あいつは昔から強い











卒業式ごときじゃ涙も見せない











けど、それでも











あいつがもし泣いていたら













俺が一番初めに慰めてやる




















































































卒業式


















































































一般的には卒業シーズン。中学校から慣れ親しんだ友達と別々の高校になってしまう、とても悲しい季節。

でもここ、武蔵森学園ではそんなことない。幼稚園から大学までエスカレーター式。一応中等部でも卒業式はあるけど、ただ高等部に上がるだけのこと。別になんにも変わらない。

変わるとしたら、高等部から新しい生徒が増えるとか、クラス替えがあることくらい。大体顔ぶれは同じ。

そう、あいつともまた同じ学校。



「何ひとりで黄昏てんだよ、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・亮」

「んだよ、その間」



名残惜しそうに最後の教室に居座ってたわけじゃない。ただ単に、夕方の教室が好きだっただけ。そんなところに、三上亮がやってきた。

亮とは幼稚園から一緒。武蔵森に入ったのは中等部からだけど、それでも一緒の中学に進んだことには変わりない。

幼馴染といえば聞こえはいいけど、奴も私もただの腐れ縁。私はそう思っている。たぶん亮も。



「小学校でも泣かなかったけど、まさかここでも泣かないとはな。おかげで賭けに負けちまったじゃねぇか」

「なんの賭けよ。人の勝手でしょ、そういう性格なの」

「女子が泣いてこその卒業式だろうが。ホント、可愛げのない奴」

「お互い様よ、そんなの」



これが普通の公立中学ならたぶん泣いてたと思う。でも、みんな高等部に上がるし、さっきも言ったけど全くといっていいほど何も変わらない。

だから感傷的になれないのよ。確かにお世話になった先生と別れるのは嫌だけど、別に友達と別れるわけじゃないからどうだっていい。

元からさっぱりした性格だし、この状況でどうやって泣けと?

亮はふっと短いため息をついて、私の横に座った。こうしてみると恋人同士に見えそう・・・って何考えてんだ、私は。

窓の外から射す夕日がまぶしい。でもそれ以上に美しかった。この風景が好き。誰もいない教室ほどいい場所はない。

それも今日でこの教室とはお別れ。最後まで残っていることが、私なりのお別れのつもりだった。



「あーあ、つまんねぇ」

「だったら早く帰りなよ。ここはもっとつまんないでしょうが」

「違ぇよ。お前だ、お前!」



私?私のどこがつまんないって?

しばらく亮の横顔を見つめてみる。あぁ、もうすぐ高校生かぁ。時の流れっていうのはバカにできない。幼稚園のころは、あんなに幼かった亮が今じゃこんなに男らしくなっちゃって。ファンクラブまでできる始末。

ホント、人生なにがあるかわからないもんよね。



「なんで俺こんな奴が・・・」

「?だからなによ。はっきりしないわね。しまいにはキレるわよ」



キっと睨むと、亮は少し怖気づいて手を前に出して軽く振った。昔からそう。亮は睨まれるのが嫌い、というか睨むと弱くなる。

私だけが知ってる弱点。だからいつも私のほうが一歩前に出てる。



、ちょっとぐらい泣いてみねぇ?」

「・・・なんで?」

「なんでって・・・」



泣かないと俺のプランが・・・とか亮は一人でブツブツ呟いている。

そんなこと言われたって、私は女優じゃない。悲しくもないのに泣けるほど器用な人じゃなかった。

だいたい、私が泣いてなんの得があるの?男の人って普通泣かれるの嫌がらない?

なんかだんだんイライラしてきた。はっきりしないのは大嫌い。



「亮。あと10秒以内に私が泣かなきゃいけない理由を答えないと、幼稚園時代からの恥ずかしい過去を高等部でみんなにぶちまけるわよ」

「げっ・・!」

「5・・・4・・・3・・・――」

「10秒じゃないのかよ!?」

「いいから早く言え」

「わ、わーったよ。言えばいいんだろ、言えば・・・」



諦めたかのように彼は深くため息をついて、私の目を真剣に見つめる。

少しタレた目。昔から見てきたけど、改めて見つめられるとドキドキする。ファンクラブができるのも頷ける気がした。



「泣いてたら・・慰めてやろうと・・思って・・」



途切れ途切れに亮から発せられた言葉は、私にとってとても意外なものだった。

慰める?私を?

亮とは昔からの腐れ縁で、加えて喧嘩友達で・・・そんな奴から慰めるなんて言葉が出てくるとは。



「なんで・・・慰めてくれるの?」

「そりゃなんでってお前・・んなの決まってんだろうが」



決まってないし、理解できないし。生憎頭はいいけど、鈍感なのよ私は。



「全くといっていいほど理解できないんですけど」

「あーもー!!つまり俺は・・!!」

「俺は?」










が好きなんだよ!!!」










私が・・・好き!?

なんで!?だってそんなこと今まで一度も言ってなかったじゃない!そりゃ、私もちょっとはいいなって思ってたけど、このタイミングで言いますか!?



「マ、マジ・・ですか?」

「こんな冗談言わないことくらいわかってんだろうが」

「確かに・・・」

「で」

「でって?」

「返事だよ!返事!まさかシカトする気じゃねぇだろうな!?」



あ、返事か・・。返事。そんなの決まりきってんじゃん。

ねぇ亮。私卒業式にはあんまりいいイメージもってなかったんだけど、今日からその考え方改めるよ。

結構いい日なんだね、卒業式って。



「これからもよろしくね、亮」



亮の顔が赤くなったのは窓から射す夕日の所為?それとも・・・・。