神様、どうかお願いします
この世からテストというものを
永遠に消してください・・・
国語・64点。数学・15点
「この間やった小テストを返すぞー相場ー」
そう。全てはこの言葉から始まった。自称永遠の30代(いや、どうせなら20代とかにしとけよ)数学担当教師(あの頭はきっとズラだ)は先週やった抜き打ちテストを満面の笑みでつき返そうとしている。
私の人生で一番嫌いなもの。それは数学。あと、化学も嫌いだけどとりあえず数学。もちろん、嫌いなものを克服しようと努力するなんてことするわけでも、小テストだからって勉強するなんてこと微塵もしなかった。
頭が悪い=勉強しない=テストの点が悪い。立派な方程式の出来上がりですね。
「ー!早く来ないと点数読み上げるぞー」
「や、止めてください!今行きます!!」
50m10秒台の私でも、このときばかりはきっと8秒台での見事な走りを見せた。やる前から捨ててたテストの点を読み上げようとするなんて、あんたは鬼か!?このピーターパン症候群が!(お前本当は50代だろうが!)
なんとかテストを死守して、席に着く。落ち着け、私。世の中には奇跡というものがあるのを忘れたか。きっと起きるさ。奇跡は起こすもんだから。
お願い神様!どうか奇跡を・・・・!
静かにテストを開いて、おそるおそる見てみる・・・奇跡って起きないんだね。
「ぬぉおおぉおぉ!!!」
一番後ろの席で悪夢の紙をぐしゃぐしゃに握りつぶす。こんなの他人に見られたらひとたまりもない!早く捨てたい。いや、いっそ燃やしたい!
だけど神様ってやつは、努力をしない人間にとことん厳しいらしかった。
「・・・これ落ち・・・なんだよこの点数」
「か、一馬!?」
隣には怪訝な顔をして私のテスト用紙を見つめる一馬。一馬とは私の彼氏であり、クラス公認の仲。よりにもよって一番見られたくない人にぃい!!
手の中を見れば、私が握りつぶしていたのは問題が書いてあるほうの紙で、回答のほうは床に落ちていたらしい。なんと無様な。
「そうだよ。その点数だよ。悪い?ゴメンね、点数低くて。そりゃー一馬は頭いいですよー」
「何ひねくれてんだよ。俺だってそこまでいいわけじゃ・・・」
「国語の中間、90点のやつに言われたくない」
「あれはたまたま調子が良かっただけだって」
「私も調子良かったけどピーー点だったし」
「・・・・・・」
けっ!どうせ私はバカさ。そうだよ、あほだよ。バカですよ。それが何か?
だいたい一馬!将来サッカー選手になるやつがそんなに頭よくてどうする!どうせ使わないんだったらその頭脳を私にわけなさい。ホント、お願いだから分けてください。頼みます。
悪夢の時間が終わって、一馬と歩く帰り道。私はまだテストを見ながらうめいていた。
どうしよっかなぁ。その点数だとお母さんは怒り爆発。お父さんは散々コケにした後笑い転げる。お姉ちゃんは軽蔑の目で私を見る。
どれをとってもひどい家族だ・・。もう捨てようか。だけどそれは地球の環境に良くないし(こんな点数のテストならなおさら)私の良心が許してくれない。
「、そんなにテスト見てたら穴開くぞ?」
「いっそ開いてくれたらどれだけ捨てる決心がつくか」
「テストの点ぐらい、どうってことないじゃん」
「それは平均点以上のやつがいう台詞なんですー」
「はぁ;」
ため息をついた一馬は急に立ち止まって、しゃがみこんだ。私も後ろを振り返って同じ位置にしゃがんでみる。
「なにしてんの?」
「ほら」
一馬が手渡したのは、自分のテスト用紙。だけど氏名欄には『真田一馬』ではなく『』の文字があった。どういうこと?
そして次は、私の手の中にあるテスト用紙を受け取り、鞄の中にしまう。だから、なんでだって。どういうこと?私にもわかるように説明して!
「WHAT?」
「違う、この場合はWHYだろ・・・ってまぁいいや。つまり、俺とのテストを交換しちまえば、怒られないだろ。一応平均点以上だし」
「一馬・・・」
「・・・」
腕を広げた一馬の胸に飛び込む。そして一言こう言った。
「りんごジュース?それともたまごサンド?」
「今回はたまごサンド。手作りで」
はいはい、どうせこんなことだろうと思いましたよ。ギブミーマネー。違う、テイクアウト?これも違う。うーんと、なんだっけ?まぁいいや。(本当はギブアンドテイク)
とにかく、世の中そんなもん。まぁ、愛しい一馬のためならば、精一杯たまごサンドを作ってきますよ。その代わり、そのテストはいただきます。
ありがとう、一馬。もう大好き!今なら林檎入りのたまごサンドが作れる気がする。
「あ、だけど一馬はそのテスト親に見せないの?」
「見せない」
「なんで」
「その前に処分すっから」
「処分?どうやって」
にやっと笑って一馬はまたしゃがみこむ。そしてふでばこから定規を取り出すと、道端に穴を掘り始めた。
あーもーだいたい予想はつくよ。そのテスト、ちゃんと栄養になるかな。
テストを土に返して、私たちは合掌したあと、またいつもの帰り道を行く。
手をつないで歩いていると、後ろからテストの怨念が聞こえてきそう。怖い。ゴメンねテスト。だけど私のために我慢してやって。
「あのテスト、今晩夢に出てくるかも」
「そんなわけ・・・あるかも」
「どうしよう」
「次から勉強すればいいだけ」
「教えてくれるの?」
「あたりまえだろ」
「へへっ」
「なに笑ってんだ?」
「優しいなぁと思って」
「//////」
真っ赤になってそっぽを向く一馬。その姿がなんとも愛しくて、私もまた笑顔になる。
一馬と一緒にいられる時間が増えるなら
テストもあんがい悪くない
偽一馬。管理人は、テストが大嫌いです。この世から消えて欲しいほど大嫌いです。
花月
