ふわりと浮かぶは
君が飛ばす
綺麗なシャボン玉
しゃぼん玉
東京選抜の練習帰り。いつもみたいに3人でマックに寄って夕食を済ませた後、一人電車に乗って家路に着く。
俺の家は住宅街。駅からの帰り道には、当然公園もある。昼間は子供達の声が響く公園の近くを歩いていると、目の前に丸いものがいくつも浮かんでいた。
「シャボン玉・・・?」
最初は幻覚かと思ったけど、確かにそれはシャボン玉。なんでこの時間にシャボン玉なんか浮かんでんだ?
あたりを見回してみると、どうやら公園の中かららしい。もう10時すぎ。こんな時間に子供が遊んでいるわけでもあるまいし、いったい誰が・・・。
思い切って中に入っていく。シャボン玉を頼りにどんどん奥へ入っていくと、そこには見慣れたダサイ制服。間違いなく野上が丘中のやつだった。
すると、突然シャボン玉が止んだ。どうやら向こうも俺に気付いたらしい。知り合い?それともたまたまか?しばらくその場から動けない。
「一馬?」
え、知り合い!?
ベンチの主はパタパタとこっちへ近づいてくる。そしてその姿が街灯に照らされると、俺もそいつの名前を叫んだ。
「!?」
彼女の名前は。紛れもない、俺の愛しい彼女だった。
「どうしたの?こんなところで」
「そりゃこっちの台詞だろ。こんな時間にシャボン玉なんか飛ばしてなにやってんだ?」
「散歩のついで。一馬も一緒にどう?」
シャボン玉セットを見せつけ、はにっこりと笑う。その笑顔に赤くなりながら俺はの誘いにのって、ベンチへ座った。
暗い中のシャボン玉はどこか怖い雰囲気があった。だけどなぜか、が飛ばしていると考えればそのイメージも吹き飛ぶ。
一馬もやってみる?とシャボン玉セットを差し出され、中2になってまでシャボン玉かよという心の中の抵抗にも負け、そっと透明な玉を飛ばす。
勢いよく飛び出したシャボン玉は次第にフワフワと夜空を舞った。
それと同時に俺の心も、すっと軽くなる気がした。
「なんか、すっきりしない?こういうの」
「あぁ、なんかな」
ももやもやしたことがあったんだろうか。けど、その横顔を見るかぎりはそんなこと微塵も感じられない。
シャボン玉ってのは、意外とバカに出来ないもんだった。けっこう楽しいし、なぜかすっきりする。
俺はその後も何回か、夜空にシャボン玉を飛ばし続けた。
「ぷっ!あははは!!」
いきなりが笑い出す。なんだよ、突然。俺なんかしたか?
「か、一馬!おもしろい!」
「な、なにがだよ」
「夢中になってんの!最初は恥ずかしがってたくせに・・・!」
バレてた。最初に恥ずかしがってたの。いや、恥ずかしがってたんじゃなくて抵抗があったんだよ。
だって俺達中2だぜ?それがシャボン玉って。
だいたい、だって夢中だったじゃねぇかよ。あんなにたくさん、しかもこんな時間にシャボン玉飛ばしてんだから。
「夢中になんかなってねぇよ!それより、なんではこんなとこでシャボン玉吹いてんだ?」
「偶然お菓子屋さんで見つけたから、やってみようと思って。だけど、昼間じゃありきたりだから夜に飛ばしてみました」
そんな変な工夫いらねぇだろ。ってか今何時か考えろよ!何かあったらどうすんだ。(←心配性)
、俺が来なかったらいつまで吹いてたつもりだったんだろう。
すっげー眼が離せないやつ;
「もう遅いし、そろそろ帰んねぇか?」
「そうだね。それじゃ、バイバイ一馬」
「ちょ、ちょっと待て!送ってく!」
「あ、ホント?ありがとv」
こんな夜道を一人で歩かせられるか!さらわれる。確実に。
シャボン玉を飛ばしながら夜の住宅街を歩き出す。
隣からは透明の綺麗なシャボン玉が飛んできて、どこか幻想的な雰囲気だった。
「シャボン玉ってさ。よく見ると、いろんな色がぐるぐる回ってるんだよ」
「知ってるよ。そんくらい」
「知らなかったくせに〜」
「し、知ってたって!」←図星
「なんかさ、それって。不思議だよね」
「何が」
「遠くから見れば透明なのに、近くで見るといろんな色が混ざってる。なんか1度2つおいしいみたいな」
「わけわかんねぇ」
「一馬は想像力が豊かじゃないねー」
「ほっとけ!」
まだ飛んでいくシャボン玉。上へ上へ。
「だけど、振れれば壊れちゃうんだよ。脆いよね」
「何が言いたいんだ?」
「つまり!いろんな才能持ってる人でも、触れれば壊れちゃう脆い人だっているってこと」
「よくわかんねぇ」
「わかんなけりゃそれでもいいよ」
そしてはまたシャボン玉を飛ばす。高く上へと上がっていくシャボン玉は俺が触った瞬間、パチンと割れた。
儚いな。なんとなく。せっかく上へいく力があるのに、誰かに割られたらなんにもなんねぇ。
人の夢、みたいだ。
ん?ちょっと待て・・・。、もしかして・・・。
「俺のことか?」
「なにが?」
「いろんな才能持ってる人でも触れれば壊れる脆い奴って」
「さっすが彼氏!わかってるねぇ」
「お前それ完璧にけなしてんだろうが!」
「ヘタレなかじゅまが悪い」
「かじゅまって言うな!!」
「自分でもかじゅまって言っちゃってることに早く気付こうよ」
ちくしょう、の奴。そんな皮肉をこめてシャボン玉を飛ばしてたのか?
最初はちょっと幻想的でいいなとか思った俺がバカだった。
どうせ俺はヘタレだよ。ナイーブだよ。ちょちょ結びができねぇよ!!←ヤケ
「あ、家着いた」
そうこうしているうちにん家に到着。門を開けて、門越しに俺と向き合う。
「送ってくれてありがとね、一馬」
「おう。じゃ、おやすみ」
「あ、待って!」
歩き出した俺を止める声に、俺は再び振り返る。
そこにはちょっとだけ赤くなったの姿。そして彼女はこう言った。
「あのシャボン玉、一馬のこと想って飛ばしてたんだよ!」
おやすみ、と家の中に入っていく。
取り残された俺の顔も真っ赤に染まる。いきなりそんなこと言うか?普通。
やられた。でもすっげー嬉しい。
「シャボン玉、ね・・・」
なんだか悪くないかもな、シャボン玉も。
俺はくるっと方向転換して自分の家を目指す。
久しぶりに鼻歌なんて歌いながら、上機嫌で。
ふと、空を見上げれば
そこに広がるシャボン玉。
シャボン玉っていう単語がふと浮かんできて・・・;
花月
