その笑顔が見たくて
笑い声が聞きたくて
言葉を伝えたくて
気持ちが膨らんでいく
それは全部
君のため
世界の中心
よく晴れた日の屋上。すっと手を伸ばせば届きそうなほど、透き通った空を俺は眺めていた。
がらにもなく、非現実的なこと考えたあと、バカらしいと頭を振る。それと同時になら考えそうだななんて笑ってみたり。
今日は2学期の終業式。あんなかったるい式典になんて興味もないから、こうして屋上でサボってる。早く終わって部活がしたい。なんなら今すぐにでも校庭で柾輝たちとサッカーやりたいけど、さすがにそれはキューピーたちの目が気になるからやらなかった。
直樹たちは校舎裏でサボってると思う。あいつらが式典に出るなんてことははじめから考えに入れてない。屋上にいないってことは、校舎裏だろう。
「暇・・・」
独り言を呟いて、また青い空を見上げる。雲ひとつない晴天の空。まるで吸い込まれそうなほど、綺麗で言葉を失った。
その思考はさび付いた屋上のドアが開く音で途切れる。貯水タンクのところにいた俺ははしごの上からそっと入ってきた相手を見下げる。
「」
その姿はまさに彼女である。俺と違って優等生と先生から期待されてる奴がここにいるってことは、もう終業式終わったのか。
にしちゃずいぶん早いな。まぁいいか。どっちにしろしばらくはここにいることになりそうだし。
「翼!やっぱりここにいた」
「探してたの?」
「うん、さっきからね」
「終業式は?」
「へへっ、サボっちゃったv」
照れたように笑って俺と同じ貯水タンクのところへと登ってくる。冷たい風が吹くたびに、の長い髪を揺らした。
はしごを登りきって、俺の隣に腰を下ろすと間髪入れずに上を見上げた。
俺と同じ行動。なんだか少しだけ嬉しくなる。思考が一緒のような気がして。
「綺麗だねー・・・」
「そう?別に普通じゃない?」
さっきまで空の青さに感動してた奴の台詞とは言いがたい。だけど、の前の俺はこんな感じ。空を見てたなんて言ったら、きっとは笑うだろうから。
照れ隠し?ちょっと違うかもしれないけど、まぁそんな感じ。照れてはいないけど、似たようなもんだ。
俺もと一緒に空を見上げた。やっぱり綺麗だ。青く澄んでいて、青春真っ只中の俺達には似合っている空。
しばらく二人で上を見上げていた。お互い何も言わないまま、静かな時間が屋上に流れる。たまにはこういうデートもいいだろ。
先に口を切ったのはだった。
「翼はいつも、こんな景色を見てるの?」
こんな景色?よく意味がわからなかったけど、頭の回転が速い俺はすぐに答えを見つけ出す。
が言いたいのは、きっとサボってるときのこと。よく屋上でサボってるのを知ってるから。
「いつもじゃないよ。今日の空は特別綺麗」
「私も今度、屋上に誘ってね」
「来てどうすんだ?なんもしないけど」
「ただ傍にいて、空見てるだけでいいよ」
そう言って笑うの顔に、思わず赤くなる。と出会う前まではこんなこと考えられなかったのに、いつから俺はこんなに丸くなったんだろう。
の一挙一動が気になる。それで自分の心が軽くなったり、重くなったり、安心したり。ずっと一緒にいたいと思う。
別に何をするわけでもなく、ただこうして隣にいるだけで嬉しい。サッカーやってるときも幸せだけど、はまた違った幸せを与えてくれる。
不思議な存在。それが恋人だということに気付かないほど、俺もバカじゃないから。
一人で見る空より、二人で見た空のほうが青いのは本当だ。現に今も、さっきより青く広く感じる。
「俺も二人のほうがいい」
「じゃあ誘ってくれる?」
「当たり前。それよりなんで探してたの?」
「今日、終業式だから」
さすがの俺も、この言葉の意味はわからなかった。終業式と俺を探す理由となんの関係があるんだ?
はまだ空を見てる。俺はの横顔を見て、なんだか一方通行な気がして少し機嫌を損なった。
「、どういう意味?」
俺の言葉で俺のほうを向かせて、やっと落ち着く。の目が好きだ。全部、俺を見てればいい。
「だってホラ、これから冬休みでしょ?」
「だから?」
「翼と毎日、会えなくなるじゃん・・・・」
寂しそうに、切なそうに、は言った。そうか、そういうことね。空に嫉妬してた自分を恥ずかしく思った。
はこんなにも俺を愛してくれてるのに。まだ足りないなんて、ガキみたいだ。
「なら毎日会いにいくよ」
「ホント!?」
「俺が嘘言ったことある?」
「ない!!」
嬉しそうに微笑んで、はまた上を見上げる。その横顔はどこまでも純粋で、可愛かった。
が毎日会いたいというのなら、毎日会いに行くよ。が空を見たいというなら、屋上で待ってる。
を中心にして俺の世界は回ってる。ずっとずっと、永遠にそれは変わらない。
俺も笑って空を見上げる。
遠くのほうでチャイムが聞こえた。
偽翼炸裂。最近屋上とか多いなぁ。。。
花月
