パチパチパチ











儚く燃えるその命は










夜の闇に負けることなく











精一杯











輝き続けた












































































線香花火
















































































一馬、と呼ぶ声がしたののは俺が部屋でサッカー雑誌を読み始めた直後。

一瞬ビクっとしてから後ろを振り返ると、そこには愛しい彼女であるの姿があった。



「おまっ!なんでここにいんだ!?」

「お母さんに入れてもらったの。それよりほら、みて!」



まぁが家に来るのは初めてじゃないし、母親とも顔なじみだしな。

不思議なことじゃないけど。

電話かメールくらい入れたってバチは当たらないと思うぞ?

まだ心臓がドキドキしているのを隠しながら、俺はが突き出したビニール袋を見た。

大手コンビニチェーンの袋からは『花火』の文字が見え隠れしている。

袋が少し膨らんでいるところをみると、かなりの量だということがわかった。



「花火?」

「そう!花火!一緒にやろ?」



にっこりと笑うはいつも以上に可愛くて、俺は少しだけ頬を赤らめた。

花火ったって今は6月。ちょっと季節はずれじゃないか?

まぁいっか。がやりたいって言ってるんだし。

断る理由は一つもなかった。



「どこでやるんだ?」

「近くの公園。早くいこ!」



に急かされ、ようやくイスから立ち上がる。

そして連れてこられた場所はいつも行くなじみの小さな公園。

満月が綺麗に輝いていた。



「ずいぶんたくさん買ったな」

「そう?」



せっせと花火の準備を進めるを後ろで眺めながら、買ってきた花火を手に取る。

中を見ると、打ち上げ花火以外ほぼ全ての花火が揃っていた。

こんなにやる時間あるのか?と疑問を投げかければ、全部やるわけないじゃんという答えが帰ってきた。



「さってと!準備完了」

「なにからやる?」

「もちろん、こ・れv」



が取り出したのは線香花火。

いや、それ普通最後じゃないのか?

別に順番なんて決まってないけど、なんとなく線香花火は最後っていうイメージがある。

俺の思考とは裏腹にはさっさと線香花火の袋を開けた。

持ってきた100円ライターでさっそく火をつければ、あたりにほんのりとしたあかりが灯る。

綺麗だ、と純粋に思った。



「綺麗だねぇ」

「そうだな」



一馬もやりなよ。

が線香花火を差し出してくる。

パチパチと火花を散らしている花火を見つめているの隣に座って、俺も火をつければ、やはり綺麗な火花が散った。

儚くも美しい。そんな言葉がぴったりだった。



「ねぇ、一馬」

「ん?」

「線香花火ってさ、なんでこんなにきれいだか知ってる?」

「そりゃ、花火だからだろ?」

「そうじゃなくて!もう、ロマンがないんだから」

「じゃあなんだ?」

「短い命だからだよ」



花火から目を離し、俺のほうを見て笑いかける

花火のあかりに照らされて、より一層綺麗に見えた。



「花火は火が消えたら終わり。だからこんなに綺麗なんだよ」

「そういうもんか?」

「花火に限らずね、短い命っていうのはとっても綺麗」



ポトっと火のカタマリが落ち、花火が消える。

確かに、そうかもしれないな。

線香花火がずっとパチパチなってても綺麗だとは思わない。

の言うことは案外正しいのかもしれなかった。



「でもさ。短くなくても美しいものってのもあるだろ?」

「例えば?」



「え?」



ホントにそう思うんだ。



の命は短くない。けど、こんなに綺麗だ」



花火が消えて、二人を照らすのは月明かりのみ。

それでもの顔が真っ赤になったのを、俺は見逃さなかった。


「ば、バカ!」



照れ隠しにもう1本の花火に火をつける。

そのしぐささえ可愛く思えた。



「一馬も、すごく綺麗だよ」



俺のほうを見ずに、そう言ったの顔をまだ赤くて。

それが花火に照らされたものなのか、照れているのかわからなかったけど。

それでもいいと思った。



「サンキュ」

「ホントのことだからいいのー」



また、火のカタマリが落ちる。

同時に俺たちは見つめあい、優しいキスをした。

月明かりに照らされたの顔はやっぱり綺麗で。

俺の言ってることは間違いじゃないと確信できた。



「夏になったら、また花火やろうな」

「うん!」



笑顔で言ったの言葉に俺も笑みをこぼす。

そしてもう一度、キスをした。











初夏。夏も間近な夜の出来事。
























早くも花火やってた人を見たので

花月