
普段通りだったはずだ、なにもかも。
昨日のデートも、今日の朝のメールも。それなのに、なんで突然?
だんだんもどかしくなってきて、意味がわからなくて、イライラしてきて。
俺はついに怒鳴り声をあげてしまった。
「なんなんだよ!意味わかんねぇって!なんで俺たちが別れなきゃいけないんだよ!!?」
「一馬・・・」
「今の今まで普通だっただろ!?それがどうして・・・!!」
「一馬・・・っ!」
大粒の涙をポロポロ流しながら、はただ俺の名を呼ぶだけ。
その声がいつもと違っていて、どこか遠く感じて、さらに不安をかきたてた。
しばらくの沈黙が部屋を包む。
窓に雨が打ちつける音だけが、むなしく響いていた。
「なぁ、・・・理由はなんなんだよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えて、くれよ・・・」
するとは、少しだけ顔を上げて赤い目を俺に向けた。
そのとき、わかったんだ。
俺を見つめていた目じゃない。の目じゃないってことに。
それは、俺と付き合っていた時には見せなかった目。愛しそうに見つめてくれるの目は、もうそこになかった。
「終わり」が頭をよぎる。
「好きな人が、できたの・・・」
頭を何かで打ち付けられたような衝撃が走った。
好きな人ができた?俺以外に・・・?
「名前はいえない。だけど、本当に好きな人なの。だから・・・私と別れて」
「んなこと・・・納得できるかよ・・・どうして俺じゃダメなんだよ!!」
また大きな声をあげた。
そいつよりも俺のほうがを愛してる。世界中の誰よりもを愛してるのに。
なんで俺じゃダメなんだ?どうして・・・どうして・・・っ!!
「今の一馬には、サッカーしか見えてないよ」
「サッカーしか、見えてない?」
そんなことない。確かにサッカーは大事だけど、それと同じくらいだって大切にしてる。
俺にとっては、心の支えなんだ。
「サッカーやってる一馬はすごく好き。大好き。でもね、サッカーを語るときの一馬はもう私が見えてないの」
「俺は・・・」
「自分ではわからないと思う。だけど、私にはわかった。・・・だから、ほかの人、普通の人を好きになったの」
何もいえなかった。俺にとって、サッカーももどちらもすごく大切なもの。
俺じゃ・・・ダメなのか・・?
「ごめんね、一馬・・・さようなら」
何も言わないまま俯いて、俺はの部屋を後にした。
冷たい雨に打たれながら、どこに行くでもなく、フラフラと歩き彷徨う。
ずぶぬれの体が嫌だと思わない。否、気にすることができなかった。
雨と一緒に雫が一粒
まだ雨は続きますね
花月
