君の歌う旋律は





どこまでも綺麗で 繊細で





不思議と心が落ち着いた


































































旋律〜For Your Song〜
































































放課後。やわらかい西日を顔に浴びて、私は目を覚ます。

しまった。寝過ごした。

いったいいつから寝ていたんだろう。周りにはもう誰もいない。起こしてくれたっていいのに。

鏡を見れば、頬にはすっかり机の上にあったプリントの跡がついていた。

「これじゃあ外に出らんないな〜・・・」

まだ完全に脳が起きていない私は、とりあえずぼぉっと教室に居座ることにした。

窓から射すオレンジ色の光は、平凡な教師をなんだか綺麗に見せる。

机も黒板も教卓も。何もかもが特別に見えた。

あぁ、なんだかとっても――



















































いいきもち






















































さようなら といえば その心 つかめたのかな








夢を探す 旅人は 月の下で 倒れてく







私は貴方を 旅人を







上から見守る 月でありたい







そっと 手を 差し伸べる






優しい 水の 女神でありたい










































ガラガラという、立て付けの悪いドアの音で私の歌は途切れた。

まったく、人がせっかく気持ちよく歌ってるのに・・・。

後ろ側のドアには小柄な少年が立っている。少しクセのある茶髪を西日に照らされたその少年は、とても美しい顔立ちをしていた。

見たことがあるような、ないような。基本的にクラスメイトには興味がないから、未だに人の名前と顔を覚えていない。

誰だったか?

「そんな歌、まさかお前が歌ってるとはね。

私の名前を知ってるってことは、やっぱりクラスメイトか。こんな人、いたっけ?

「お前・・・まさか俺のこと知らないわけじゃないよな」

「え、いや、知って・・・ないです」

少年はこめかみに青筋を立てながら腕を組む。怒らせた・・・かな。

「一応お前の隣の席の奴なんだけど?しかも俺が転校してきてからずっと同じクラスだ。それを知らない?でも、お前がいつもボーっとしてる所為で俺にどれだけ迷惑がかかってるのかくらいは知ってるよな?同じ班の班長だから授業中のプリントとか全部俺が机の中に入れてやってるし、お前がやるべき仕事を全て俺がやってるんだもんな。もちろん俺の名前と顔は知らなくてもそれを感謝する心くらいは持ってるよね?」

す、すごい・・・。ただ知らないって言っただけでこの反論は・・・。ずいぶんとすごい人がいたもんだ。さすがにちょっとだけ残ってた眠気も完全に覚めたよ。

「ご、ごめんなさい・・・;」

冷や汗をかきながら謝ると、少年はふっと短く息を吐いて後ろにあるロッカーへと足を運んだ。

サッカーのユニフォームらしきものを着ていた彼の背中には「SHIINA」と書いてあった。

ふぅん、しいな君って言うんだ。椎奈かな椎名かな。

まぁ、どっちでもいいや。

はなんでまだ残ってんの?」

「まぁ、なんとなく。寝過ごしたから」

「寝過ごした!?お前まさか、2時間目から今までずっと寝てたのか!?」

「わかんないけど・・・たぶん、そう」

椎名くんは盛大なため息をついて肩を落とす。どうやら呆れてるみたいだ。まぁ、当然のことだけど。

「で?」

「で?って?」

「歌だよ、歌!起きたんならなんでさっさと帰らないわけ?何をのん気に歌なんか歌ってんのさ!」

「別に、ただなんとなく」

「あ〜もう!!!!」

私の何がこんなに彼をイライラさせてるのか知らないけど、私の行動一つ一つにあまり良い印象を持ってないみたいだ。

なんで?ただ歌ってただけだけど。

って、限りなく自由に生きてるよな」

「そう?なんで?」

「なんでって・・・特に理由はないけどね」

「椎名くんは自由じゃないの?」

「お前よりは自由じゃないよ」

一応キャプテンだしな、とつぶやく。キャプテンなんだ。言われてみればキャプテンっぽい。

私は別に自由に生きてるわけじゃない。ただ、素直に生きてるだけ。

歌いたいときに歌って、寝たいときに寝て。

自然に身を任せてるだけ。

これは、誰だってできることだと思うんだよね。ここで私と話してる椎名くんでも。

だから――























































捕らわれるな 捕らえるな









流されるな 留まるな









水の声を聞き 風と戯れ









草木と語り 花を愛でる









つまり時とは 愛することなんだ






















































椎名君は再び歌いだした私の歌を、今度は黙って聞いていた。

ロッカーに腰掛けて、目をつぶって。ただただ、静かに。

二人の間に流れてる同じ空間には、綺麗な旋律だけが響いていた。

「くっくっく・・・!変な奴だな、お前」

歌が終わると、椎名君は突然笑い出した。さっきまで怒ってたと思えば今度は急に笑い出すし、椎名君ってよく分からない。

「なんかした?私」

「いーや、別に。ホント、自由な奴だよな」

「何で?」

「突然歌いだしたから」

あ〜可笑しかった、と椎名君は目じりにたまった涙をぬぐう。そんなにおもしろかったかな?

「ホラ、ボーっとしてないで行くぞ」

「え、どこに!?」

「いいもん聞かせてもらったからな。飲みものでも奢ってやるよ」

「い、いいよ!悪いし。椎名くん、部活の途中でしょ?」

「部活なんてとっくに終わったよ。それと椎名君じゃなくて、翼な。わかったら早く来い」

なんて強引なんだ、この人は。

あんまりにも行動の遅い私に見かねて、椎名く・・・じゃなかった翼は、私の手を引っ張った。

「俺が奢ってやるなんてめったにないんだから、ありがたく思えよ?

「な、なんで私の名前・・・」

「・・・・・鈍感;」

誰が鈍感!?なに?どういうこと?

「つ、翼!待ってよ!」

西日の射す廊下を私は転びそうになりながら歩いていった。

右手に伝わるぬくもりをなんだか不思議に感じた。

暖かくて、優しくて、ほんの少し大きくて。

だんだん居心地がよくなって、私はまた歌いだす。

ホント、自由な奴って翼がつぶやいたのが聞こえてきた。

私の歌声はどこまでも響いていた。





























ほら 月が泣いている











きっと 太陽が泣かしたんだ













泣かないで 泣かないで 
















私の気持ちを あげるから















泣かないで 泣かないで

















私が傍に いてあげるから














初、翼夢でございます。

コレは果たしてドリームなんだろうか。そしてコレは翼くんなんだろうか・・・?

私的に、三上さんが入ってるような気が・・・。

お待たせして申しわけありませんでした。精進します。

花月